夕暮れの時
この作品はゲイ要素を含みます。抵抗がある方は見ないでください。
確かその日は午前中はよく晴れていたからバイトに行くときに傘を持っていかなかった。
後でそのことを後悔するのだが…
電車で10分の所にある大きな本屋のバイトをしている。
この日も仕事を終え、家に帰ろうとしたところで雨が降っていることに気が付いた。
『全くあんなに晴れていたのに…』
これからどうするか迷った。
『駅までは10分位だからなぁ。走るかいや傘を買うか、う〜ん…』
「傘ないのか?」後ろを振り返るとバイトの先輩が立っていた。
「はい。晴れてたんで…」と俺が言うと、
「天気予報だと降るって言ってたぞ。傘がないなら一緒に帰ろうぜ。まぁ傘は一本しかないけどな。」
つまりは相合い傘ってことだ。男2人で… しかし傘を買うのももったいないし男同士なら恋人とかにも思われないだろうと思い、お願いすることにした。
「じゃあ入れてもらおうかな。お願いします。」
しばらくして、
「お前俺のこと覚えてる?」と先輩が聞いてきたが実は覚えてなかった。
だから適当に、
「大庭さんでしたっけ?」と言ってしまった。
俺は覚えるのが得意でないし、確かこの先輩とは1,2回しか一緒にやってなかった。
先輩はやっぱりというような顔をして、
「違うよ。俺の名前は宮原慎士。
俺はお前の名前覚えてるよ。
高宮蜜だろ。
可愛い名前だな。」
と笑いながら言うもんだから言われ慣れているとは言え、ちょっとムッとした。
「ごめんごめん。悪気はないんだ。
それにお前の名前ってお前のその蜜みたいな髪の毛にぴったりじゃん。
」 そう言われたのは初めてだったから俺は嬉しくなる。
褒められるのはいいな。
「あ、そうだ。俺んちこの近くだから寄って行かない?」
「え!?でも電車があるし…」と言うと、
「少しだけだからいいじゃん。ってか行くぞ。」と半ば強制的に連れられたのだった。 部屋の中は遊び慣れている外見と反しきちんと整頓されてあった。
「何キョロキョロしてんだ?ここに座ってて何か持ってくるから。」と宮原さんは冷蔵庫へと向かった。持ってきたのはビール。って俺未成年なんですけど…。しかし先輩に断わるのも気が引けるし何より飲んでみたい気もした。だから俺は宮原さんに礼を言い飲むことにした。初めて飲んだ味は…
「苦い。」 「だろうな。でもすぐ馴れるよ。」と俺の感想に微笑みながら答えた。それから俺たちは住んでいる所とか家族の事とかを話していたと思う。何故断定しないかというと酔っていたから余り憶えていなかったからだ。朝目が覚めるとベッドの上にいて横に先輩の顔があった。泊まったらしい。とりあえずぼーっとしていると、
「おはよう。体は大丈夫?お前飲みすぎだよ。俺にあんなことするなんてな。」
「…俺何かしたんですか?記憶がないんですけど。」
すると宮原さんは困ったような表情を浮かべ、
「覚えてないならいいよ。それより腹減っただろ?ちょっと待ってろ、ご飯作るから。」
それから台所へ向かい、冷蔵庫から何やらとり出して作り始めた。
できたのは味噌汁、焼き魚、漬け物。
食べている間は2人とも無言だったが宮原さんは食べ終わると、
「蜜さぁ、いま何歳?」
「今は18ですね。今年大学生なったんですよ。」
「へぇじゃあ俺と2つ違うんだな。大学はたのしいか?」
「はい。高校の時と違ってレポートが多いですけど…」
「だろうな。まぁ大学ってのはそんなもんだからなれるしかないよ。
そういえば今日はないのか?」
「今日は昼からなんで。いま何時ですか?」
「今は…9時だな。もう帰るか?昨日と同じ服じゃなんか言われるだろ。」
「じゃあそろそろかえろうかな。あのごはんおいしかったです。
ありがとうございました。」
そういって宮原さんの家をあとにしたのだった。
今日の講義は全く身に入らなかった。俺は何か忘れてる気がしてそれどころろではなかったのだ。それを思い出そうとするのだが、おれのなかのなにかがそれを拒否した。
たぶん宮原さんの家でのことだろう。
おれはそのうち思い出すだろうと今日のところはバイトもないし疲れたので早く寝ることにした。
ベッドに入ってうとうとしていると突然携帯が鳴った。俺は誰だよと半ばいらつきながら、
携帯の画面を見ると『宮原慎二』の文字が…登録をした覚えがないのに。
とりあえず出ることにした。
「もしもし。」
「びっくりしたろ?蜜が寝てる間に登録しといた。で蜜にいま電話かけてみた。」
と笑いながら宮原さんが言った。
「そうなんですか。そういえば昨日何があったんですか?
