第14話 追撃者
その原因は一つしか思い付かなかった。
この前の魔物に付けられた奇妙な紋様。それしか考えられない。
剣を再び受け止めたアレックスは、それを押し戻した。液体の蒸発するような音を立てながら、男の持つ短剣が斬られていく。
アレックスはそのまま振り下ろしていた。が、それは切っ先を掠めたにすぎなかった。相手が後方跳躍で避けたのだ。しかし口元を覆っていたマントは切られている。
「それが貴様の能力か」
男はここで初めて露出した口端を上げると、折られた短剣を無造作に投げ捨てた。
私の足元に転がってきたそれは、刃の部分が溶けたように真っ二つになっている。属性を付けたアレックスの剣は、金属をも溶かす能力を持っているのだ。
男は新たに同様の剣を懐から取り出すと、再び攻撃を仕掛けていく。一体いくつ隠し持っているのだろうか。
(それにしてもあの人、まだ本気で戦ってはいないわね)
足元に落ちている刃の欠けた柄を見れば分かる。
精霊石が付いていないのだ。
精霊術士以外の術士であるならば、メインの武器には大抵付いているはずである。例えどんな術士であっても、特に魔物との戦闘では属性の力は欠かせないからだ。
私は彼らが戦っている間に、タイミングを計りながらじりじりと後退していった。
「エリスさ~ん、アレックスさ~ん!!!」
私たちを呼ぶ聞き慣れた高音が、背後にある狭い路地の奥のほうから響いてくる。
「逃げてくださ~いっ!!!」
その声に対して、私は後ろを振り向きたくはなかった。何となく嫌な予感がするのだ。
何故なら、つい最近にも似たような場面に遭遇した気がするのである。もしかしてこれが世間で言うところの『デジャヴ』というやつなのだろうか。
と、風を切るような音が直ぐ近くで聞こえてきた。
足元にソレが突き刺さるのを見た私は、反射的にその場から飛び退いていた。
振り返ると案の定、エドがこちらへ向かって必死の形相で走ってくるところである。しかもその背後からは、短剣が何本も投げられてきていた。
「な…っ、ちょ、エド!??」
私は咄嗟に風のシールドを張った。それは音を立てて跳ね返される。
「は……あれ??」
剣がシールドで阻まれたのだ。つまりは私の術が「正常に機能」しているということになる。
「何で? だってさっきは弱い術しか出せなかったのに」
私は混乱していた。
思わずいつもの癖でシールドを出してしまったが、弱術しか放てないとしたら防御もできないはずなのだ。
先程の術と今の術での違いは、攻撃か防御ということだけである。
自身の精神力と大気中にある精霊力。それらを精霊石で融合させ増幅し、術文を使い一気に放出する。攻撃と防御に違いはない。使用方法は同じはずだった。
「エリスさん、早く逃げないと~敵が来てしまいます~」
エドが私の後ろへ回り込みながら叫んだ。
「へ? 敵???」
前を見ると、黒い物体がこちらへスピードを上げて向かってくるところだった。
だが目の前で一瞬にして消えた。
私が慌てて周囲を見回していると、
「むぅっ、いつの間に!?」アレックスの驚くような声が聞こえてきた。
私たちに攻撃を仕掛けてきた男。
その横にはいつの間に現れたのかもう一人、別の男がいたのだ。この男もマントのようなものを羽織り、口元が布で覆われていた。
背格好や着ている服も、隣の男と全く一緒だ。




