第46話 告白
「! 貴様、その眼は!?」
奴は驚きの声を上げたがそれには構わず、あたしは左拳へ集中的に術力を注ぎ続けている。
敵は次の行動へ移そうと身体を動かした。
が、それは既に計算済みだった。だからこそ、このタイミングでソレを外したのだ。
あたしは奴の鳩尾へ向かって拳を叩き付ける。その手前では、二本の短剣をクロスさせるように防御していた。
いつもならこの攻撃は通用しない。
しかし。
術が施してあり、通常より強固なはずの剣中心部は、拳に纏う風の威力で粉々に砕け散っていた。
耳元では、まるで複数の狂犬が激昂しているかのような、唸り声が聞こえている。自分自身でさえも、その威力に吹き飛ばされそうだった。
当然左拳も、意図しない方向へ持って行かれる。全身の骨も内側から軋んでいく。身体も引き裂かれそうになる。
だがあたしは辛うじて、それらを押さえ込んでいた。そして奴が次の行動に移す直前で、そこへ叩き付けていた。
たった一匹の獲物へ群がる獣たち。
周囲の草木をも巻き込んで、一気に激しさを増しながら丸呑みしていく。
「……ぐっ」
あたしはその衝撃に耐えきれず、左眼を眼帯で押さえ付けながら、地面へ顔を擦りつけるかのようにうずくまっていた。
一度に解放したのだ。両手はもとより、全身にさえ力が入らなくなっていた。
しかしそれはほんの一時的なものだと、今までの経験上から知っている。今は貧血のような症状が現れてはいるが、体力や気力と同様でやがて回復する。
あたしは霞む右眼を無理矢理細めると、倒れている敵のほうへ顔を向けた。
そこに生えていた草木は、獰猛な獣にでも食い散らかされたかのような痕跡を残し、一本の道筋のようになっていた。
奴の通った痕だ。
その終着点。
敵は薙ぎ倒されている木々の間にいるはずだが、ここからでは遠すぎてその姿が見えない。
手応えはあった。土手っ腹に風穴を開けたのも確認している。
だが僅かであるが、急所が逸れてしまった。恐らくまだ生きている。
中位クラスであれば体内に宿る精霊力を使い、何れ自己回復をするはずだ。
しかし今は動く気配はない。当分の間、起き上がることのできないダメージは、受けているだろう。
だがトドメを刺す気にはなれなかった。
こちらもまだそれだけの回復をしていない。それに今のあたしの目的は、目先の魔物を倒すことでもない。
「ルティナさん……今のは……」
しばらくして掠れるような声に振り向けば、二人が驚愕の表情を浮かべ、呆然とこちらを凝視しているところだった。
「ルティナさんの片方の眼――紅い……」
(! やはり、見られていたか)
あたしはその場でしばらく動かなかった。二人もそれ以上、口を開いてはこない。
予想通りの反応。このような状況には、昔から慣れている。
ようやく力の戻りつつあったあたしは、深く息を整えると、ややしてからゆっくりと身を起こし始めた。
そして――。
「あたしの身体は半人半魔。……半分、魔物の血が流れているのさ」
彼らが口を開く前に、あたしは自ら告白していた。