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第三話

 翌朝、例の森にいってみると簡単に婆さんとつながった。


 オレは美咲を見た人に出会ったことと、ここを離れると通話が出来なくなるという事を伝えてとんぼ帰りした。往復するだけで結構な時間が掛かるのだ。早く帰らないと日が暮れてしまう。ちなみに、当然ながらパンがどっさり増えた。


 今日も駐車場は空っぽだった。こればっかりは待つしかないのであきらめるしかない。


 さてこれからどうするか。


 昨日の魔物の事を考えると、最低でもこの村の人達くらいには戦えるようになっておきたい。テスタ城の周りにはもっと強い魔物がいるかもしれないし。


 よし、シダ爺に聞いてみよう。道具屋にいくと、出迎えてくれたのはシダ爺ではなかった。


 「いらっしゃい。あら?昨日はありがとうね。あんなもの持ってるなんてビックリしたわよ」


 ポーションをくれた女の人だった。

 「父さんなら村長のところに出かけたわよ。そろそろ帰ってくると思うけど」

 「ととと、父さん?」

 「ええそうよ。あたしは娘のシモーヌ。よろしくね。あなたはカズマだったよね?」


 これは驚いた。シダ爺とは全然似ていない。

 あらためて見ると美人だった。昨日はそれどころじゃなかったので気がつかなかったが。

 年齢はオレより上のような気がするが、三十は間違いなく超えてなさそうだ。

 討伐隊に加わっていたということは、この人もそれなりに戦えるということか。オレは適当に誤魔化しながら事情を話し、どうやって修行したらいいか聞いてみた。


 「うそ、信じられない…。二日前のラス君との戦闘が初めてですって?そんな人を討伐隊に入れるなんて、父さんどうかしてるわ。本当にごめんなさいね」


 なんか話があらぬ方向に行ってしまった。

 「でも強くなるには、やっぱり魔物と戦って鍛えるしかないわね。ウチの村では、ラス君を倒せるようになるまでは大人が訓練するんだけど、それ以降は全て実戦よ」


 すでにラス君を倒せるオレとしては、もう実戦しかないということか。



 「あ、父さんお帰りなさい。カズマが来てるわよ」


 シダ爺が帰って来た。顔の割には愛想のいいシダ爺だったが、何やら気難しそうな顔をしている。

 「何かあったの?」

 その表情を読んで、シモーヌが疑問を投げかける。

 「シータ達がテスタ城から帰って来たというんで、村長のところへ話を聞きに行ったんだが、困ったことになりそうだ」


 テスタ城から帰ったということは、昨日言ってた腕の立つ人達の事だろうか。

 「噂で聞いていたとおり、テスタは西のほうからくる魔物の大群に苦しんでいるらしい。戦力不足が深刻化していて何とか近隣の村からも出してくれないかと強くお願いされたみたいだ」

 「でも、彼らが居ないとこの村も危険よ」

 「仕方がないさ。そもそもテスタ城がやられてしまえば、この村も終わりだろう。とは言うものの村も守らなくちゃいかん。だから村長と話し合った結果、シータ達以外のメンバを出すことにした。テスタ城からは怒られるかもしれないが、やはりこの村には彼らが必要だ」


