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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第3章 魔物討伐(エリス編)
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第33話 開門直前1

 日も落ちかけてきた頃になって、私たちは村出入り口の集合場所に辿り着いていた。

 ルティナの話によれば、日が山の向こうへ完全に隠れる瞬間が、私たちの出陣の合図だという。


 周囲にいるのは、如何にも屈強そうな術士たちばかりだ。皆一様にして殺気立っており、私たちのような見習い風情の姿は流石に見かけない。

 私は精霊術士だからまだ良いが、吟遊詩人であるエドは完全に場違いだった。

 パーティ内で支援援護を担当している芸術士が、このような現場に参加することなど滅多にないのだ。芸術士が参加する場合は主に、ギルドへ戻ってきた術士たちを治療する、救護要員としての役割である。


 そのように、かなり浮いた存在の私たちだったが、幸いなことに周囲では誰も気に咎める者などいなかった。恐らく皆、目の前にぶら下がっている餌のことしか見えてはいないのだろう。

 討伐隊に参加するのは、その日暮らしのためや修行目的などといった理由が大半を占める。賃金はかなり安いが手軽に路銀を稼げるし、更にスキルアップを図るには丁度良い仕事なのだ。


 ただし自分の身は、自分で守らなくてはいけない。

 乱戦が予想されるからである。

 個々の能力がある程度高くなければ、生き残れないというのだ。


「しかし人が多いな。エリス、君は大丈夫なのか?」

「は? 大丈夫って、何が??」

 先程から落ち着きなく辺りを見回していたアレックスが、突然私に尋ねてきた。

「この人の多さでは、また迷子になってしまうぞ」

「だから私は迷子になんて……」

「ご安心下さい~アレックスさん~!」

 私の言葉を遮るようにエドが前へ出ると、自分の胸をドンッと叩き、自信に満ちあふれた顔をアレックスに向けた。


「僕がエリスさんの手を~しっかりと握って~離しませんからぁ~!!」

「どわっ、いつの間にッ!?」


 下に視線を落とすと、例のカップルつなぎで手が繋がれているではないか。全くもって、油断も隙もない。

 私は必死に振り解こうと試みてみるが、ガッチリと組まれた指は意外にも、簡単に外れなかった。最初の頃に比べれば何だか繋ぎ方が、格段に上手くなっているような気がする。


「うむ。でかしたぞ、エド! これで一安心だな」

「ちょっと、何が一安心なのよ」

 振り解くのを途中で止めて口を尖らせると、それを宥めるかのようにアレックスは私の両肩に手を置いた。


「エリス、君がエドを守ってやってくれ。この人数での戦闘では、エドの術が全く役に立たないだろうからな」

 神妙な顔付きは崩さずに、澄んだ碧瞳をこちらへ向けてくる。アレックスでも流石にこの状況は、飲み込めているようだ。


「本来ならば俺がエドを守るべき役割なのだが……しかし未だ修行の足りてない俺とでは、はぐれる可能性のほうが高い。

それにエリス、君ならば防御術が使える。恐らく俺といるよりは安全だろう」


 確かに乱戦が予想される中で、他人を守りながら戦うというのは難しい。

 しかしそれを言うのなら、いくら防御術が使えるとはいえ、私もアレックスと同条件のはずなのだが。

 私がそのことを言うと、ここでルティナが口を開いた。


「あんたたちは、戦闘に参加しなくていい」

「え、どういうこと?」

「あたしたちの目的を忘れたのか。魔物討伐のために参加するわけじゃないんだぞ」


 そういえばそうだった。

 モンスター・ミストの破壊。これが当初の目的である。

「あんたたちは、あの方角へ真っ直ぐに向かうだけでいい。そこにモンスター・ミストがある」


 ルティナの指差す方向を見れば、丁度日の落ちていく場所である。

 彼女は「真っ直ぐに向かうだけでいい」と簡単に言っているが、乱戦の中を潜り抜けなければならないのだ。戦闘に参加しないとはいえ、ただで済むはずがない。


「ルティナ……やっぱり私たちも、参加しないと駄目かな?」

「当然だ」

「けどその……非常に言いにくいんだけど私、今防御術しか使えない状態で……攻撃術が全く、役に立たなくなってしまったのよね」


 私は思いきってルティナに告白してみた。

 術士が術を使えないというのは、翼のない鳥と一緒である。かなり恥ずべきことではあったが、手遅れになる前に言っておいたほうがいいと判断したのだ。


「知っている。昼間のあんたたちの戦いを、ずっと陰で見ていたからな」

 彼女は腕を組んだままで胸を張り、偉そうな態度で堂々と言った。

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