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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第3章 魔物討伐(エリス編)
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第27話 彼女の理由

第3章 魔物討伐(エリス編)

「モンスター・ミストを破壊してほしい」

 彼女――ルティナは、ごく普通の日常会話的な流れで、私たちにそう言ってきた。






「えーっと……じゃ、まあ、そういうことで」

 私も同様に、ごく普通の自然な動作で踵を返したのだが、即座に背中の外衣ローブフードを掴まれていた。


「おい待て。いきなり何故逃げるんだ」

「や……だって、何言っているのかよく分からないし」

「あんた、あたしの言っている意味が解らないのかい?」

 その言葉に対して、私は深い溜息を吐かずにはいられなかった。

「じゃなくて、出来もしない依頼はお断りってことなのよ」

「そんなことはないだろう。これはあんたたちには、簡単なはずだろ?」

 さも当然といった表情で、ルティナはさらりと言ってのける。私は眉根を寄せた。


「何で私たちが?

私たちは一般的な、ごく普通の巡礼者なのよ。破壊できるわけないじゃない。

そんな簡単に壊れるものならば、他の誰かが既にやっているわよ」

 彼女に向かってそう訴えた。ルティナは考え込みながらも、そんな私をまじまじと見詰める。


「確かに一見そう見えるが……しかし、あの結界を破ったのはあんたたちだろう?

ただの巡礼者がそんなことをできるはずがない」

「あ…」

 私は先程の出来事を思い出した。そういえば、アレックスがいとも簡単に破ってみせていたのだ。


 彼には魔物の術が効かない。身体に当たる寸前で、周囲には精霊の結界が張り巡らされた状態となり、術を弾く。

 先程は『術』である結界に彼が触れた途端、その能力が発動した。故に弾かれた術はその形態を保つことができなくなり、破壊されたのかもしれない。

 無論この考えは、私の憶測にしかすぎないのだが。

(ルティナも私たちのことを、何か勘違いしている?)


 今彼女は「あの結界を破ったのはあんたたちだろう?」と訊いてきた。

 「あんたたち」――つまり、また私とエドのことまで数に含まれているのだ。先程の魔物たちと同じである。

 確かに今は三人で行動しているが、エドは結界を通らなかったので分からないにしても、私は破ることができなかった。

 やってみせたのは、アレックス一人だけである。彼女はそれを見ていなかったのだろうか。


「さっきの結界を破壊できるということは、モンスター・ミストも破れるということになる」

「それはつまり、モンスター・ミスト自体が、魔物の結界術で出来ているということなの?」

「無論、そうだ」

「でもだからって、破壊できるとは限らないじゃない」

「アレはさっきの結界術と、何ら変わりない代物だ。破るためにはそれを作った張本人――魔物を倒すか、或いはソイツに無理矢理にでも解かせるしかない。

だがその張本人である魔物は現在、その中に隠れていて外へは全く出てこないのさ。つまり、外部からアレを破壊するのは不可能というわけだ。

だからそれをできる、あんたたちの協力が必要だ」


 その説明で彼女の依頼理由は分かったのだが。

(にしても何だか、やけに詳しいのよね)


 モンスター・ミストは中に入って調査ができないので、その正体は殆ど分かっていない。なのに目の前にいる目付きの悪い女性は何故か、あの霧は魔物の結界だと自信たっぷりに言い切ったのである。


「むう、どういうことだ」

 ここで初めてアレックスが口を開いた。


「何故ここにあるはずの手が、後ろの離れた場所へ、瞬時に移動するというのだ」

「あんたまだそれを考えとったんかいッ!!!」


 一応ツッコんでおいた。

 とはいえ彼のことだから、ある程度の予想はしていたけれど。

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