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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第5章 異なる者(エリス編)
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第63話 その理由1

 彼女は私の質問に対して、更に言葉を続けた。

「だがギルドが把握できたのは、瘴気が発生しているということだけだ。

その後も調査は続いているが、内部調査ができず、詳しい発生原因も掴めてはいなかった。そのため、正式な発表をされてはいない」

「それじゃあやっぱり、あの中に入ったことがあるのは今のところ、私たちだけなのね」

「そうだ。だからここで事実を吐けば」

「分かっているわ。私たちの巡礼の旅も、ここで終わってしまう可能性が高いっていうことよね」

 私は強く頷いた。


 もし真実を第三者に伝えるとするならば、アレックスの能力のことも話さなくてはならなくなるだろう。

 だが事情を知らない者に『精霊の加護』能力のことを話したとしても、果たして直ぐに信用してもらえるだろうか。

 それがもし私だったなら、絶対に信じないと思う。例え能力を見せられたとしても、アレックスのことを魔物だと疑っていたはずである。


 人間が何の道具も使用せずに、精霊力を発動することは不可能なのだ。もしそれを使う者がいたとするならば、それはヒトでは有り得ない。

 それにアレックスだけでなく、同行している私たちまで疑われるかもしれない。良くて故郷への強制送還、最悪では処刑される可能性もあるのだ。


「あたしもここで足止めをされるわけにはいかないんでな」

「それなら、私だって同じよ」

 父には、この旅を必ず成功させると約束して出てきた。それを出だしから中途半端な形で、終わらせるわけにはいかない。


「だから、あんたたちもいいわね。『モンスター・ミスト』の中に入ったことは、今後一切、誰にも言わないこと!」

 私は二人に向き直ると、強く釘を刺す。

「う、うむ……致し方あるまい」

「わっかりましたぁ~」

 未だに何処か不服そうな態度のアレックスと、陽気な調子のエド。


 実は二人には事前に、そのことを伝えてあった。

 その時のアレックスは予想通りの反応で、「嘘を付くのは英雄として、あるまじき行為だ!」などと強く断ってきたのだが、私はそれを説き伏せることに成功している。



 名付けて、『口先だけでアレックスを丸め込む作戦』!



 彼の反応するであろう単語――リア(妹)、魔王、英雄…など――を会話の中へ随所盛り込み、大袈裟なハッタリなども噛ましつつ自然な流れで懐柔する、という戦法である。

 因みに、この命名は私だ。


 これはアレックスと付き合いの長いディーンが、よく使っている技である。私も時々説得する時に使わせてもらっているのだが、勿論この戦法は単純で頭の固い、彼にしか通用しない。

 今回私は「このままでは故郷に戻れず、鍛錬も積めなくなるかもしれない」というようなことを言った上で、彼が絶対服従するであろう言葉――『リア』のことを持ち出した。


 「リアが待っているんでしょ。故郷がどうなってもいいの?」と彼に問うと、途端に『そのこと』を思い出したのか、青ざめた顔であっさりと私の申し入れを受け取ったのだ。

 これも以前、ディーンがアレックスを説き伏せた時に使った技だった。


 妹のリアは、アレックスが黙って故郷を離れたことに、相当怒っているらしい。

 そこでディーンが「このままではリアが何をしでかすか分からない。今帰らなければもう二度と、故郷の敷居を跨げなくなるぞ」というような言葉でアレックスを脅し……いや、懐柔したのである。だから今回、それを少し真似してみたのだ。


 エドのほうは直ぐに「パーティリーダーである~アレックスさんの意見に従います~」と、いつもの軽い調子ノリで言ってきたので、そちらの攻略は簡単だった。

 とはいえ彼の中ではいつの間にか、アレックスが『リーダー』ということになっているらしいのだが。


「それよりエリス、さっきの話を詳しく聞きたいのだが」

「ああ…うん、いいわよ」

 ルティナが何を訊きたがっているのかを察した私は、彼女の元へ近付いていった。


「あの男のことだが……やはり本当なのか?」

「……ええ、確かよ。間違いないわ」


「エリスさんたち~何の話をしているのですか~?」

「話なら、俺も聞くぞ」

 私とルティナが小声で話していると、いきなり背後から二人が覗き込んできた。

「もしかして~僕たちに聞かれてはまずい~話なのでしょうか~?」


 鋭い! 流石は芸術士だ!!


 などと感心している場合ではなかった。私は二人のほうを振り向くと、とびきりの笑顔を浮かべて見せた。

「いや、ええっと……そ、そそんなことないわよ……あ、いや、だから……ッ!

そうっ!!

これから私たち二人、ガールズトークをするつもりなのよね。

だからあんたたちのような無粋な男が、途中で割り込んでくるのはどうかと思うの」

「がー……何だソレは??」

 アレックスが眉を顰めながら訊き返してきた。笑顔で誤魔化そうとしても、やはりこの言い訳は苦しかったか。

 しかし。


「それは大変~失礼致しました~。そんなこととは露知らず~僕たちはお二人に~野暮な真似をしようとしていたのですね~」

 エドは頭を下げて謝ると、戸惑ったままのアレックスを促し、あっさりと私たちから離れていった。彼は見かけによらず、わりと紳士なのかもしれない。


「取り敢えずこれで、何とか落ち着いて話ができるわね」

 彼らを追い払うことに成功した私は、額に滲んでいた汗を拭いながら、安堵の溜息を一つ吐いた。

「何なんだあんた、その無茶苦茶な理由は」

 何故かは分からなかったが、ルティナが半眼でこちらを睨んでいる。

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