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俺は一人の女の子に恋している。
俺は相川勇吾。十五歳。高校一年生だ。
まぁ、高校生が恋をするというのは当然の事だろう。この学校にも沢山のカップルがいるし、このクラスにもいる。
その子は多分、彼氏はいないと思う。友人との会話や、性格的にいないと思う。希望も兼ねて。
休み時間は友人と静かに話している。大きな笑い声を出す事も無い。
彼女の名前は浅田十愛。
出会いは高校入学時だ。
お気付きだとは思うが、俺の苗字は相川で彼女は浅田である。出席番号が一番で隣同士だった。クラスで一番右端の列の一番前が俺の席で、その左隣が浅田さんだった。
俺も浅田さんもクラスメートに同じ中学からのメンバーがいなかったから、最初は二人とも少しだけ孤立していた。
まぁ、そんな訳で隣同士という事もあり、四月の初めは会話があった訳である。
パッと見が美人で、物腰が柔らかくお淑やかな浅田さんに俺はすぐに恋をした。一番最初に目を付けたのは俺だったと自信がある。
そして、五月になった。一ヶ月経って俺も浅田さんも友人が出来、クラスにも慣れてきた時にそれは唐突にやってきた。《席替え》だ。
まずは目が悪く、前の席がいい人を募る。いかにもという二人が名乗りでた。
そしてついに本番だ。まずは学級委員が人数分のクジを作成した。それを適当な箱に入れる。目が悪い人を除く三十八人分だ。
次にクジを引く順番だ。あまり興味が無く何と無く成り行きを見守っていた勇吾が一番クジを引くことになった。理由は簡単、出席番号が一番だからだ。浅田さんも女子の一番だけど、俺が一番クジになったのは苗字の二文字目が俺は“い”であるが、浅田さんは“さ”で、あいうえお順で前だからだ。それで俺が一番、浅田さんが二番になった。
「ふふっ、負けちゃった」
浅田さんは笑いながら言った。
教室の机に座っているからその距離は二メートルも無いぐらいだ。授業中に机に座って左を見れば浅田さんの横顔。普段はおとなしく、さっきも言ったがお淑やかな感じの浅田さんだが、授業中には色々な顔を見せる。ただ黙って授業を聞いているだけではない。
「ん? むぅ~……」
これは授業の内容が難しい時。
「……ふ……ふあぁぁ~……」
欠伸。眠いのか? 欠伸はよくある。
「いっ! ……ヤバイよ……」
先生に、「次の問題は誰かに当てるぞ」と言われた時。浅田さんに見惚れていて油断していた俺が当てられて答えれなかった事がある。その時は、浅田さんが小声で「享保の改革だよっ」と教えてくれた。
「……ん? 私の顔に何か付いてる?」
浅田さんを凝視しているのがバレた事が一回だけある。「い、いや~、ボーっとしていただけだよ」と誤魔化しておいたが、どうかな。「ふぅ~ん。ならいいけど」こんな反応も可愛い。
クジを引き、席に戻る。浅田さんもクジを引き終えたようで席に戻ってきた。そして、次々にクラスメートがクジを引く。ふと気付いたが、俺は男子の席のクジ、浅田さんは女子の席のクジ。別にどっちが一番でも変わらないよな。
全員がクジを引き終わった。自分の席を確認したクラスメートが一喜一憂、阿鼻叫喚を上げる。
一番人気は一番後ろの席。何故だろう? 先生に隠れて寝れるという人がいるが、生徒は机に座っている。先生は教壇の一段高い位置に立っている。絶対見えるよ!
「ねえ、相川くんはどこの席?」
席替えに興味が無く上の空だった俺に浅田さんが声を掛けてきた。
「えっと、俺はこの列の一番後ろか」
「あっ、一番後ろの席なんだ。良かったね~」
そう、俺はこの列の一番後ろになったというだけの変化だった。皆が羨ましがる一番後ろの席だが興味無い俺はどうでもいいかな。
そこで、ある事に気付いた。浅田さんはどこの席だろう? 興味が無かった席替えだが、急に不安になった。離れるかもしれない! 今までは左隣りを見れば浅田さんがいた。こんなに学校が楽しい事は今までなかった気がする。少し身なりにも気を付け始めた。特にヘアースタイルには自信がある! 香水が欲しいな、と言うことで、バイトをしようかなと思った事もある。男子は恋をすればカッコ良くなるのだ。女子だけの専売特許だと思わないで欲しい。それなのに……
「私は一番左の列の一番前なんだ~。また一番前か~。あー、相川くんとは席が離れちゃったね」
これは俺には死刑宣告に等しい。
実際に席を移動すると、高校で仲良くなったヤツと前後の席になれた。ようやく出来た友人だ。大切にしなければ。しかし浅田さんと席が離れてしまった方が俺には堪えた。この時から俺の学校の楽しさが半減した。