 なかなか深刻そうだ。オレとしても、美咲がいるかもしれないテスタ城が落ちるのは困る。


 「メンバーはどうやって決めるの?」

 「それは自分達で名乗り出てもらう。テスタ城が苦戦するほどの魔物だ。当然、無事に帰ってこれる保証はない。こちらから無理に指名できないさ」


 そこでシダ爺は一旦言葉を区切り、シモーヌを見た。


 「だから俺もメンバに加えてもらう。シモーヌ、悪いが店を任されてくれないか」

 シダ爺に僅かな緊張の表情が浮かんだ。まるでシモーヌの反応を恐れているように。何故かオレもつられて緊張してきた。


 「父さん、冗談はよしてよ。そんな持病持ちの老体で魔物相手に連戦できるわけないじゃない。テスタにはあたしが行くわ」


 シモーヌの強い意志を受けて、シダ爺の緊張した表情が徐々にあきらめの表情に変わっていった。

 「お前のことだから、この話を聞けばきっとそう言うだろうと思ったよ。何とか店に縛り付けてしまおうと思ったが無理だったようだな」

 「そういうこと。父さんも言ったとおり、テスタ城が落ちたらどうせここに居ても同じよ」


          ◆


 翌日、テスタ行きの馬車の前に名乗り出たメンバが集まっていた。ハーブ採取エリアの魔物討伐のときに一緒だったメンバがほとんどだった。


 全部で十人。当然、一晩で気が変わるわけでもなくシモーヌが居た。

 シモーヌの強さは良く分からないが、少なくともこの村での『腕の立つもの』の中には入ってないらしい。ということは無事で済まない可能性があるわけで。

 「よかったらコレを使ってくれないか」

 その場の空気に耐えられなくなり、オレは爆魔石を出してしまっていた。


 「ありがとう。でもそんな高価なもの受け取れないわ。気持ちだけもらっておくね」

 シモーヌにニッコリと流されてしまった。


 「そうだ、カズマは確かテスタの城下町に行きたいとか言ってなかったか。よかったら、この馬車に乗っていけばいい」

 シダ爺が、またまたとんでもない事をいいだした。そりゃあ乗せてってもらえるのは大変ありがたいが、さすがにこの馬車に乗るのは気がひける。しかし、

 「そうなの?じゃあちょうど良かったじゃない。わたしも心強いわ」

などと笑うシモーヌの言葉により、またまた半強制的に馬車に乗ることになってしまった。


 テスタ城までの道のりも魔物が出た。最初のうちはラス君だけだったので、馬車でそのまま突っ切った。馬車で蹴散らしながら。


 しかし、進むにつれてラス君の数が減っていき、緑色の芋虫のような形をした魔物がでるようになってきた。グリーンワームと言うらしい。こいつは馬車で蹴散らすことが出来ないらしく、近くに現れたときは馬車を降りて退治しないといけないとのことだ。ゴブリンよりも弱いから大丈夫だよと教えてくれた。


 早速、その時が来たのでオレも馬車から降りて退治に加わった。本当だ、コイツには攻撃が当たる。ガンガン当たる。もしかして楽勝?しかし、反撃を受けたときに思い知った。


 ゴブリン並みに痛てぇ…。


 攻撃力は同じぐらいみたいだ。こちらからの攻撃はあまり空振りにならないため、何とか戦えている気はする。オレはシダ爺の道具屋で大量に仕入れた緑ポーションを使いながら魔物を退治した。ポーションが尽きない限り大丈夫だ!


 でも尽きたら終わりだ。


 周りの村人たちは、ほとんど無傷のようだ。何とか倒せたが、村人のように楽勝ではなかった。馬車の中でオレは一人居心地が悪かった。


 「すごいね、カズマは。とても魔物退治暦三日には見えないわよ」

 そんなオレをシモーヌが褒める。

 やめて欲しい。


 「本当か、兄ちゃん? ワシなんか初めてラス君と戦ったときなんかは、こわくて逃げ出したもんだよ」

 隣に居た村人も言う。

 オレもパニックになって逃げたんだけどね。


 「ワシは最初のうちはなかなか魔力のコントロールができなくてなぁ、ラス君から攻撃を受けたときに死にかけて、親父がものすごく慌てたことがあったな」


 また魔力のキーワードが出た。今までの経験から、この世界では常に魔物と隣り合わせだと言うことが分かっていた。それであれば、当然、今より強くなる必要がある。聞くとテスタ城の周りにはゴブリンよりも強い魔物も生息しているらしい。


