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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第5章 異なる者(エリス編)
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第57話 復讐と戦闘と

「何故あの時に……父を……母を……何故殺した!?」

 内容からして穏やかではなかったが、彼はそんな問い掛けにも全く動じようとはしなかった。瘴気の球へ身体を向けたまま、ただ静かにその場へ佇んでいる。


「貴様、答えろ! 何故あたしたちを裏切った!!!」

「エリス」


 ゼリューはルティナの問いには答えずに、いきなり私の名を呼んだ。

「君は定位置につけ。直ぐに作業を開始する」


 そこには先程までの穏やかさはなく、凍り付くような冷たい響きしか感じられない。こちらを見ようともしていない。


「ッ―――サマっ! あたしの問いには答えられないと言うのかーっ!!!」

 ゼリューに無視されたルティナは、怒りのあまり顔を上気させて、再び向かっていった。が、またもや指一本動かしていない彼に、簡単にはね除けられる。


 彼女は私のような新米術士などではなく、恐らくベテランの部類に入るだろう。その彼女が冷静さを欠き、闇雲に戦いを挑んでいるのだ。

 彼女とゼリューの間に、一体何があるというのか。


「エリス!!」


 先程よりも鋭い声が飛んだ。圧倒的な迫力のある怒声に、私は思わず身を縮める。

 動くことができなかった。その声だけで全身を切り刻まれるのかと、本気で思うほどだ。


「……そうか」

 ルティナは地面へ血を吐きつけると、先程の激しさからは打って変わったかのように、静かな口調で呟いた。


「貴様がそういうつもりなら」


 彼女がゆらりと立ち上がる。


「ならばこちらも既に、もう何も訊く必要はあるまい」

 ゼリューを見据えるその瞳には、絶望と同時に何かを決意したような……諦めたような、そんな感情が垣間見えるような気がした。


「お前に」


 彼が初めてルティナのほうへ、視線を動かす。


「お前に俺は倒せない。指一本触れることさえできない」


 そこに感情は表れない。

 あるのは相手を射貫くような眼差し。全てを燃やし尽くすような真紅。


「ならばこれで終わりにしよう」

 ルティナは術文を唱えると、左手に風を起こした。


「何度来ても同じだ」

「やってみなければ分からない。それに」


 彼女は左の眼帯へゆっくりと、右手を重ねる。


「あんたも知っているはずだ。―――あたしの左をなっ!」

 そのままの体勢で、ルティナは駆けていく。



 ぱさり。



 何かが頭上で聞こえてきた。

 私はその音に釣られて顔を上げた。


 そこには黒い翼が見える。小さなソレは上空を横断するかのように、猛スピードで飛んでいった。

 サラの時といい今回のことといい、その傀儡が空中で『浮かんでいる』姿しか目撃したことがない。だから「あれ程の速度で飛ぶこともできるのか」と妙な感心をしつつ、私は呆然とソレを目で追っていた。


 ルティナがゼリューの元へ到達する直前で、ソレは何の躊躇いもなく全身から突っ込んでいった。


 左眼の眼帯に手を掛け、左拳を上げる寸前の体勢。

 突然のちん入者に対して、ルティナの動きが瞬間的に止まっていた。



 刹那。



 頭の中が締め付けられるように痛くなった。


 耳鳴り。全身の脱力感。

 そして籠手下の激痛。



 気が付くと私は左腕を押さえ込み、冷たい地面の上で蹲っていた。

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