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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第2章 追跡者1(ルティナ編)
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第22話 取引2

 未だかつて、その内部に入れた者はいないと聞く。

 それは魔物であっても、例外ではない。






 ヤツのことは術士修行時代から追いかけていたが、足取りを掴むことができなかった。そしてこの場合一番に考えられることは、自分で創った『結界せかい』の中へ雲隠れしているのではないか、ということだ。

 ヤツは上位クラスの魔物だ。その可能性が一番高い。


 大抵結界というものは、発動した術士の認証を得なければ、外部からは入れないようになっている。

 それにあたしたちの目に見えていないだけで、地上の何処かには必ず存在しているものだ。即ち、現実空間と少しずれた場所に、それが存在しているだけだと思えばいいだろう。


 しかし、ただ存在しているだけではない。術士が周辺一帯を模し、意図的に創り出している空間なのだ。

 だが模造できるのは精々、建造物や木々などの植物くらいで、食物や水、着衣などのようなものを創り出すことは不可能だった。

 だから例えヤツがこの中へ雲隠れしていたとしても、永久に閉じ籠もっているはずがない。何故ならヤツもヒトと同じように、食事などといった生理的欲求を持っているからだ。


 もし外部との関係を完全に断ち切れるとしたら――伝説で例えるならばヒトや魔物、双方に当てはまらない存在――『精霊』くらいのものだろう。

 『結界』とは、そのような場所だ。


 あたしは長年ヤツについての情報を集めていたが、最終的に辿り着いたのが『モンスター・ミスト』の存在だった。

 ソレが世界各地に最初に現れ出したのは、およそ十二年前。ヤツの消息が途絶えた時期と、ピッタリ一致している。

 だからヤツがそこにいるのではないかと睨んで追いかけ続けているのだが、出入りしている痕跡を未だに発見することができなかった。

 そのため他の可能性も模索している最中ではあったが、モンスター・ミストがそこへ現れたと聞けば、他に手掛かりが掴めない以上は追うしかない。


 サラと名乗った魔物に奇襲をかけられたのは、そんな時だった。






「その方法が見つかったからといって、それがあたしと何の関係がある」

 あたしは表面上の冷静さを保ちながら、奴へ静かに問い返した。


「貴様は既に承知なのだろう?

人間どもがモンスター・ミストと呼ぶアレの中に、貴様の殺すべき相手がいることを」

「……!」

 その言葉に絶句したあたしは、変わらず薄笑いを浮かべたままの奴の顔をしばらく凝視してしまった。


「ならば……あの中にヤツが居るとでも言うのか?」

「無論だ。でなければ妾が貴様を生かし、このような情報を与える理由がない」

 自信ありげに断言したその言葉から、あたしの中の推測が確信へと変化していくのを感じていた。


「妾が貴様にその情報を提供する。そして貴様はゼリューを殺す。

だが断るというのであれば、妾が貴様をこの場で殺す。これが取引だ」

 これは一方的な要求だ。無論、取引と呼べるようなものではない。

 しかしその時のあたしには、そのようなことを気にしている余裕がなかった。


 やはりあの中にはヤツが居る!


 泉へ投石される波紋の如く「確信」の広がり始めていたあたしには、同様に高揚していく気持ちのほうが大きかった。

 だがあたしは冷静さを崩すことなく、保ち続けていた。


「あたしにヤツを殺させる目的は何だ。ヤツは貴様の兄なのだろう?」

「妾たち魔族には、目先の近しい血縁者など意味を為さぬ。重要なのはその先にある、一族繁栄のみ。

ゼリューは我らにとって、その障害となる邪魔な存在なのだ。

我らが繁栄するためには、奴を確実に消さねばならぬ。ただそれだけこと」

 あたしの問いに淡々と答えていたサラからは、何の感情も見られない。そこがやはりヒトとは違う。


 魔族の中にもヒトと同じように、様々な種族がいる。

 奴らにとって何よりも大事なことは、自分の一族が子々孫々まで繁栄することだ。

 無論それはヒトでも同じ事であるが、ヒトよりも遥かにその気持ちが強い。

 何故なら奴らの世界では、弱者は強者に絶対服従。奴らにとってのソレは、適者生存のための習性といっても過言ではないからだ。


「どうやら長話がすぎたようだな。そろそろ貴様の答えを聞かせてもらおうか。

妾の取引に応じるか。それともこの場での死か」

 奴の有無を言わせぬ問い掛けが、あたしに直接向けられていた。

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