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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第4章 追跡者2(ルティナ編)
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第43話 彷徨う者たち1

 一面の白濁色。

 全身に纏わり付くような、ヒンヤリとした空気。


 ここにあるのはそれだけだ。


 周囲は何も見えず、視界が非常に悪い。方向感覚もまるで役に立たない。

 加えてこの中には、強い気配が充満していた。

 それは外にいた時から感じていた気配。無論、あたしの眼もずっと疼いている。


 そのせいで、それ以外の「気」を感じ取ることもできなかった。これでは一緒に入ってきた敵が何処に潜んでいるのかさえ、探ることも難しいだろう。


 それにもう一つ、気がかりなこともある。

 実は結界が閉じる寸前で、正体不明の黒い影を目撃していたのだ。


 攻撃から逃れるために後ろを振り返った時、それらが数体ほど中に飛び込んできたのが見えた。その時には駆けだしていたから遠くて確かめられなかったが、あたしたちの他にも何者かが入り込んでいる。

 だがここがモンスター・ミストの中である以上、いつまでもこの場所で立ち止まっているわけにはいかなかった。それらの問題は一先ず置いておくとして、今は慎重に歩みを進めるしかない。




 一体どのくらいの時が経っただろうか。時計を持っていれば確認できるのだろうが、あたしは時間に縛られたくないほうだから、普段から持ち歩かない主義だ。

 それでもしばらく手探りで歩いていたのだが、不意に微かな音が聞こえてきた。立ち止まって耳を澄ませてみれば、それは何かのメロディのようでもある。


(敵? ……罠か?)


 ここはヤツの空間。

 当然あたしたちが中へ入り込んだことも、既に把握しているはず。

 とはいうものの、変わらない風景の中を歩くのにも、流石に飽きてきたところだ。例え罠だとしても、ここから抜け出せるのであれば何でも良い。


 しばらくすると前方からは、明かりも見えてくる。点滅して光っているようだ。どうやら音はその方向から聞こえてくるらしい。

 徐々に視界も鮮明になってきた。


 そこには辺り一面、緑色の景色が広がっていた。

 霧もいつの間にか晴れていて、あたしは少し拓けた場所に立っていた。


 足下には膝丈ほどの草が、地面を覆い隠すかのように生えている。この場を囲むように、鬱蒼と生い茂っている木々も立ち並んでいた。

 周囲をざっと見回しただけでも、季節感が狂っているのが分かる。


 上を見上げてみると、青空も広がっていた。季節ばかりか、時間までも狂っていやがる。

 ここはやはり、結界の中なのだ。


「あ、ルティナさんです~」

「何? ルティナ??」


 声主たちを見れば、エドとアレックスがそこに居た。

 エドは木に凭れるようにして竪琴を弾き、アレックスはその前でこちらに背を向けて立っていた。


「おお、君ともようやく出会えたな」

「おい、あんたたち、こんな場所で何をしている」

 あたしは訝しんで、彼らに近づいていった。


「僕はいつの間にか~エリスさんとはぐれてしまい~一時間以上も白い場所を~彷徨っていたのですが~ようやくそこから~抜け出せたのです~。

本当はそのまま~エリスさんを探したかったのですが~方向音痴のエリスさんのことなので~行き違いにでもなったら大変ですし~そのようなこともあって~もしかしたら近くに~いるかもしれないと思い~音楽と灯りで導くことを~思いついたのです~。そうしたら~」

「俺も導かれて、ここへやってきたという訳なのだ。やはり君も、そうなのだろう?」

「あれ、ルティナさん~どうされました~?」


 あたしはその場に四肢をついていた。突然、極度な疲労感に襲われてしまったのだ。


「それにしても~まさかアレックスさんとルティナさんが~近くにいるなんて~知りませんでした~」

「うむ。あとはエリスだけだが、しかし……」

「そうですね~。

先程のアレックスさんの話だと~エリスさんはどうやら無事なようなので~一先ず安心をしているのですが~しかしエリスさんの方向音痴は~筋金入りですから~。もしかしたら~また隣村に~行ってしまわれているかも~しれません~」

「隣村?」

 あたしは地面から顔を上げて、エドを見上げた。


「ここはモンスター・ミストの中だ、外には簡単に出られない。あんたとエリスは結界を破れないのだろう?」

「はい~破れるのはアレックスさんだけです~。

でも~モンスター・ミストの中とは一体~どういうことなのでしょうか~?」


 彼はあたしの問いに答えると、吃驚した表情で首を傾げている。

「まさか、気付いていなかったのか? あんたたちは走って、この中へ入って来たんだぞ」

「そうだ、エド。確かに君たちは俺の呼びかけにも全く答えず、横を素通りしてこの中へと入っていった。俺はそれを追いかけてきたのだ」


「えええぇぇ~!? 本当ですか~??

僕は~敵に追いかけられて~命からがら逃げていたのですが~その時に隠れられそうな場所を~何とか見つけ~夢中でその中へ~飛び込んで行きました~。

敵から逃げるのに必死で~アレックスさんたちのことなど~全く気付かなかったです~」


 彼は裏返った声を上げ、更に驚いていた。この様子では本当に、気付いてなさそうだ。


「それにしてもここが~モンスター・ミストの中なのですね~。では~あの白い場所も~霧の中だったという訳ですか~。納得です~」

 エドは周辺を感慨深げに見回すと、そんな感想を述べた。


「となると~昼間の結界とは違って~桁違いの規模ですね~。

このような空間を~創り出すことができるとは~一体どのような~魔物なのでしょうか~。

ルティナさんは~知っているのですか~?」

「……ああ」


 あたしは短い返事をするとそのまま立ち上がり、歩き出す。

 先程霧の中を抜けた途端、この方角で更に強烈な気配を感じていた。

 場所を移動する度に、左眼の疼きも段々と非道くなっていくのだ。

 恐らくそこにヤツがいる。あたしは確信していた。


「ルティナさん~待ってください~。突然、何処へ行かれるつもりですか~?」

 二人が走ってあたしを追いかけてくる。


 彼らにはこの気配が分からない。何故なら、人間である彼らには感じ取ることのできない、魔物特有のものだからだ。

 雌の放つフェロモンに引き寄せられる生殖時の昆虫のように、特に下位クラスの魔物はそれに惹かれやすい。


 あたしは彼らが近づいてくるのを見ると、足を止めた。

「あんたたちはエリスを見つけたら、直ぐにでも外へ出るんだ」

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