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「神様、聞きたい事は沢山ありますが、まずは一ついいですか?」
「急に聞き分けが良くなったのは気になるけど、いいわよ。何?」
「俺は何故こんな所に来たんですか? 死んだら誰でも来るんですか?」
「いきなり核心じゃない」
だってこれが一番に聞きたい疑問だった。言い方は悪いが、毎日世界中では沢山の人が亡くなっているだろう。もし、死んだ人が皆ここに来るなら目の前の金髪巨乳美女がエンマ様という事になるような気がする。
「ココに来れるのはね、本当に特別な人だけなのよ」
「はぁ、そうですか。あの、例えば?」
確かに俺は人を庇って死ぬという、ある意味特別な死に方をしたと言える。そういう事だろうか。
「あなたが庇った女の子、十愛ちゃんには夢があったでしょう?」
俺は浅田さんとの会話を思い出す。あれはいつだったか。夏休みのゲームの予約をしに行った時だったはずだ。確かに言っていた。
浅田さんは体が弱く学校にあまり来れなかった。沢山勉強をして、そして、
「ゲームのシナリオライターになりたいと言っていました」
共通の趣味であるゲームのロレイユ戦記。あの日に沢山話しをした。楽しそうに話す浅田さんを思い出した。
「いや、そっちじゃなくて」
「え?」
「もう一つ言っていたでしょう?」
「えっと、何だっけな」
否定された為に、さらに俺は記憶を探る。あの日の事は、帰ってからも何回も会話を思い返した。好きな人と話す時は皆んなそんなもんだろう。あの五時間を思い返すと、すぐに思い出した。
「あの、思い出しました。異世界転生。異世界に転生したいって言ってました」
「その通りっ」
パチッと指を鳴らす神様。どういう事だろう? ここは死後に来た謎の空間。目の前には金髪巨乳美女の神様。
「あの、まさか」
「十愛ちゃんを異世界に転生させてあげる。あの子の夢を叶えてあげる」
「ま、マジで!?」
「うん、マジで」
コクリと頷く。軽いな、神様。でも、良かったね、浅田さん。
「そうですか。あの、もう一つ疑問があるんですが」
「はい、どうぞ、勇吾くん」
「俺がここに呼ばれた理由は?」
神様は今まで俺の事は言ってないな。浅田さんを異世界に転生させるのを何故わざわざ俺をここに呼んで言うのだろうか?
「君も異世界に転生させてあげようか?」
「えっ、ホントに?」
「ホントに」
コクリと頷く。
異世界転生。考えた事なんてなかった。このまま天国に行くよりは浅田さんがいる世界に行った方がいいに決まっている。
「よ、よろしくお願いします」
「そうこなくっちゃ!」
そう言うと、神様は開いた両手を上に挙げた。口で何かブツブツ言っている。
次に俺の周りが光に包まれた。それを見て、「よし、成功!」とガッツポーズをする神様。
「断る事はないだろうと思って、もう準備はしていたの。もうすぐ君は転生されるわ」
「あ、ありがとうございます」
もう後は消えるだけだからと神様は腕を下げている。
「感謝しなよ。異世界でハーレムが出来るように色々フラグを立てておいたから」
「え、ハーレム? それは結構です。俺は異世界でも浅田さんと知り合いたいですし、今度こそ、その、告白したいから。もし、会った時にハーレムなんて作ってたら嫌われちゃうじゃないですか」
「え、そうなの? なんて無欲な。それに十愛ちゃんとは違う異世界に送るつもりだったんだけど」
「えー、困りますよ!」
俺は神様に走り寄り、肩を揺すりながら言う。
「今から浅田さんと同じ世界に送る事は出来ませんか? お願いしますよ、神様ぁ!」
肩を揺するたびにたぷんたぷんと揺れる胸に今は全く目がいかない。神様は、「分かった、分かった」と両手を挙げる。
もう俺の体は消えかかっている。神様は早口で何かを呟いている。
「早く、神様!」
「ちょっと焦らさないで。よし出来た!」
「本当ですか! やった!」
体は上半身から消えるらしく、今頭が消えていた。どういう理屈か耳は聞こえる。目は見えない。安心すると、最後に神様の胸を見ておきたかったと思う。
「ありがとうございます。神様の事は一生忘れません」
見えないが御礼は言えた。返事はない。もう、声は聞こえないんだろうか。じゃあ、最後に大声で言おう。聞かれてないなら恥ずかしくないし。俺は神様にそれだけ感謝してる。
「神様、本当にありがと」
「やばっ、ミスってる」
ボソッと呟やく神様。俺の声聞こえてたんだ。いつになく真剣な声に冗談じゃない事が伺える。そして、また何かをボソボソと呟き出した。
「……え、ミスってどんな?」
恐る恐る訊ねる俺。呟き終えて、神様が言う。
「ハーレムフラグは消し切れてないわ。さらに」
「そんな。まだあるんですか? 何ですか?」
「十愛ちゃんは前世の事を忘れてる。君の事もね」
「えー!」
どうにかして下さいよ! と神様に詰め寄る。また肩を揺すろうと両手を伸ばすと、頭の次は足が消えた。なんでその順番だ!? バランスを崩してしまった。
「うわっ」
「きゃっ」
倒れてしまったようだ。危なかった。まぁ、この神様の空間だから怪我とはしないだろうが。
手もしっかり付いた。目が見えないのに何という反射神経。もう、俺の体で残っているのは首から腰の上半身だろう。まだ両手は感覚がある。何か柔らかいものを揉んでいる。
「神様、どうにかして下さい!」
「もう遅いかな。でも安心して。何かキッカケがあれば思い出すだろうから」
「キッカケって言っても……」
「そんな事よりさ、いつまであたしのおっぱいを揉んでるの?」
「へっ? うわー、すみません!」
神様の胸を揉んじゃった。柔らいな。
そこで全身が消えたのが分かった。ついに転生する! 浅田さんは俺の事を覚えてないのか。キッカケって例えばどういうのだろう?
「しょうがない、あたしもサポートしてあげようかな。久しぶりに実世界に降りよう。じゃあ、向こうでね!」
最後に神様の声が聞こえた。それを最後に何も聞こえなくなった。でも、両手の胸の感触はまだある。見えないが、分かる。十五歳の俺の手でも覆い隠せないぐらいの大きさだ。
その感触はいつまでも消える事は無かった。