第25話 遭遇1
この村はモンスター・ミストの影響でしばらくの間、外部との流通を遮断するという。
そのことはあたしも事前に予想済みだった。ヤツがここにいるということは、その規模も大規模なものだと容易に予測できた。
こちらに残された時間は、あまりない。いつモンスター・ミストが姿を消すのか分からないからだ。
そうなってしまったら、今度は何処に現れるのか予測できない。そしてそこに必ずヤツが居るとも限らない。
その間、例の三人組パーティを捜すことにした。この村に必ず居るはずだと、サラが言ってきたのだ。
あたしは先程買った『温泉まんじゅう』の箱を小脇に抱えつつ、温泉街を彷徨いていた。
何故温泉まんじゅうを買ったかといえば、『温泉=(イコール)まんじゅう』に決まっているからだ。
温泉に来れば必ず饅頭を買うのが、世間一般での定番であり鉄則だ。でなければここに来る意味がないといっても過言ではない。
あたしがその場所を通り過ぎようとしていた時、
「貴様らには消えてもらう!」
その声とともに、金属の触れ合う音が聞こえてきた。あたしは反射的に建物の陰から、その路地を覗く。
「神風護壁! 雷風烈破!」
術文を叫んでいるのは、昨日地べたで震えていた精霊術士の少女だ。
しかし攻撃術のほうは、相手に届いていないようだった。あたしが一目見ただけでも出た瞬間に、その威力が皆無だったのが分かる。
(やはりそうか)
昨日彼女に感じた『勘』は、どうやら当たっていたようだ。
だからといって、他人であるあたしにはどうすることもできない。
ただ一つ言えることは、今の状況では確実に彼女たちのほうが殺されるということだった。
シールドで防いではいたが、明らかに押されている。別の奴と戦っている剣士も防戦一方で、共に劣勢なのが一発で分かった。それに何より、相手の黒装束たちのほうが戦い慣れしており、能力にも差がありすぎだ。
「さて、どうするか」
あたしはその光景を眺め、独り言を呟きながら饅頭を口に運んでいた。
が、考える間もなく手が先に出ていた。黒装束の背後に向けて、思わず饅頭を投げ付けてしまったのだ。
目の前で弱者が一方的にいたぶり殺されるのを見るのは、あまり寝覚めの良いものではない。
だから何となく、邪魔をしたくなったという気持ちもあった。




