表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第4章 追跡者2(ルティナ編)
46/71

第45話 解放

「貴様だけでは話にならんな。俺はその女とも戦いたいのだがな」


 そんな彼を尻目に、敵はこちらへ視線を向けながら言ってきた。

 どうやら相手は、こちらも一緒に倒すつもりらしい。やはりこれ以上余計な時間を取らせないためにも、自分が前へ出るしかないだろう。


 そう判断したあたしは、意識を集中させるかのように深々と息を吐くと、アレックスの前へおもむろに一歩を踏み出した。それを見た彼が、慌てた様子で更に前へ飛び出してくる。


「ルティナ。ここは俺に任せて、君は先を急ぐのだ。君は自分の成すべきことを、最優先させるのだ!」

 あたしの前へ右手を広げ、再び肩越しから熱い眼差しを向けてくる。


 この男、自分があたしの邪魔になっていることが分からないのか?

 あたしは苛立つ気持ちを何とか抑えながら、諭すように静かな口調で言葉を発した。


「……アイツはあたしも指名している。あんただけでは役不足なんだとさ」

「そうですよ~アレックスさん~。相手は~ルティナさんとも戦いたいのです~」

「む……だがしかし」

「あたしなら大丈夫だ。それともあんた、『仲間』であるあたしが信じられないのかい?」

「仲間?」


「さっきあんたは『パーティ(仲間)とは、信頼し得る唯一無二の存在だ』とか言っていただろう。今の行動は、その言葉と矛盾しているぞ」

「む……むむむ……???」

 彼は途端に、苦悶の表情を浮かべた。


「あんたは今、怪我を負っている。その状態で敵とまともに渡り合えるとは思えない。

確かにあたしの目的やあんたの役目とやらも大事だろうが、それは目の前の敵を倒してからでも遅くはないはずだ。

だから今は『仲間』である、このあたしを信頼してくれ」


「そうですよ~アレックスさん~。ここは『仲間』であるルティナさんを~頼るべきです~。

それに~ディーンさんのことは信頼して~ルティナさんのことは信頼しないつもりですか~?

二人とも~同じパーティ(仲間)じゃありませんか~」


 アレックスは突然何かに気付いたかのように、目を見開いてエドを凝視した。そして直ぐに苦悶の表情に戻ると。


「むむむ……まさしく……。

『仲間(パーティ)』とは即ち、信頼関係。

それを失うということは、最早パーティは、その機能を果たせなくなるという意味でもある」


 アレックスは何やら、難しい顔付きのままで呟き始めた。

 そして程なくして―――。


「うむっ! 俺はようやく目が覚めたぞ!」

 そのあおい瞳に目映い光を宿しながら、彼はあたしの手を力強く掴んできた。


「そうだ。このような時だからこそ、仲間を信頼せねばならぬのだ。

君は仲間である俺のことを、これほどまでに想っているというのに……なのに俺は君のことを……済まなかった。ここは君に任せるべきだったな」

「ま……あ、分かればいいんだ」


 あたしは近づいてくる、一点の曇りのない澄んだ碧瞳から顔を背ける。無駄に綺麗な容貌は、何となく苦手だ。


 本当のことを言うとあたしには、アレックスがどうなろうと知ったことではなかった。それにいつもなら「邪魔だ、そこを退け!!」の一言だけで済むところだ。

 しかし彼を相手にしていると、怒るのが何故か馬鹿らしくなってくる。

 だから適当な御託を並べてみたのだが、まさかこんなつまらない言葉で、あっさり納得するとは思わなかった。なんて単純な男だ。


「……貴様ら、さっきから何をコソコソとやっている」

 声の主を見てみれば、あたしよりかなり苛立った顔付きをしていた。それなのに会話が終わるのを待っていたとは、魔物のくせに律儀な奴。


「全員まとめてかかってこいと言っているんだ。そのほうがこちらとしても余計な手間が省けるし、仕事も早く片付けられるからな」

 どうやらコイツも『危険』なこの場所から、直ぐにでも立ち去りたいらしい。あたしも精神力で今の状態を何とか保ってはいるが、長時間は持たないだろう。


「偉い自信だな。だが先鋒はあたしだ」

「ほう? 他の二人は介入しないのか」

「あんたがあたしを指名したんじゃなかったのかい」

「うむ。それに一対三の戦いになると不公平であり、術士としてのほこりをもけがすことになってしまうからな」


「……………」


 あたしはアレックスを無視し、無言で目の前の敵を睨み付けた。戦闘時において冷静さを欠き、尚且つそれを相手に悟られてしまったなら、確実にこちらが負けるだろう。


「ところで、もう一匹はどうしたんだ? 姿が見えないようだが」

「ああ、ボブのことか。さあ、どうだったかな」

(何かを企んでいるのか?)


 その表情を見ても、真意を量ることができない。それに蔓延する気配が邪魔をしていて、周囲を探ることも難しい。


 だが条件なら相手も同じ。

 ならば。


 あたしは左眼帯に右手を添え、同時に左拳も強く握り締めた。


 こちらとしても、戦闘を長引かせたくはなかった。それに余計な術力も使いたくない。

 もし敵が何かを企んでいたとしたら、実行させる前にこちらから仕掛ける!


 あたしは相手のほうへ真っ直ぐに向かって、地面を蹴った。

強硬風拳フォール・デュー・ヴィン!」


 左拳に精霊力を注ぐ。

 相手がそれに対して口角を上げながら、いつものように身構えているのが目に入った。


 この術は奴の目の前で何度も放ち、その度に受け流されている。敵にとっても「何を今更」という感じだろう。

 あたしは近づくにつれて徐々に術力を上げていった。



 そして拳を放つ直前で、左眼を『解放』した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