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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第3章 魔物討伐(エリス編)
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第29話 英雄

 私がルティナの放つ鬼雪妖精スノーデビルのような視線に動けず、射殺されそうになっていた時。


「成る程! 魔物の術かっ!!!」

 アレックスの叫び声が聞こえてきた。


 どうやら説明のほうが終わったようである。私にとっては正に、天の助けだった。

 すると彼は振り向いて、こちらへずんずんと向かってきた。そしてグローブを嵌めているルティナの両手をガシッと力強く掴むと、真剣な表情は崩さずに、勢いのままで迫っていった。

「分かった、引き受けよう!」

「へっ!?」


 吃驚した私は、反射的に変な声を出してしまっていた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 引き受けるって、モンスター・ミストの破壊を!?」

「当然だ!」

 彼は胸を張って堂々と答えた。いつもの如く、かなりやる気に満ちている顔だった。


「話に聞けばモンスター・ミストという術は、外部からの攻撃を一切受け付けないというではないか。

それを破壊し、魔物から世の人々を助けたいと願う彼女の気持ち心意気に、俺はいたく感銘を受けたのだ。

ならばそれを助け、救済をするのが、英雄としての俺の役目ではないか!」


 アレックスは拳を振り上げながらいつものように、熱く演説をしていた。

 それにしてもエドは一体、どのような説明をしたのだろうか。この口振りから察するに、恐らくは多少の脚色を加えているのかもしれないが。

 時々忘れそうになるのだが、彼は何と言っても吟遊詩人なのである。


「英雄? 何を言っている」

「何!?? 君はまさか、あの偉大なる英雄を知らないというのか!!!」

 訝しんだ様子で訊き返した彼女の手を取りながら、再び凄い勢いで詰め寄っていくアレックス。

「いや、そうではないが…」

 急に迫られたルティナは、戸惑いの表情とともに眉根を寄せると、顔を横へ逸らした。


「英雄といえば、アノ話だろう」

 彼女は後退りながらアレックスの手を振り払うと、慌てるかのように後ろを向く。


「精霊に守護されし六英雄が、魔王を倒したとかいうアノ話」

「おおっ! 何だ、君も知っているのではないか」

「知っているも何も、有名なお伽話だからな。

それを本気で信じているのは大抵、トイーズダレマ大陸にいる精霊崇拝者かカルト信者くらいなものだが……あんた、信者なのかい?」

「信者?」アレックスは首を傾げている。


「俺は英雄の末裔だが」

「………は?」

「わーっ、そ、そ、それより、モンスター・ミストの話よっ!」

 私は眼を丸くしているルティナと、不思議そうな顔で首を傾けているアレックスの間へ、慌てて割って入った。噛み合わない二人にこれ以上会話をさせたら、話が余計にややこしくなりそうな気がしたのだ。


「ああ、そうだったな。ではついてこい」

「うむ、了解した!」

 突然一人で歩き出したルティナの後を、アレックスが足取りも軽くついていく。まるで尻尾を振りながら主人の周囲でまとわりつく、飼い犬のようだ。

 そしてその場に取り残されたのは、私とエド。


「エリスさん~どうしましょうか~? 僕たちも行きますか~?」

 問い掛けられた私が彼を見ると、何かを期待しているような顔付きをしていた。

 その瞳が分厚いレンズで覆われていても分かる。明らかに「行きましょう! 是非ッ!!」と、力強く訴えかけている表情だ。


「全く……分かったわよ」私はその迫力に気圧されて、渋々承知した。


 それにあのアレックスを勝手に行かせたりしたら、何をするか分からないというのもあった。

 彼の身に何かあれば、恐らくはディーンに怒られ……いや、それより以前から度々話に聞いているアレックスの妹、リアに殺されるかもしれない。

 私は気が進まないながらも、仕方なく二人の後を追うのだった。

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