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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第4章 追跡者2(ルティナ編)
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第46話 告白


「! 貴様、その眼は!?」


 奴は驚きの声を上げたがそれには構わず、あたしは左拳へ集中的に術力を注ぎ続けている。

 敵は次の行動へ移そうと身体を動かした。


 が、それは既に計算済みだった。だからこそ、このタイミングでソレを外したのだ。


 あたしは奴の鳩尾へ向かって拳を叩き付ける。その手前では、二本の短剣をクロスさせるように防御ガードしていた。

 いつもならこの攻撃は通用しない。


 しかし。


 術が施してあり、通常より強固なはずの剣中心部は、拳に纏う風の威力で粉々に砕け散っていた。

 耳元では、まるで複数の狂犬が激昂しているかのような、唸り声が聞こえている。自分自身でさえも、その威力に吹き飛ばされそうだった。

 当然左拳も、意図しない方向へ持って行かれる。全身の骨も内側から軋んでいく。身体も引き裂かれそうになる。


 だがあたしは辛うじて、それらを押さえ込んでいた。そして奴が次の行動に移す直前で、そこへ叩き付けていた。


 たった一匹の獲物へ群がる獣たち。

 周囲の草木をも巻き込んで、一気に激しさを増しながら丸呑みしていく。


「……ぐっ」

 あたしはその衝撃に耐えきれず、左眼を眼帯で押さえ付けながら、地面へ顔を擦りつけるかのようにうずくまっていた。


 一度に解放したのだ。両手はもとより、全身にさえ力が入らなくなっていた。

 しかしそれはほんの一時的なものだと、今までの経験上から知っている。今は貧血のような症状が現れてはいるが、体力や気力と同様でやがて回復する。


 あたしは霞む右眼を無理矢理細めると、倒れている敵のほうへ顔を向けた。

 そこに生えていた草木は、獰猛な獣にでも食い散らかされたかのような痕跡を残し、一本の道筋のようになっていた。


 奴の通ったあとだ。


 その終着点。

 敵は薙ぎ倒されている木々の間にいるはずだが、ここからでは遠すぎてその姿が見えない。


 手応えはあった。土手っ腹に風穴を開けたのも確認している。

 だが僅かであるが、急所が逸れてしまった。恐らくまだ生きている。


 中位クラスであれば体内に宿る精霊力を使い、何れ自己回復をするはずだ。

 しかし今は動く気配はない。当分の間、起き上がることのできないダメージは、受けているだろう。


 だがトドメを刺す気にはなれなかった。

 こちらもまだそれだけの回復をしていない。それに今のあたしの目的は、目先の魔物を倒すことでもない。


「ルティナさん……今のは……」

 しばらくして掠れるような声に振り向けば、二人が驚愕の表情を浮かべ、呆然とこちらを凝視しているところだった。


「ルティナさんの片方の眼――紅い……」

(! やはり、見られていたか)


 あたしはその場でしばらく動かなかった。二人もそれ以上、口を開いてはこない。

 予想通りの反応。このような状況には、昔から慣れている。


 ようやく力の戻りつつあったあたしは、深く息を整えると、ややしてからゆっくりと身を起こし始めた。

 そして――。


「あたしの身体は半人半魔。……半分、魔物の血が流れているのさ」


 彼らが口を開く前に、あたしは自ら告白していた。

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