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覇王の遺児 ― 信忠天下記 ―  作者: ゆちゃ
第1章

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5.清洲城


夜が明けた。

東の空が白み、やがて淡い光が大地を照らし始める。


尾張の平野。

一面に広がる田畑は、朝露に濡れていた。

その中を、一団の騎馬が進んでいる。

泥に汚れ、鎧は傷だらけ。

だが、その先頭を行く男の背はまっすぐだった。


織田信忠

彼は前を見据えている。

その視線の先に――

城があった。


清洲城

白い城壁。

朝日に照らされ、静かに佇んでいる。

家臣の一人が息を吐いた。

「……戻って参りましたな」

その声には安堵が滲んでいた。

信忠は何も言わない。

ただ城を見つめている。

(ここからだ)

心の中でそう呟いた。



城門前。


番兵が騎馬の一団に気づく。

「止まれ!」

だが先頭の武者の顔を見た瞬間――

「……殿!?」

「信忠様だ!!」

門が開かれる。

城内は一気に騒然となった。

鐘が鳴り響く。


ドォン……ドォン……


武士たちが駆け回る。

「信忠様ご帰還!!」

「御無事!!」

その声が城中に広がる。

だが同時に、別の声も広がっていた。

「信長様は……?」

誰も答えられない。



広間。


重臣たちが集められる。

だが、そこにいる顔ぶれは限られていた。


柴田勝家もいない。

丹羽長秀もいない。

滝川一益もいない。


彼らはまだ各地にいる。


ここにいるのは、尾張・美濃周辺に残された家臣たち。

中堅武将、城代、奉行衆。

言い換えれば、織田家の中枢だが、決定力を欠く層であった。

その前に、信忠が現れる。

泥に汚れた鎧。

血の跡。

沈黙が落ちる。

信忠はそのまま上座に立った。

そして言う。


「父上は討たれた」


どよめき。

誰かが息を呑む音が響く。

一人の家臣が震える声で言う。

「まさか……」

信忠は続ける。

「明智光秀の謀反だ」

その名が出た瞬間、空気が変わる。


怒り、動揺、恐怖。

すべてが混ざる。

信忠は全員を見渡した。


「だが」


その一言で静まる。


「織田家は終わらぬ」


その声は静かだが、圧倒的だった。

一歩前に出る。


「すでに家督は我にある。だが――今ここで改めて示す」

「私が織田家を継ぐ」


沈黙。

誰もすぐには答えられない。

理由は明確だった。

正式な後継儀礼はまだない。


さらに――

信長の死も、確定情報ではない。

だが、ここで決めなければ、織田家は分裂する。


その時だった。

年長の家臣が進み出た。

「……殿」

ゆっくり膝をつく。

「御嫡男である以上、他に道はございませぬ」

その言葉を皮切りに、次々と膝がつく。


「ははっ!」


だが、全員ではなかった。

一部の家臣は動かない。

視線を交わしている。

(様子を見るべきか……)

(柴田様はどう動く……)

(丹羽様は……滝川様は……)


その空気を、信忠は見逃さなかった。

(まとまっていない)

(当然だ)


織田家は巨大すぎる。

誰もが次を狙う。

その時、伝令が駆け込んできた。


「急報!!」

「堺より書状!」

差し出された文には、名があった。


丹羽長秀

信忠は開く。

短い文だった。

「事、急変。上様の報、未だ不確。

ただし明智討つべし。御無事を祈る」


信忠は目を細めた。

(長秀は動く)


さらに別の伝令。

「北陸より報せ!」

「柴田勝家、上杉と対陣中!」


つまり、すぐには戻れない。

信忠は考える。

(時間がかかる)

(その間に、情勢は決まる)

そしてもう一つの報が届く。


「播磨方面!」

「羽柴秀吉軍、急速に東進!」

その名に、空気が張り詰める。


羽柴秀吉


信忠はゆっくり言った。

「……来るか」


忠臣か。

野心家か。

まだ分からない。

だが一つだけ確かなことがある。

「天下は空いた」

誰も言葉を発しない。

信忠は続ける。

「各地へ使者を出せ」

「織田の諸将を呼び戻す」

「兵を集める」

家臣が応じる。


「はっ!」

信忠は最後に言った。

「京へ向かう準備をせよ」

ざわめき。

だが今度は、誰も反対しなかった。

理由は明確だった。

この男が、戦う覚悟を決めているからだ。

そして同時に、誰もが感じていた。

これは単なる仇討ちではない。


これは「天下の争い」

その始まりであると。

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