表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第4章 追跡者2(ルティナ編)
42/71

第41話 魔物の霧1

「ルティナよ。俺たちはいつまでコソ泥のようにコソコソと、隠れていなければならぬのだ?」

「あと少しの辛抱だ。目的地は直ぐそこだからな」


 あたしは辺りを警戒しながら、アレックスの質問に答えた。

 今のあたしは彼と行動を共にしている。他の二人のことは、既に見失っていた。


 最初はこの三人の中で、誰か一人でも目的地へ辿り着くことが出来れば良いと考えていた。

 しかしそれはあたしの思い違いで、結界を破壊できるのは彼だけだと言う。だから門が開く直前で、咄嗟にアレックスの腕を掴み、手を離さなかった。

 何故なら三人の中で一番信用できないのが、この男だったからだ。それは今までの彼らの会話を聞いていれば分かる。

 そしてあたしの勘は、やはり正しかったらしい。


 外へ出たと同時に彼は率先して、侵入しようとしている魔物と戦い始めていた。

 それだけであれば、まだ良かったのだが。


 放たれる魔物の術を、何もせずに跳ね返していた。

 無論、術文も精霊石も使用せずに、だ。


 長年魔物ハンターをやっているあたしだが、このような人間に出会ったのは初めてだった。

 もしあたしが彼の能力を知らなかったなら――そしてこの左眼がなかったならば、真っ先に「魔物」だと疑っていたはずだ。事実、周囲で戦っていた術士たちがそれを目撃した途端、一斉にこちらへも攻撃を仕掛けてきた。


「しかしこれくらいの怪我、俺には根性でどうとでもなるのだがな」

「脂汗を流しながら何を言っている。痩せ我慢も程々にしないと、後で痛い目みるぞ」

 左腕上腕部を押さえながら、汗を額に滲ませている彼を横目で睨み付けた。


 術士たちが攻撃を放った際、その中の光の矢がアレックスの肩を掠ったのだ。

 そこは防具に覆われていない『継ぎ目』と言われる部分で、術は丁度そこを通っていったらしい。

 破れた服の下には青痣が覗いており、大きく腫れ上がっていた。上から軽く押しただけで彼の顔は歪み、その感触で骨が折られていることに気が付いたのだ。


 しかしあの時、術は確かに腕を掠っていた。直撃はしていない。それはあたし自身が証人だ。

 だが何故か皮膚は裂けずに、中の骨だけが綺麗に折られている。


 彼の話では「人間の術に掛かりやすい体質になっている」らしい。

 世の中にはそういう人間も確かにいるが、掠っただけでそこまでの効果があるのだろうか。とはいえ「結界を破壊できる能力」も聞いたことがなかったから、強ち嘘ではないのかもしれないが。


「う……むむむぅ……これしきのことで悔しいが、俺もまだまだ修行に精進せねばなるまいな」

 その辺に落ちていた棒きれで固定している腕を押さえ込みながら、アレックスは悔しそうに顔を歪ませていた。

 しかしそれもつかの間。腰に携えている剣を直ぐに引き抜くと、右腕を高々と掲げて宣言する。


「だが! 俺は諦めないぞ。

例え腕一本へし折られていたとしても、奴らを倒してみせる!

それが精霊に課せられた、英雄としての俺の使命だっ!!」

「待て待て待て。その前に、誰かが来るようだ」


 あたしは今にも、勢いで飛び出そうとしている彼の襟首を捕まえると、そのまま奥へ引き摺り戻した。そして後ろから口を塞ぎながら、身体を羽交い締めにする。

 ここで誰かに見つかるのは面倒だった。先程のような事態は、成るべくなら避けたい。


 今回あたしが討伐隊に参加した目的は『モンスター・ミスト』の中に入るため、そしてヤツを倒すためだ。余計な戦闘で、体力や時間を取られたくはないのだ。

 程なくして、金属の触れ合う音と、人の話し声のようなものが聞こえてきた。


「この付近で、人間に変化した奴も潜んでいるらしいぞ」

「ああ。本人は人間のつもりらしいが、どうやら人間離れした容姿の奴らしい」


(人間離れ……)

 あたしは腕の中で抜け出そうと必死に藻掻いている、アレックスの後頭部を見上げた。

 確かにこの顔立ちならば、人間離れしているとは言えなくもないが―――。


 その声主たちは、互いに短い会話を交わし終えると、それぞれ相手にしている魔物と戦いながら左右へ散っていった。

(もう既に、変な噂が広まっているようだな)

 このような場所であっても、術士同士で互いの状況を交換し合い、戦闘を進めていくことも珍しくはない。無論、余裕のある状態でなければ出来ないことではあるが。


「いきなり押さえ込んでくるとは、非道いではないかっ!」

 あたしの腕からようやく抜け出せたアレックスは、早速抗議をしてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