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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第9章 東海道の茶屋にて

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

第9章「東海道の茶屋にて」をお届けします。


尾張での戦いを終え、京へと旅立った夜凪よなぎたち一行。

今回は、次なる戦いを前にした、三人の束の間の日常を描きます。

奇妙なパーティの旅路をお楽しみください。

京へと続く東海道は、戦国の世とは思えぬほどの活気に満ちていた。

威勢のいい掛け声と共に荷を運ぶ商人、京の都に夢を見る若者、遠い故郷へ向かう巡礼者、そして主を失い当てもなく彷徨う浪人たち。

様々な人間が行き交うその道筋は、まるで日ノ本の生命力を凝縮した縮図のようだった。

尾張を出て数日、夜凪、桔梗、快然の一行は、とある宿場町の街道沿いにある茶屋で束の間の休息を取っていた。

初夏の柔らかな日差しが、彼らの旅の疲れを優しく包み込んでいる。


「うむ! やはり旅の醍醐味はこれに限りますな!」


快然が、店の名物だというみたらし団子を串ごと豪快に頬張りながら、心の底から満足げに声を上げた。

その口の周りは、甘辛いタレでべとべとになっている。

行儀というものを、母親の腹の中にでも忘れてきたかのような見事な食べっぷりだった。

彼の前には、すでに空になった串が小さな山を築いている。


「快然さん! 少しは落ち着いて食べてください! 口元が汚れていますよ!」

「おお、これは失敬! いや、しかしあまりの美味さに我を忘れてしまいましたわ!」

「まったく……子供じゃないんですから」


桔梗が、呆れたように綺麗ため息をつきながら、懐から取り出した手巾(てぬぐい)で快然の口を拭ってやる。

その光景は、まるで世話の焼ける大きな弟と、しっかり者の姉のようだった。

快然は、悪びれる様子もなく、にぱっと快活に笑う。


「いや、しかし桔梗殿! 腹が減っては戦はできぬ、と申すでしょう!」

「それはそうですけど……限度というものがあります。もう五本目ですよ」

「腹を満たしてこそ、拙僧の有り余る法力も湧いてくるというもの! これも京へ向かうための大事な務めなのです!」

「もう、理屈になっていません……」


そんな二人を、夜凪は少し離れた席から、ただ黙って見ていた。

彼の前には、まだほとんど湯気の立ったままの緑茶が置かれているだけだ。

警戒を解いているわけではない。

いつ、どこから闇御門の刺客が現れるとも限らないのだ。

だが、それだけではない理由が、彼をこの場に縫い付けていた。


(……これが、日常か)


復讐のためだけに、孤独な道を歩んできた彼にとって、目の前で繰り広げられる光景は、あまりにも異質だった。

他愛ない会話。

屈託のない笑い声。

互いを気遣う、温かな空気。

それらすべてが、夜凪の知らない、遠い世界の出来事のように感じられた。

まるで、薄い膜を一枚隔てた向こう側を眺めているような、奇妙な感覚だった。


もちろん、彼らとて遊びで旅をしているわけではない。

それぞれが、闇御門に対する深い憎しみと、譲れない目的を胸に秘めている。

だが、それでも彼らは笑うのだ。

まるで、戦いのことなど一時でも忘れてしまえるかのように。

そのことが、夜凪の心をわずかに、そして確かに揺さぶっていた。


(馴れ合うつもりは、ない)


自分にそう強く言い聞せる。

彼らは、あくまで目的を同じくするだけの、束の間の協力者に過ぎない。

復讐を果たせば、いずれは別々の道を歩む存在だ。

だが、心の奥底で、とうに枯れ果てたと思っていた感情が、小さな芽を出し始めていることにも、夜凪は気づいていた。

それは、戸惑いであり、そしてほんの少しの、羨望にも似た感情だった。


「お、夜凪殿! あなたも一本どうですかな? ここの団子は絶品ですぞ!」

「……俺はいい」


快然の屈託のない誘いを、夜凪は短く断る。

その素っ気ない態度に、快然は気を悪くした様子もなく、からからと笑った。

「そうですか! では遠慮なく、拙僧がいただきましょう!」

「まだ食べるんですか!?」

「おうとも! おかみさん! 団子をもう三本!」


再び始まるコミカルなやり取りを眺めながら、夜凪はそっと茶を一口すすった。

茶の温かさが、乾いた喉をゆっくりと潤していく。

悪くない、と、ふと思ってしまった。

仲間と共にある、この束の間の平穏が。

だが、その時、茶屋の隅で賭場から戻ったらしい浪人たちが、下卑た笑い声を上げた。


「おい、見たかよあの三人組」

「ああ。ガキに、やけに綺麗な姉ちゃん、それに生臭坊主だろ? 何の集まりだありゃ」

「あの姉ちゃん、中々いい値になりそうだぜ……」


その言葉が耳に入った瞬間、夜凪の纏う空気が凍てついた。

だが、彼が動くより先に、快然がすっくと立ち上がっていた。

その顔から、先ほどまでの陽気な笑みは完全に消え失せている。


「……そこのお侍方」

「あ? なんだ坊主」

「今、拙僧の大事な仲間のことを、何と申されたかな?」


快然の低い声に、浪人たちがたじろぐ。

その巨躯から放たれる威圧感は、尋常なものではなかった。

「ひっ……! な、何でもねえよ!」

「ならばよろしい。二度とそのような口を利かぬことですな。仏の顔も三度まで、と申します故」

そう言って快然が席に戻ると、浪人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「……快然さん」

「いけませんな、ああいう輩は。桔梗殿のようなおなごを物のように見るなど、万死に値します」

「……」

「おっと、夜凪殿もですぞ! あなたも拙僧の大事な仲間ですからな!」


快然が、再び太陽のように笑う。

仲間。

その言葉が、夜凪の胸に小さく、しかし確かな温もりを持って響いた。

だが、彼らはまだ知らない。

この何気ない日常風景こそが、次なる死闘を前にした、嵐の前の静けさであることを。

闇御門最強の実行部隊「五行衆」の影が、すぐそこまで迫っていることを、三人はまだ知る由もなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


豪快な快然かいぜんと、しっかり者の桔梗ききょう、そしてそんな二人を眺める夜凪。

少しずつですが、三人の間に「仲間」という意識が芽生えてきたようです。


しかし、そんな束の間の平穏を打ち破る、新たな脅威の影が……。

闇御門やみのみかど最強の実行部隊「五行衆」。次回、ついにその一角が三人の前に姿を現します。

ご期待ください!


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