 オレは変に思われることを承知で尋ねた。

 「オレは今まで魔物とは無縁の場所に住んでて、魔力というものが何かすら分からないんです。オレにも使えるんでしょうか?」


 皆の反応は、予想していたよりも随分大きかった。


 「確かに今のあなたからは魔力が感じられないけど、それは抑えているだけじゃなくて本当に無いの?」

 シモーヌが怪訝そうに尋ねてくる。


 「そう、だと思うけど」

 「魔力を体に込めて戦わないと、大人でもラス君の攻撃に耐えられないわよ。ゴブリンの攻撃なんか受けたら一撃で死んでしまうわ」


 オレは無意識の内に魔力を込めていたのだろうか。確かにゴブリンの攻撃は何度か受けても死にはしなかった。決して大丈夫ではなかったが。


 「そうだ、これ使ってみて。うまく魔力を引き出せない子供が使う薬だけど、これを飲めばしばらくは安定して魔力を引き出せるの」


 早速薬を飲んで見ると、体の中心部から熱いような冷たいような、感じたことのない感覚が湧き上がって来た。確かに、体の中に何らかのパワーを感じる。


 「これが魔力?」

 「そうよ、カズマの魔力を感じるわ。本当に今まで使ってなかったの?驚きだわ…」


 オレは村人達に意識を向ける。かすかに、オーラのようなものを感じ取ることができた。これが、この人達の魔力なんだろうか。

シモーヌのほうに意識を向けると、さらに大きなオーラを感じる。なかなか強いように思えた。


 「シモーヌの魔力もわかったような気がする」

 「ふふ。わたしは普段、魔力を抑えるのが下手なの。他の人達は大分抑えてるから、あまり感じ取れないと思うけどね。カズマ、あなたも人並みに魔力があるみたいよ。安心して」


 オレの魔力を感じ取ったシモーヌが教えてくれた。人並みらしい。この薬を元の世界に持っていったら、あちらでも使えたりして。


 「また出たぞ」

 グリーンワームが来たらしい。よし、この状態で戦ってみよう。

 と思ったら、パワーが抜けていった。

 「消えてしまった…」

 「そうね、数分で効果は消えてしまうわ。あくまで、魔力を引き出すトレーニングのための薬なのよ」


 それは残念だ。毎回薬を服用するわけには行かないし、そもそも効果が持続する時間が短すぎる。


 オレは皆には申し訳ないが、馬車の中で何とかさっきの感覚を引き出そうとしてみる。

 しばらく頑張っていると、一瞬、自分の体が軽くなった瞬間があった。


 これか。


 大丈夫だ。自分の意思でちゃんと魔力を体に込めることができるみたいだ。

 よし、実戦だ。


 グリーンワームへの攻撃にあわせて、その力を引き出す。


 「ぐあ」


 失敗した。

 攻撃に転じた瞬間に魔力が抜けていった。動きもぎこちなくなり、逆に魔物から一撃を受けてしまった。右手で丸を描きながら左手で四角を描くような、そんな難しさがある。


 しかしポーションを使いながら、何度かトライするとだんだんとコツが掴めてきた。

 ここだ。この瞬間に魔力をこめる。


 ようやく成功した。結果、なんとグリーンワームを一撃で仕留めることが出来た。


 「やるじゃん、カズマ。実戦でトレーニングなんて格好いいよ」

 シモーヌの冷やかしにストレートに笑って答えるくらい嬉しかった。


 「もし美咲が見つかって目的を終えれたら、オレもシモーヌ達と一緒に魔物退治に行くよ」

 「ふふ、ありがとね」


          ◆



 その後も馬車は順調に進み、テスタに到着した。

 テスタの城下町で馬車から下ろしてもらい、お礼を言ってシモーヌ達を見送る。


 さて、なにはともあれ宿だ。

 マニラの村と比べると、さすがに大きい。城下町というだけのことはある。すでに日も傾いてきていたので、最初に見つかった宿に泊まることにした。二百ゴールドだった。明日はもう少し安い宿を探そう。ちなみにゴールドは、やっぱり千切って使うものだった。良く見ると小さな目盛りがついてて金額が分かるようになっている。金額を思い描きながら千切ると大体良いくらいの長さで切断される。あとは微調整すればよいだけだ。


