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 夏休みに入ると、俺は夏休み中だけの短期のバイトを始めた。コンビニだ。

 秋に自分の好きなゲームが出る為、その費用を稼ぐのだ。


 皆んな知っていると思うが、ゲームは色々な特典が付く事が多い。豪華なパッケージ、キーホルダー、ミニフィギュア、ダウンロードコンテンツは今なら当然だろう。サウンドトラックCDが付いている物もある。そのうち攻略本が付いてくるのではないだろうか。


 その為、値段は軽く一万円は超える事が多い。一万超えは高校生にはキツい。でも、今度発売になるゲームの為ならバイトも辛くない! それでなくても、今同級生の皆は暑い中で毎日部活に励んでいる。俺も週五でバイトだ。涼しいコンビニで。



 そんなある日だ。いつも通りにバイトに励んでいた。その日はお客さんはあまり多くなく、レジから出て品出しや商品棚の清掃をしている時間が多かった。いつ客が増えるか分からない為に、レジ外の仕事を行っていた。やり始めると意外と忙しい。客が店内に入ってきても客の方を見ずに「らっしゃいませ~」と気のない挨拶をしてしまっていた。


 忙しくバタバタしていると、俺の後ろで立ち止まった二人組みの客がいた事に気配で気付いた。しかもその客は、俺を気にしているのか顔を覗きこもうとしたり、ヒソヒソと話をしている。何だろう? 聞きたい事でもあるのかな? と思いその客を見た。


 その二人組みは俺のよく知っている人達だった。学校でいつも見ている。浅田さんの友人二人だった。


「……あ、い、いらっしゃいませ」


 クラスメートにぎこちなくなってしまった。それも当然といえば当然なのである。この二人組みとは全く話した事が無いのだ。


「こんにちは」

 友人Aが言う。

「相川くんってここでバイトしてるんだ」

 友人Bが言う。

「うん。夏休みだけだけどね」

 俺が言う。

「「「………………」」」


 会話が全然続かない。それはそうだ。俺からすれば浅田さんと仲が良い二人だというだけで、接点なんて無い。席が近くなった事も無い。そもそも二人が俺の名前を知っていた事にも少し驚いた。でもこのまま変な沈黙は気まずくてテンパってしまった。何か喋らないとと思って言った。


「今日は浅田さんは一緒じゃないの?」


 沈黙を破った俺の言葉。つい浅田さんの名前を出してしまった。どうしよう。何で十愛? とか思われてないかな?


 心配だったが、二人は表情を変えずに言う。

「うん、今日は一緒じゃないの」

「そうなんだ。学校ではいつも一緒にいるよな」


 浅田さんは最近休みが多いけどっていうのは言わなかった。二人なら仲が良いから休む理由を知らないかなと思う。思い切って聞いてみようと思った所に友人Bが口を開いた。


「十愛は今日も体調が悪いみたい。家で安静にしてる」

「そうなんだ」


 体調が悪いというのは少し気になる。遊びにも行けないぐらい悪いんだろうか。七月になってあれだけ休むんだからただの風じゃない気がする。


「ふふふ、心配? 相川くんって十愛が学校で唯一結構喋る男子だよね」

 突然の友人Aの言葉に驚いた。そりゃ心配である。でも、浅田さんってあまり男子と喋らないんだ。言われてみれば見ない気がする。もし見ていたらかなりの嫉妬をしていたかもしれない。その日眠れないぐらい。


「う、うん、ま、まぁ心配だよ。……浅田さんって男子とはあまり仲良くないの?」

「う~ん、十愛は可愛いから目を付けてる男子は多いみたいだけどね。でも仲良く話してるのは相川くんぐらいだよ」


 友人Aの仲良く話してるのは俺ぐらいっていうのは嬉しかったが、目を付けてる男子は多いっていうのが頭に付いた。やっぱりそうなのか。そうなれば、逆に言えば学校を休んでくれた方が助かるか? でもそれでは俺も浅田さんに会えないし喋れない。大きな葛藤だ。


「相川くんが心配してたって十愛に言っといてあげる」

「その代わり少しまけてよね」

「うん、言っといて。代金はまけれないけど」

 友人AとBは、そう言うとバイバイと手を振り店内を見て回り出した。俺は仕事に戻った。


 夏休み中の思わぬ浅田さんの友人二人の来客。どうせなら浅田さんにも来て欲しかったが、今日は二人から色々聞けた気がする。


 可愛いから目を付けている男子は多い。やっぱりそうなのか。でもあまり男子とは喋らない。話すのは俺ぐらい。これは意外な気がしたが、確かに浅田さんが男子と話しているのはあまり見ない。そして、体調不良で家で安静にしてる。


 嬉しい事や心配な事が色々分かった。夏休みが終わるのは嫌だが、早く学校で浅田さんに会いたい。

 そう言えば、登校日には来るのだろうか? 学校へ行くのがこんなに楽しみなのは初めてな勇吾だった。

 結局一回目の登校日に浅田さんは来なかったが。



 夏休みも二週間が過ぎた頃、この夏で一番楽しみにしていた日になった。

 今秋に発売される《ロレイユ戦記Ⅲ》の予約開始日だ。


 遂に来たこの日。店へ向かう。


 今までネットを見てどの店で買おうか、どれだけ頭を悩ませた事か。店それぞれが魅力的な特典を準備し、それがゲーム好き、ロレイユ戦記好きを悩ませた。


 俺は悩んだ末に選んだ店に向かった。


 店に着くと、店内は客でごった返していた。予約客も結構いるみたいだが、一般客もいる。この店は休日に来るといつも混んでいる。まぁ、俺は学生だから平日に来た事は無い。夏休みは面倒だと思う。


 早速予約をしようとレジに向かった。店内にはロレイユ戦記Ⅲの広告が大きく貼り出されている。さすがは人気ゲーム。


 この日はレジ横にロレイユ戦記Ⅲ予約専用カウンターが設置されていた。予約開始初日という事で店側も気合が入っている。ちょうど今は予約客がいないみたいなので、早速予約をしに向かった。


 必要事項を記入し、控えを貰う。予約が完了してカウンターを離れる。そんな時だった。


「あれ? 相川くん?」


 女の子の声だ。こんな所で誰だろう? そう言えば、数分前から後ろに誰かが並んでいた様だ。その人かな? でも、何で女の子が俺を知っているんだろう。


 振り向くと意外すぎる子だった。

「あ、浅田さん!」

 浅田さんだ。こんな所で会うなんて本当に意外だ。ここにいるって事はゲームの予約だろう。共通の趣味が分かり、飛び上がるぐらい嬉しかった。

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