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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第8章 東へ、呪われた都へ

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

第8章「東へ、呪われた都へ」をお届けします。


破戒僧、獅子堂快然ししどう かいぜんを仲間に加え、ついに三人となった夜凪よなぎたち。

旅立ちを前にした彼らの元へ、尾張の風雲児、織田信長からの呼び出しが……。

歴史上の英雄との出会いは、彼らの運命に何をもたらすのでしょうか。


それでは、本編をお楽しみください。

儀式が止められた洞窟に、気まずい沈黙が流れていた。

元凶であった式神は跡形もなく消え去り、後には三人の男女が残された。

復讐に生きる少年、月読夜凪。

闇に抗うくノ一、不知火桔梗。

そして、突如として現れた破戒僧、獅子堂快然。

出会ったばかりの三人を、夜明け前の冷たい空気が包み込んでいる。


「いやはや、しかし見事な連携でしたな!」


沈黙を破ったのは、快然の豪快な声だった。

彼は錫杖を肩に担ぎ、にかっと歯を見せて笑う。

「お二人を見て、拙僧は感動いたしましたぞ! 闇を討つという同じ志を持つ者が、この日ノ本にまだ残っていたとは!」

そのあまりに屈託のない物言いに、桔梗は少しだけ面食らっているようだった。

夜凪は、ただ黙って男の顔を見ている。


(この男……底が知れない)


その法力は本物だ。

暴走した式神を、ただの一撃で浄化してみせた。

だが、その身から発せられる気は、聖職者のそれとはどこか違う、荒々しさを隠しきれていない。

何より、その瞳の奥には、自分たちと同じ闇御門への深い憎しみが渦巻いていた。


「して、これからどうなさるおつもりで?」

「……決まっている。闇御門を追う」


快然の問いに、夜凪が即答する。

「奴らの本拠地は、京にあるはずだ」

「ほう、京ですか! ならば話が早い! 拙僧も京を目指しているところでしてな!」

快然が手を打った、その時だった。

洞窟の外から、複数の足音が聞こえてきた。

三人の間に、再び緊張が走る。


「何者だ……!?」


夜凪が孤月に手をかけ、桔梗が苦無を構える。

だが、入り口に現れたのは、闇御門の術者ではなかった。

掲げられた松明の灯りに照らし出されたのは、織田家の家紋が染め抜かれた鎧を纏った、一人の若武者だった。

彼は三人を一瞥すると、驚くほど冷静な声で言った。


「貴殿らが、今川の兵を退けた者たちとお見受けする」

「……そうだとしたら?」

「我が主、織田信長様が、お会いになりたいとのこと。ご足労願えますかな」


織田、信長。

その名に、桔梗が息を呑んだ。

尾張の風雲児、うつけ者と謗られながらも、この地を完全に掌握した若き支配者。

なぜ、その男が自分たちを?

夜凪の心にも、当然の疑問が浮かぶ。


(俺たちのことを、どこで……)


だが、断る理由はなかった。

むしろ、渡りに船かもしれない。

この地の支配者から、何か情報を得られる可能性もある。

夜凪が無言で頷くと、武者は「こちらへ」とだけ言い、背を向けた。

三人は、互いに顔を見合わせると、その後ろについて歩き始めた。


案内されたのは、清洲城の一室だった。

煌びやかな装飾は何一つなく、ただだだっ広いだけの、殺風景な部屋。

その中央に、一人の男が胡座をかいていた。

虎の描かれた派手な着物を着崩し、その瞳は夜の闇よりもなお深く、鋭い光を宿している。

間違いない。

あれが、織田信長。


「……お前たちが、闇御門の儀式を止めた者らか」


信長の声は、若さに似合わず、不思議なほどの威圧感をまとっていた。

まるで、こちらの心の奥底まで見透かされているかのようだ。

快然が代表して、一歩前に出る。

「いかにも! 拙僧たちが、奴らの悪行を打ち砕いてやりましたわ!」

「……ほう」


信長は、快然には興味がない、とばかりに視線を夜凪へと移した。

その射貫くような視線に、夜凪は臆することなく正面から向き合う。

「……お前のその力、面白いな」

信長が、ふっと口の端を吊り上げた。

「言葉で事を成すか。神仏の類か、あるいは鬼か。どちらにせよ、常人の技ではない」


(……見抜かれている)


夜凪の背筋に、冷たいものが走る。

この男、ただ者ではない。

自分の力の根源を、一目で見抜いてみせた。

信長は、楽しむように言葉を続ける。


「闇御門がこの国を裏から蝕む、忌々しい存在であることは、俺も知っている」

「……!」

「だがな、小僧。俺は、俺のやり方でこの天下を覆す。神にも仏にも、ましてや化け物の力など借りるつもりはない」


それは、夜凪たちへの明確な拒絶だった。

だが、同時に、敵意でもない。

ただ、己のやり方だけを信じるという、絶対的な自信。

この男もまた、自分たちとは違う形で、この日ノ本という国と戦っているのだ。

信長は、立ち上がると、夜凪のすぐ側まで歩み寄った。


「面白い力だ。せいぜい、俺の天下統一の駒として、好きに足掻いてみせろ」


信長は、そう言うと、意味深な笑みを浮かべた。

その瞳の奥に宿る光の意味を、夜凪はまだ理解できない。

謁見は、それだけで終わった。


城を出た三人は、朝靄のかかる道を黙って歩いていた。

信長との出会いは、三人の心に、確かな一つの事実を刻み込んでいた。

頼れる者などいない。

この戦いは、自分たちの手で終わらせるしかないのだと。

やがて、東の空が白み始め、朝日がその姿を現した。


「……行くか」


夜凪が、ぽつりと呟いた。

その声には、迷いはなかった。

「ええ、行きましょう」

桔梗が、力強く頷く。

「おう! 目指すは京! 闇御門の奴らを、一人残らず地獄へ送ってくれるわ!」

快然が、拳を天に突き上げた。


目的は、一つ。

向かう場所も、一つ。

三人は、昇る朝日をその背に受けながら、京へと続く東海道を歩み始めた。

それは、孤独だった者たちが、初めて仲間と共に踏み出す、希望への第一歩だった。

彼らの本当の旅が、今、この瞬間から始まる。

復讐と、宿命と、そしてまだ見ぬ未来をその手に掴むための、長い長い旅が。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これにて第一部「尾張動乱編」は、閉幕となります。


信長との出会いを経て、自分たちの手で道を切り拓く覚悟を新たにした三人。

復讐と、宿命と、そして仲間との絆を胸に、彼らの本当の旅が今、始まりました。


次章より、いよいよ舞台は京へ。闇御門やみのみかどの本拠地で彼らを待ち受けるものとは――。

第二部も、引き続きお楽しみいただければ幸いです!


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