俺今日ずっと気になってたんですよ。」
「…そんなに知りたいんなら明日うちに来い。そしたら教えてやるよ。」
「今話せないことなんですか?」と俺が聞くと、
「あぁ蜜が動揺するかもしれないし俺も蜜と直接話したいからな。
じゃあ明日蜜バイト入ってるだろ?俺もだから帰りに寄って行け。」
「わかりました。じゃああした。」
「おぅ。起こして悪かったな。おやすみ。」
と言って電話を切った。明日になればわかる。
しばらくして俺は眠りについた。
朝。鳥のさえずりと太陽の光で目が覚めた。
今日は講義が昼で終わるからバイトは3時からか。
とりあえずベッドから這い出て着替えて朝食を食べて家を後にした。
学校に門をくぐり掲示板を見る。…休講。昨日掲示板を見ていなかったのだ。
暇になった時間をどう過ごすかまよったが、結局駅ビルのCDショップで気になるバンドを
チェックしたりカフェでコーヒーを飲みながら課題のレポートを書いたりして暇をつぶしたのだった。
時計を見るともう2時だ。そろそろ行くか。
筆記用具などをかばんにつめ店を出て電車にゆられバイト先についた。
ロッカールームのドアを開けると宮原さんが着替えている最中だった。
俺は宮原さんの無駄のないひきしまった体につい目がいってしまった。
「何見てんの。おれのからだに惚れた?」と冗談っぽく言ってきたので思わず赤面した。
「早く着替えな。待っててやるよ。」
そう言われたので慌てて着替えた。その間宮原さんはじっとこっちを見ていたので俺は居心地が悪かった。
それからバイト中は2人とも話すことができないほど店は忙しかった。
終わったのは午後9時。
いつになく忙しかったため宮原さんの家に着いたときには眠たかったがここに来た理由を思い出し眠たい目をこすり宮原さんに聞くことにした。
「それであの日俺は何をしたんですか?」
と聞くと、
「そんなにいそぐなよ。とりあえず何か飲もうぜ。」
と宮原さんはあの日と同じようにビールを持ってきて俺に手渡した。
そしてかるく世間話をした後真面目な顔であの日のことを話し始めた。
「蜜さ、あの日結構酔ってて彼女にふられたとか言って急に泣き始めたんだよ。
で、おれはなだめながら何とかベッドに運んだらさ抱きついてきて、
『なぐさめて』言ってキスしてきたもんだから俺理性なくしちゃって…
俺ゲイなんだ。」
「あの、つまりやっちゃったてことですか?」
「そういうことかな…」
宮原さんは気まずそうに答えた。
しかし実を言うと俺は宮原さんのゲイ発言に気持ち悪さなど感じていなかった。
「あのそれは俺に欲情したってことですよね?」
「あぁ。というか俺は蜜のことが初めて会ったときから好きだったんだ。
だからあの時蜜が傘を忘れてチャンスだと思った。」
宮原さんの告白に俺の心臓の動きが速くなった。そして宮原さんの次の言葉に漸く
自分の気持ちに気付いた。その言葉は…
「俺と付き合ってほしい。」
俺の答えは決まった。
「はい。」
俺がそう答えたので宮原さんは驚いたようだった。当然だ。最近まで名前さえ覚えられて
なかった相手から付き合うと言われたのだから。
しかしおれに迷いはなかった。なぜならいま宮原さんに対して芽生え始めている感情に気付いてしまったし、なにより宮原さんといるこの時間は俺を無防備する。
そんなことはいつもの俺からしたら珍しいことだ。俺は常に人の間に壁を作っているし、感じている。
その壁を宮原さんといるときは感じないのだ。それに宮原さんという人をもっと深いところで感じたかったし、今日の宮原さんの体を見たときすでに関係をもったことにどこかで気づいていたのかもしれない。
俺の答えを聞いた宮原さんは何回も確認した。俺は苦笑しながら何回も答えた。
まだ宮原さんのように完全に好きではないけれどそれはまたこれから育んでいこう。
あの日夕暮れに雨が降ったことをはじめてお天道様に感謝した。
これでこの話は一応おしまい。
たぶん続きがある作品かと…というかこの作品は1日で書いたためはっきりいって駄作かな(汗)




