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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第4章 追跡者2(ルティナ編)
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第48話 信じる心

 アレックスが真っ直ぐな瞳をこちらに向けてくる。その煌めきに耐えきれなくなったあたしは、何となく視線を逸らしていた。しかし彼はそのまま言葉を続けた。


「パーティとは、喜びも悲しみも共に分かち合い、信頼し助け合う仲間のことだ。

もし君の苦しみを、少しでも分けてくれるというのであれば、それを受け止めよう。

君が魔物であろうとなかろうと、それはほんの些細なことだ。

俺は君を信頼すると……仲間だと最初に言った。その信念はこの先も、決して曲げることがない。

何故なら俺はそんな自分自身を、一番に信頼しているのだからな」


 アレックスは胸を張って、堂々と宣言した。




 ああそうか、この男は―――。




 この全身から溢れんばかりに漲る自信。

 それは自分自身を心底、信頼している証なのだろう。


 『信頼』などという、陳腐な言葉を口にするのは簡単だ。

 だがこの男はそれを、心の底から信じ込んでいる。


 自分の感じたこと、行為そのものを――全てを信じている。だからこそ、そんな自分の信じている他人も同様に信頼できる。

 故に日頃からこれほどまでに真っ直ぐで、目が眩むほどの自信に満ち溢れているのだ。


「……あんた、お目出度いな」

「そうだ、俺は目出度い男なのだ。

だからこそ君が何を言おうとも、俺は君の手伝いをする。

俺自身が、そう決めたのだ」

「僕も~アレックスさんを信じています~。だからルティナさんにも~ついていくです~」


 コイツらには、あたしの皮肉も通じないというのか。

 本当にお目出度い奴らだ。そして脳天気な馬鹿どもだ。


 ようやく少し気力の回復したあたしは、そのまま無言で歩き出していた。その後ろから彼らも平然と、当たり前な顔でついてくる。

「しかし問題は、エリスのことだが……」

「そうですね~何処に居るのでしょう~」


 二人とも心配そうな声を上げていたが、直ぐに。

「ですが~エリスさんのことです~。きっと大丈夫ですよ~」

「うむ、そうだな。この中には確実に居るのだ。そのうちまた会えるだろう」


 彼らは傍から見れば、根拠のない自信とともに明るい調子に戻っていた。が、突然エドが、怯えたような声を出してくる。


「な、なんだかこの先、変な気配がします~。この先へは行きたくないような~……そんな変な感じです~」

「変な気配……うむ、それなら俺も感じているぞ」


 ようやくここにきて、二人とも気付いたようだ。

 この中に蔓延している気配―――瘴気の存在に。


「しかしこの禍々しい気配、外にいた時から疑問に思っていたのだが、一体何なのだろうな。この強力なもののせいで、他の気配が何も感じられぬ」

「! 何だと!?」

「ど、どうしたというのだ、ルティナ。いきなり吃驚するではないか」


 勢いよく振り向いたあたしに対して、アレックスが目を丸くしているようだった。しかしあたしは、それ以上に驚いていた。

「あんたは外にいた時からこの気配……瘴気に気付いていたというのか!?」

「それがどうしたというのだ。というより、これは『瘴気』と言うものなのか?」


 人間は瘴気の発生場所へ近付かなければ、感知できない。それを排除しようとする本能が、無意識下で働くからだ。


 例え感覚の鍛えられている芸術士であったとしても、近付かなければ感知できないのが普通である。

 芸術士の感知能力というのは、自身に向けられる殺気にのみ有効なだけだ。それ以外は他の術士と、何ら違いはない。

 それなのに彼は人間でありながら、更に外界からも感知できたというのか。


「この何だか嫌な気配~これが瘴気なのですか~。

魔物には麻薬のような症状が出ますが~ヒトにとっては毒にしかならないと聞きます~。

僕のお師匠様も中位クラスと戦った時~それを浴びたことがあると聞きました~。その禍々しさゆえ~直ぐに逃げ出したくなったそうです~」


「それは恐らく中位クラスが、人間を威嚇するために放ったものだろう。

瘴気というのは、あたしたちが術発動時に必要な精霊力と同様、通常、空中に拡散されて浮遊している。それは知っているだろ?」

「はい~。ですが濃度がかなり低いため~人体には殆ど影響がないと~言われています~」

「そうだ。例え魔物であっても、意識していなければ感知はできない」


 それはあたしも例外ではなかった。

 あたしも他の魔物と同様に、濃度の高い瘴気は感知できる。しかし普段生活している上では、あまり意識することがない。


「それでもこのように高濃度のものが蔓延していれば、知らずに体内を蝕まれてしまう。特に人間というものは、その影響力を直に受けやすいからな」

「では~その中にいる僕たちは~大丈夫なのでしょうか~」

「それは何とも言えない。だが一説によれば、何者にも屈しない強い心、精神力を持つ者だけが、瘴気の影響力を弱めることができるらしい」


「うむ。ならば何も心配はいらないぞ、エド。

強い心、精神力であれば、俺たちに常時備わっているものではないか」

「そうでした~。アレックスさんの言うとおり、僕たちには~心配無用なことでしたね~」

 彼らは再び明るく笑い合いながら、自画自讃していた。


 そんなことをしている間にも、あたしたちは歩みを止めてはいなかった。

 徐々に目的地へと近付いていく。あたしの足は、自然と速くなっていた。


 もうすぐ。


 もうすぐだ。


 長年の悲願を果たす時が、ようやく来たのだ。


 背後で二人が何かを言っていたようだ。だがあたしは振り向かず、足を止めることもなかった。

 周囲で変わることのない緑色風景が、一段と加速していく。

 そして不意に途切れたその先には―――。




 ―――ヤツだ。


 ヤツがいた。




 漆黒の髪。切れ長の瞳。

 面長気味な彫りの深い端正な顔立ち。浅黒い肌。




 問い詰めねばならない。






 何故、友人でもある両親を殺した?


 何故、村に火を放った?


 何故、人の姿であたしたちの前に現れた?


 何故、あたしの眼を封じた?


 何故、『母親』を裏切った?






 だが十二年前と変わらぬその姿を見た途端、それらが綺麗に無くなっていた。

 今まで積み重ねてきた想いごと、頭の中から全てが吹き飛んでいた。


 代わりにヤツの名を叫ぶ。腹の底から叫んでいた。




 そしてあたしは―――。

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