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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第5章 異なる者(エリス編)
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第60話 タイムリミット

 黒い風のようなものが吹き荒れていた。

 中心にある種が高温だというから、近付くことさえできないほどの熱さなのかと思っていた。

 しかし実際に入ってみると、生ぬるい風が吹いているだけである。想像していたような、強烈な臭いも感じられない。


 とはいえ、気持ちの悪いことに変わりはなかった。

 生暖かい上に粘り気のある風圧が、直に肌へ当たっている。毛穴という毛穴にぺたぺたと貼りついては、隙あらば侵入しようとしているかのようだ。

 ゼリューの術によって瘴気を防いでいるはずだが、全身に鳥肌が立つくらいの気持ちの悪さである。本当にこの術は瘴気のみを遮断するだけで、その感覚までを防ぐことはできないらしい。

 だが例え気持ちが悪くても、それは我慢をすれば良いだけだ。近付くことが可能ならば、何も問題はない。


 『瘴霊の種』の鈍い輝きは、入り口付近からほど近い場所に見えていた。

 距離はそれほど遠くない。あれを破壊するだけだ。


 私は急いでそこへ向かう。が、剣を繰り出そうと身構えた瞬間、一陣の強い風が吹き上げてくる。

 気付いた時には身体が宙に浮き、外へ吹き飛ばされていた。


 それは一瞬の出来事だった。自分の身に一体何が起きたのか、瞬間的には理解できなかった。

 全身を強打していた私には、激痛が走っていた。だがそれに耐えつつ身を起こしてみると、目の前では何事もなかったかのように鎮座している、黒い塊が見えた。


 地面には血溜まりと、魔物の残骸が転がったままだ。鼻をつくような、酸味のある異臭も立ち上っている。どうやら服へも付着してしまったようだ。

 だがそんなことを気にしている場合ではない。私は自分を取り戻すと、再び中へ入っていった。


 が、結果は同じ。

 しかしここでも諦めるわけにはいかない。私は間髪いれずに今度は助走をつけつつ、三度みたび中へと入っていった。


「……! なんでっ!???」


 またもや同じ目に遭った私は、呆然と地面に座り込んでいる。

 吹き荒れる黒い風が私の身体をすくい上げるかのように、いとも容易く三度とも、外へ押し流してしまうのだ。


 最初に何故ゼリューが、周囲の瘴気を一時的に減少させようとしたのか。

 ここでようやく、その理由を理解できたような気がする。


 恐らくそれは、中で渦巻いている黒風が術だけではなく、外部からの侵入者をも排除するためだろう。

 人間である私には当然のことながら、瘴気エネルギーを体内へ蓄積することができない。つまり『養分』を持っていない私は『種』からしてみれば、『不要異物』というわけだ。


「でも何か……何か方法はないかしら」

 私は持っている短剣を見詰め、焦りながら必死に考えを巡らせていた。


 途端、視界が揺れる。

 何かが全身へのし掛かかってくるような、重い感覚。私の中に外部から、何らかの圧力が流れ込んでくるようだ。


「まさか」

 気付いた私は、自分の手の平を改めて確認してみた。先程まで透明に光っていたものの輝きが鈍く、薄くなっているように感じられる。




『俺が中和して、影響力を一時的に防いでいる。が、およそ三時間程度の効力しかない』




 三時間――。


 正確な時間は計っていないので分からないが、あれから大分時間は過ぎているはずだ。そろそろ術効力が切れてしまっても、不思議ではない。

 どちらにせよ私の時間も、あと僅かしかないのだ。


「ここまで来たら、あとはもう、やるしかないって言うことよね」

 奥歯をギリリと強く噛みしめた私は、改めて球体のほうへ顔を向けた。


 こうなったら助走距離を伸ばし、一気に中へ突進していくしかない。

 私は決意を込めて立ち上がると、先程よりも距離を置いた状態で剣を持って身構える。そして自分の中では全速力だと思われる速度で、そこへ向かって走り出した。


 目標物が見えてきた。

 だがその側まで来た時、下から伸びる大きな手が、否応なしにさらっていく。私は抵抗する間もなく、またもやはじき出されていた。


 しかし。


「……あれ?」




 私はまだ倒れてはいなかった。

 背中にあるのはいつもの無機質な、堅い地面の感触ではない。

 堅いものではあるが、でも何故かそこには温もりと柔らかさを感じさせる。それに私を包み込むようなこれは――。


「! アレックス!?」


 背後にいたのは彼だった。

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