第1話 道程1
第1章 暗殺者(エリス編)
「火炎砲弾」
私は敵に火の弾を放つ。と同時に、ディーンも動いていた。
「水爆泡撃」
ディーンの放った水泡が、私の火弾に当たると爆発した。辺りには濛々と煙が立ち込めている。
敵――ゴブリンはその煙で完全に囲まれ、怯んだようだった。その場で動きが止まったのだ。
その瞬間、アレックスが透かさずその中へと突っ込んでいった。
徐々に晴れてくる煙の中には佇むアレックスと、小さなオジさんのような容姿をしているゴブリンが数匹ほど地面へ横たわっていた。
煙の中は視界が悪く相手の姿は見えないが、それを作る前に相手の位置さえ特定できれば倒すのは容易なことだ。
「取り敢えずこの辺は、これで最後かしら」
私は周囲を見回しながら呟いた。
辺りは暗闇であったが、光属性の灯りを二~三体ほど点けていたために、この場所だけ少し明るくなっている。
「それにしてもこの辺り、町が近いわりには魔物がやたら多いわね」
魔物というのは大抵が森や洞窟、人間や他の魔物が住まなくなった廃墟などを好んで根城にする傾向にある。つまりヒトと魔物とでは住処に若干の違いがあり、殆ど重複はしないのだ。
といっても人里へ下りてきては町村を襲撃したり、旅人が街道を歩いていると襲われたり、そういったケースもよく聞く話だった。
そのため、各町村に配置されている王国統轄直属機関『ギルド』が他術士たちと協力し、討伐隊を編成する。そしてそれによって増えた魔物を一掃するのだ。
「そろそろアクニカ村のギルドが、討伐に乗り出す頃なんじゃないか? この付近で魔物が急に増えだしたという話は、さっきの村でも噂になっていたようだしね」
倒した魔物の処理をしながらそう言ったのは、私と同じ精霊術士のディーンである。
彼はその証でもある外衣フードを目深に被っており、唯一見えている口元には不気味な笑みを湛えていた。
全身黒ずくめで、一見すると墓守にも見えるその姿は「死体を埋める」という作業も手伝ってか、正に邪悪そのものであった。しかしその下には甘いマスクが隠れており、かなりの美形なのだ。
ディーンと従兄弟である剣士のアレックス。
美形の二人が揃えば、街中の女性たちが振り向かないわけがない。しかし普段のディーンは「このほうが落ち着く」という理由からフードを被ったままで生活しており、この不気味な佇まいのおかげで通行人たちは誰も近寄ってはこなかった。
「それに何故かここ数年で、下位クラスの動きが活発化してきているという噂だ。町や村が襲われる回数も増えてきているらしい。国もその辺りの動向には、警戒しているらしいよ」
表面上の容姿とは正反対の爽やかな口調で、ディーンは続けて言った。
この話は私が故郷の村を離れる時にも、父から聞かされていたことだった。
町村を襲う魔物は大抵、下位クラスである。しかも下位クラスは中位クラス以上には絶対服従だった。
魔物の世界では、弱者が強者に抗うということを全くしないらしい。つまり下にいる魔物が活発になっているのは、中位クラス以上が何か良からぬ事を企んでいる可能性がある、ということだった。
そのことも念頭に置いて魔物には十分気を付けるようにと、父からは出発する際に口が酸っぱくなるほど注意されていた。
「やっぱりそうなんだ。ウチの村も半年ほど前に襲われたのよね。話に聞けば村が襲われたのは、約五十年振りなんだって」
「その点、我が故郷は安全だな。襲われる心配がない」
辺りを警戒しながら、前を歩いているアレックスが言ってきた。