 翌日、早速道具屋をみつけてイミテーションダイヤと金メッキ指輪を見せてみる。

 「お客様、これは大変めずらしい品でございますね」

 ダイヤのほうに興味津々だった。

 「このような品は見たことがございませんので、値決めが難しゅうございます。しかし、おそらく美を好む高貴な方にお求めいただけると思いますので、一万ゴールドでいかがでしょうか」


 イミテーションのダイヤに値がついた。とはいうものの、実際に貴族に売れるかどうか、道具屋の店長も疑問らしく、とりあえず一個だけしか買い取ってくれないらしい。まずは一万ゴールドで手を打った。

 随分とグリーンワーム戦でポーションを使ってしまったので、ここで補充しておく。


 一個一個の金額は安いが、まとめて買うとさすがに財布を圧迫するな。武器や防具を買える日はいつになるのやら。


 続いて見てもらった金メッキ指輪は残念ながら価値無しだった。この世界にも金は存在して実際に装飾品等に利用されるが、質の悪い金は、ゴールドの材料にされるらしい。この不思議な黄色のチョークのようなものは、質の悪い金を魔法で加工したものだったのだ。だからこんなに便利にできているのか。

 そして、オレが渡した指輪は、ゴールドの材料にすらならないくらい、質が悪いとのことだった。メッキが剥がれたってやつだな。


 道具屋を後にしたオレは、目的である美咲探しに取り掛かった。といっても、適当に写真を見せながら聞き取りをするだけだが。『しらかば』のおかみさんによると、テスタ城に連れられたのは間違いないはずなんだが、誰一人として見たものは居なかった。

 翌日も全く成果がなく、オレは気分転換のために少し町の外に出ることにした。


 シモーヌ達から教えてもらった魔力をもう少し試してみたかったのである。


 町の外に出て、グリーンワームを探していると違う魔物に襲われた。犬だ。さっき町の人に聞いた話からすると、こいつがパウンドドックとかいう奴に違いない。形は犬だが全身は昆虫のような殻に覆われている。結構硬そうな気がする。


 グリーンワームを楽に倒せるのであれば、大丈夫だと言われていたので問題ないだろう。オレは体の中心に意識を集中して魔力を集めてみた。初めてやったときと比べれば、随分と素早く確実に出来るようになったと思う。この状態になれば、素早く動けるし攻撃力もかなりアップする。防御力もアップするらしいが、まだ魔力を使えるようになってからは、攻撃を受けたことが無い。わざわざ試すのも嫌だしな。


 パウンドドックが飛び掛ってきたのをするりと避けて、背後から剣を振るう。見事にヒットして犬は一撃で力尽きた。もしかして本当はオレって結構強かったりして?そんな優越感に浸っていると横っ腹に強烈な攻撃をくらってしまった。もう一匹犬がいたようだ。


 慌てて魔力を込めなおして体勢を整える。油断大敵だ。シモーヌ曰く、普段からずっと魔力を体にこめたままにしておかないと、今みたいにふい打ちを受けたときに危険らしい。まだまだ修行が足りないことを再認識されられた。


 更にもう一匹増えて、オレは二匹のパウンドドックと対峙していた。すると、背後から人の叫び声が聞こえて来た。何だか助けてくれと言っているような気がするが。対峙しているパウンドドックに注意しながら背後を見たオレは驚愕した。


 五〜六匹くらいのパウンドドックに追いかけられて逃げてくる人がいる。

 ちょっと待て、こっちにくんな。ここにも二匹いるんだ。


 そんな願いも虚しくオレ達は合流してしまった。


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