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覇王の遺児 ― 信忠天下記 ―  作者: ゆちゃ
第1章

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1/15

1.敵は本能寺にあり

天正十年六月二日。


京の町は、まだ夜の静けさの中にあった。

梅雨前の湿った風が町を抜け、

鴨川の水面には薄い霧が漂っている。


寺町通りに建つ寺院、本能寺

その本堂の奥で、ひとりの男が眠っていた。


天下人

織田信長

畳の上に広げられた寝具の横には刀が置かれている。

信長は熟睡していたわけではない。

彼は昔から眠りが浅かった。

わずかな音でも目を覚ます。


そして、その夜。

遠くで何かが動く気配を感じた。

信長はゆっくりと目を開いた。

「……」

耳を澄ます。

しかし静かだ。

信長は再び目を閉じた。


その頃――

京の外れ。

暗い街道を、数千の軍勢が進んでいた。

松明の灯りが列になって揺れる。

鎧の擦れる音。

馬の息。

誰も声を出さない。

先頭を進む男が手を上げると、軍勢は一斉に止まった。


その男の名は

明智光秀

光秀は遠くに見える京の町を見つめていた。

その視線の先には、本能寺がある。

家臣の斎藤利三が近づく。

「殿……」

光秀は黙っていた。


利三が続ける。

「本当に……やられるのですな」

光秀はゆっくり息を吐いた。

「……」

その顔には迷いがあった。

だが次の瞬間。

その迷いは消える。

「天下のためだ」

静かな声だった。

しかし、はっきりと言った。

光秀は振り返り、軍勢を見渡す。

一万三千。

すべて精鋭。

そして叫ぶ。

「進め」

軍勢が動き出す。

その時、夜空に最初の銃声が響いた。

パンッ!!

本能寺の門に火縄銃が撃ち込まれた。


「敵襲!!」

寺の中で僧が叫ぶ。

「明智軍だ!!」

次の瞬間、光秀が叫んだ。

「敵は――」

軍勢が止まる。

一瞬の沈黙。

そして。


「敵は本能寺にあり!!!」


一万三千の兵が一斉に突撃した。

門が破られる。

火が放たれる。

寺は瞬く間に戦場になった。

その騒ぎで信長も起き上がった。


襖が開く。

小姓の森蘭丸が駆け込んできた。


「上様!!」

息を切らしている。

「明智光秀が反旗を翻しました!」

信長は一瞬、目を細めた。

「……光秀か」

驚きはない。

むしろ納得しているようだった。

信長は静かに立ち上がる。


「是非もなし」


蘭丸は震えた。

信長は刀を取る。

「蘭丸」

「は!」

「信忠に伝えよ」

蘭丸は顔を上げた。

信長は言う。

「織田家を守れ、と」

外では銃声が激しくなる。

火の手が上がり、寺の柱が燃え始めていた。

信長は槍を手に取る。

その背中は静かだった。

「さて」

信長は歩き出す。

「明智め……」

炎の向こうに敵の兵が見える。

信長は槍を構えた。

戦が始まる。


その頃。

京の二条御所では――


信長の嫡男、織田信忠がまだ眠っていた。


彼はまだ知らない。

この夜が自分の人生を

そして日本の歴史を変えることになるとは。


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