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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第1章 暗殺者(エリス編)
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第3話 迷子対策?

「アクニカ村って、明日のお昼には到着できるのよね。ディーンたちの村までは、あとどれくらいかかるの?」


 私はエドが用意してくれた夕食の山菜スープに舌鼓を打ちながら尋ねた。

 それにしても毎回思うことだが、彼の作る料理はかなり美味しい。手持ちの保存食と今の時期に生えている食用の野草やキノコ、彼が常に持ち歩いているといういくつかの調味料だけでこんなに美味しい物が作れるとは。

 『芸術士』という術士の特性だからなのか、手先が器用なのである。

 聞けばエドはキノコの選別もお手の物だという。彼にこんな特技があったことを知り、私は驚いていた。もしかしたら吟遊詩人などではなく、料理人になったほうが良いのではないだろうか。


「フィオス町は森を一つ越えた先にあるから、そこからはかなり近いよ。アクニカ村から歩いて一~二時間くらいかな。俺たちの村はその先の山を登ったところにあるから、休憩を抜きに考えると、合計一日半弱くらいで到着するはずだよ」

「一日!? てことは、丸一日も山登りをしなくちゃならないの?」

「ああ。山の高さはそれほどでもないが、多少入り組んだ場所にあるからな。今から覚悟をしておいたほうが良いかもしれないな」

 昔ハイキング程度でなら学校の行事で山に登ったことはあるのだが、長時間登山はあまり経験したことがなかった。


「もっとも、順調にいければの話だけどね。これでも予定よりは、三日もタイムロスしているわけだし」

「そうですよ~エリスさん~。この前のようなことにはならないように~お願いしますよ~」

 エドが眉を顰めながら私に言ってくる。


「エリスさんがこの前~ネタシナ町で~はぐれた時のことですよ~。あの時には大変だったんですから~あの人混みを一日中、探し回ったんですからねぇ~」

「全くだ。一つ手前の村へ戻っていようとは、流石の俺でも予想できなかったぞ。まさか君がこれほどまでに方向音痴だったとはな」

「う……だからゴメンって、何度も謝っているじゃないのよ。それにあの時には人波に押されて、たまたま戻っちゃっただけじゃない。方向音痴とは全然違うわよ」

 責めるような態度のエドとアレックスに対して、私は汗を掻きつつ辛うじて言い訳をした。


 だがこれ以上の反論ができないのも事実だった。非難されても仕方がないのは分かっていたからだ。

 パーティというのは当然の如く、団体行動が基本だ。一人がその輪を乱せば、他メンバーも道連れになる。運が悪ければ一人のせいで、全滅することだって有り得るのだ。


 本当なら輪を乱した者など、即見捨てるのが正解だった。

 だが彼らは私を探してくれていたのだ。

 あまり強い態度をとることはできなかった。不可抗力とはいえ、私はそれだけの行為をしてしまったのだから。


「エリスさんの方向音痴は~僕も知っていたので~ちゃんと手を繋いでいたはずなんですけどね~。あの混雑の中だったから~思わず手を離してしまったのです~」

 ネタシナ町へ到着した時には丁度、国王歓迎パレードの真っ最中だった。その町には保養所の一つがあるらしく、年一回は訪問するらしい。私たちは運悪く、それに遭遇してしまったのである。


「そこで俺は考えたのだ。方向音痴のエリスと手を繋いでいても、それが完全に外れることのない方法を!」

 アレックスはいつもの得意げな態度で、エドに向かって胸を張っていた。

 私はその様子を見ながら、心の中でひっそりと溜息を吐く。そもそも「方向音痴」と「手を繋ぐ」という行為は、何の脈絡もない。


「ではエド、手の平を外側に向けて前へ突き出してみてくれ」

「こうですか~?」

 エドは言われた通りに目の前へ手を突き出した。


「今度はエリス、エドの手に自身の手を重ね合わせるのだ」

「え、私もやるの?」

「うむ、これは君のためでもあるからな。また同じようなことが起きてしまった場合、今度は捜し当てることができるかどうか……」

「はいはい、分かったわよ」

 そう言われてしまったら、私には逆らうことができなかった。渋々エドの手に自分の手を重ねる。


「そして互いの指と指の隙間に、その指を一本ずつ絡めるのだ。そうすれば普通に握っている時よりも遥かに、離れ難くなるではないか!」

「た、た、確かに離れないです~。これならどんな人混みの中にいても、全く外れる心配がありません~。アレックスさん、これは世紀の大発見ですよ~!!」

 エドは私もろとも腕をブンブン振り回しつつ、アレックスを褒め称えた。分厚い眼鏡に隠れていてその表情はよく分からなかったが、興奮しているのか、代わりに鼻の穴がいつもより開いている。


(全く……この、アレックス信者めが!)

 私は心の中で毒づいたが、口に出しては言わなかった。単に呆れすぎて、喋るのが億劫になっただけである。

 恐らくは指の関節が互いにストッパー役となり、外れ難くなっているだけであろう。別に「世紀の大発見」でも何でもない。


「ははは……アレックスは相変わらず、面白いことを考えるな。感心するよ」

 私たちの遣り取りを隣で傍観していたディーンは呑気に、爽やかな笑顔を浮かべていた。今は食事中ということもあり、先程まで被っていたフードは脱いでいる。

「しかしその繋ぎ方は」

 続けて何かを言おうと口を開きかけたのだが。


「……ああいや……うん、何でもないんだ」


 私たちの顔を見るなり急に気が変わったのか、それを止めたようだった。

 ディーンが何を言い掛けたのかは、非常に気になるところである。が、疲れの押し寄せてきていた私にはどうでもいいことだった。途中で言うのを止めたということは、どうせ大した内容ではないのだろう。

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