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ゼロクエスト 〜第2部 異なる者  作者: 鈴代まお
第1章 暗殺者(エリス編)
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第20話 3人への依頼

「あたしはルティナ。ルティナ・マーキス。職業は魔物ハンターだ」

 彼女はそう名乗った。魔物ハンターは魔物専門の賞金稼ぎである。


「あ、それで昨日は~あんなに派手に魔物を~退治していたのですね~」

 エドは納得といった表情で両手をぽんっと叩いていたが、私は眉を顰めた。

「だからって、あんな風に退治しなくてもあなたが魔物ハンターなら、もっと簡単でスマートな方法があったはずでしょ。いきなりだったから私、凄くビックリしちゃったんだけど」

「アイツがあたしの顔を見た途端に逃げ出したから、そのまま追いかけたまでさ。

魔物ヤツらの間であたしは有名人らしいからね、腰抜けのお嬢ちゃん」


 愛想もなく言った最後の言葉は、私への皮肉だろうか、やっぱり。ということは昨日彼女の目の前で、座り込んでいたのが私だと憶えていたのか。

「それじゃあ、あんたたち……ええと……」

「私はエリス。エリス・フルーラよ」

「僕はエドワード・ライアンです~。そして隣にいるこの方は、アレックス・ヴォングさんと言います~」

 私たちは口々に自己紹介をした。ただアレックスだけは眉間に皺を寄せて腕を組み、未だに何かを考え込んでいる様子ではあるが。


「ああそう。じゃあ、あたしについてきな」

「………は? なんで??」


 ルティナはごく自然な流れでそう言ってきた。だから反射的について行きそうになったのだが、私は寸前で何とか踏みとどまった。

 何故会ったばかりの身も知らない彼女に、私たちがついて行かなければならないのだろうか。それに「知らない人にはついて行くな」という言葉は、物心が付く前から言い聞かされている一般常識でもある。


「なんでって……あんたたち、狙われているんだろ? あたしが守ってやる」

「は……え、えええええー???」

 私は吃驚して思わず大きな声を上げてしまった。


 確かに先程助けてくれたことには感謝しているし、ありがたいとも思う。

 しかし初対面の私たちに対していきなり「守ってやる」など……そんなことを軽く言ってくるだなんて、普通だったら警戒するに決まっている。

 私が無言で疑いの眼差しを向けると、それに気付いた彼女はおもむろに眉を顰めた。そして苛ついたような表情に変わると、少しクセのある錆色短髪を無造作に左手で掻き回す。


「ったく、分かったよ。正直に言おう。理由は三つだ」

 私の言いたいことを察したのか、ルティナはそう言いながら左指を三本突き立てた。


「まず一つ目は、あんたの持っているソレ、返して貰おうか」

「へ? ……あ、ああ、コレね」

 言われた私は、自分が小脇に抱え込んでいる物に視線を落とした。それは最初にルティナから預かっていた、饅頭の入った箱である。


「まさかまだ預かってくれていたとはな。普通あの状況だったら、途中で捨てているぞ」

「そりゃいきなり渡された物とはいえ、一応他人の物だし。勝手に捨てるわけにもいかないでしょ」

 有無を言わせず人に頼んでおきながら、そんな言い方をするなんて。

 私は明らかにムッとして、箱をルティナに突っ返した。本当は捨ててしまおうかとも思ったのだが、結局ずっと持っていたのだ。


「ああ、それはすまなかった。これは謝礼だ」

 ルティナは直ぐに謝ると、私の手の平へ饅頭を三つ乗せてきた。彼女が予想外の行動をしたので、私は呆然とそれを見詰める。


 ルティナって、もしかして。


 実はわりと『良い人』だったりするのだろうか。外見だけで判断するならば愛想の欠片もなく、一見恐そうな印象ではあるのだが。


「そして二つ目は、あの魔物たちだ。彼奴らはギルドでも指名手配されている」

「え、そうだったの?」

 指名手配をされている魔物だというのであれば、それを専門職にしている彼女がこの機を逃すはずはないだろう。


 しかし疑問なのは、何故そのような魔物が私たちを狙っているのか、ということだ。

 最初はこの前遭った、上位クラスの魔物「サラ」に命令されたのかとも思った。しかしあの時は彼女に『わざと見逃された』のである。


 どうやら私たちは彼女にとって、必要なモノらしいのだ。といっても正確には『アレックスだけが』であるが。

 そして恐らくであるが彼女には、まだ私とエドのことがバレてはいないと思う。でなければ能力のあるアレックスにまで、危害を加えてくるはずがないからだ。


「最後の三つ目。こいつはあたしから、あんたたちへの依頼だ」

「依頼?」

「そうだ。あんたたちにやってもらいたいことがある」

「僕たちにですか~? ルティナさんに頼まれるような~難しいことは出来ないと~思いますけど~」

「なに、実に簡単なことだよ」


 首を傾げたエドに向かってニヤリと笑いかけた彼女は、事も無げに言葉を続けた。


「モンスター・ミストを破壊してほしい」

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