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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第1章 暗殺者(エリス編)
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第8話 ディーンの意思

 私たちは日も暮れかけた頃になって、ようやくギルド前へ辿り着くことができたのだが。


「なんか……凄く混んでいるわね」

「皆さん~ここで足止めされていますからね~仕方ないです~」


 狭い屋内には術士たちが、すし詰め状態だった。しかも建物の周りにも人が溢れている。

 ただの「足止め」ではない。そのような理由だけで特定の村へ大勢の者が、押し掛けてくるわけはないのだ。

 これらの大半は恐らく、討伐隊参加希望者だろう。この付近に魔物が大量発生しているということや、今日正式にギルドから発表があるという噂などを聞き付けて、事前に乗り込んできたとも考えられる。

 討伐隊に参加するということは、特に傭兵を生業にしている旅人にとっては、路銀を稼ぐ一番の方法でもあるのだ。


「これでは温泉にも~ゆっくり浸かることができませんね~。物凄く~楽しみにしていたのですが~」

「あんた、入る気でいたのね」

「勿論です~。折角他所で~この村の温泉マップを手に入れたというのに~非常に残念です~」

 エドは眉を顰めながら、青いマントの中から一枚の紙切れを取り出して見せた。

「そんなもの、いつのまに!?」

「この村を通るのなら~当然のことです~。エリスさんは違うのですか~?」

「……否定はしないけど」

 ここの温泉は疲労回復や神経痛、筋肉・関節痛、打ち身などにも効くらしいと、何処かで聞いたことがある。


「でもそうなると、宿屋の確保も無理そうね」

「街中で野宿ですか~」

「うーん、どうかな。もしかしたら野営場所を、ギルドが提供してくれるかもしれないわよ。これだけ村中に術士が溢れていたら、村民も迷惑だろうしね」

 その辺りのことは多分、なんとかなるだろう。今はそれより、ディーンたちを探すのが先決である。


「これだけ人が多いと、探しようがないわね」

「中へ無理矢理~突っ込んで行きますか~?」

「いや、それは止めておくわ」

 私は即座にその提案を棄却した。この人混みの中でまた、酔いたくはない。

「取り敢えず、この建物の周りでも一周してみる? もしかしたら中には入っていなくて、外に出ているかもしれないし」

 エドが私の提案に軽く賛成すると、私たちは建物の裏手へと回ってみた。


 流石に裏の方は正面よりも薄暗かった。日が落ち始めているので、点灯係の精霊術士が疎らにある街灯へ、明かりを灯しに来ていた。

 正面よりは人数が減っているようだが、それでも人影は途切れることがなかった。

 私たちが辺りを見回しながら丁度角を曲がった時。


「えー? 水の社から来たんですかー?」

「はっはっはっ、そうとも。なんと俺は、水の精霊ウンディーネの加護を受けた英雄なのだ!」

「まぁ、すっごぉーい!!」

「超イケてるぅー」

「英雄だなんて、メチャメチャカッコ良すぎですぅ」

 私と同年代くらいの女の子たち十人程が何かを取り囲み、賑やかな声で騒いでいる。私はそっと建物の陰に隠れた。


「エリスさん~アレックスさんがいましたよ~。でも何で僕たち~こんな所で隠れて見ているのですか~?」

「いや、なんだか急に他人のフリをしたくなっちゃって……」

 私はモゴモゴと口の中で答えた。

 あのような集団は昔から苦手なのだ。それに何となくではあるが、アレックスとパーティを組んでいると思われたくはないような気もした。


「エリス、エド、こんな所で何をしているんだい?」

 聞き慣れた声で振り向けば、背後の暗がりから人影がヌッと出てきた。あまりにもそこに溶け込んでいたために、一瞬で心臓が飛び出しそうになった。それが事前にディーンだと分かっていても、突然その格好で現れたら誰だって吃驚してしまう。


「あ……えーっと、アレックスを見つけたんだけど」

「おや、女の子たちに囲まれているのか。仕様のない奴だ。人目につかないところへ隠れていろと、言っておいたはずなんだがな」

「ディーンさんは~今まで何処へ~行っていたのですか~?」

「ああ、ちょっとギルドに用事があったからね」


 彼はそう言いながらスタスタと、アレックスたちのほうへ近付いていく。

「アレックス」

 その声で一斉に振り向いた少女たちはディーンの姿を目にした途端、悲鳴を上げながら脱兎の如く逃げていった。


「ははは…あのコたち、面白いように駆けていくな」

 彼女たちの後ろ姿を見ながら彼は不気味な笑み――というか、愉快そうに笑った。


「君たち、遅かったではないか。また迷子になったのかと思っていたぞ」

「その点はご安心を~。地図を持っていますし~それにエリスさんともはぐれないように~アレックスさんの仰った通り~しっかりと手を繋いでいましたから~」

「うむ。どうやら俺の発想が、功を奏したようだな」

 アレックスは顎に手を置いて、ウンウンと満足そうに一人で頷いている。


 そんな彼に向かって、ディーンは少し強い口調で咎めるように言った。

「とにかくアレックス、隠れていないと駄目だろ」

「む、何故俺がコソコソと隠れねばならんのだ。胸を張り威厳を保つことこそが、皆から尊敬され愛されるべき真の英雄たるものの姿であり、努めではないのか」

 逆に反論するアレックス。続けて何かを言いかけた様子だったのだが。


「分かった、分かったよ。どうやらお前に言い聞かせようとした俺が、馬鹿だったようだな」

 ディーンは降参したかのように肩を竦めると、溜息とともに両手を胸の辺りまで挙げた。それに対して「分かれば良い」とあっさり納得したアレックスは、それ以上何も言わなかった。

 やはりこういう場面ではこちら側から折れ、即座に話の幕を下ろすのが効果的なようだ。また一つ、勉強になったような気がする。


「ところで~ディーンさんはギルドに~一体何の用事があったのですか~?」

「そのことなんだが、俺はこの村では君たちと別行動をとることにしたよ」

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