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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第7章 不動の破戒僧

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

新章の開幕となる、第7章「不動の破戒僧」をお届けします。


闇御門やみのみかどの術者を討ち果たし、儀式を止めたはずだった夜凪よなぎ桔梗ききょう

しかし、暴走した呪いが最悪の化け物を生み出します。絶体絶命の二人の前に現れたのは――。


それでは、本編をお楽しみください。

儀式は、確かに止められたはずだった。

主を失った邪悪な霊力は霧散し、洞窟には静寂が戻るはずだった。

だが、夜凪の肌を粟立たせるような悪寒は、一向に消え去らない。

それどころか、先ほどよりも密度を増し、洞窟全体を圧迫するかのように膨れ上がっていく。

床に描かれた魔法陣が、消えるどころか、より一層禍々しい紫の光を放ち始めたのだ。


「……どういうことだ!? 術者は倒したはずなのに!」


桔梗が、驚愕に目を見開いて叫ぶ。

無理もない。

儀式の中核を担っていた朽葉と鉄斎は、もうこの世にいない。

それなのに、彼らが遺した呪いだけが、暴走を始めたかのように活性化している。

魔法陣に吸い寄せられるように、洞窟内に漂っていた霊力の残滓や、生贄にされた兵士たちの無念が渦を巻き始めた。


(まずい……! 制御を失った力が、一つの塊になろうとしている……!)


夜凪の背筋を、冷たい汗が伝う。

それは、もはや術ではない。

ただ純粋な、負の感情とエネルギーの奔流だ。

渦の中心で、何かが形を成していく。

それは、兵士たちの苦悶の表情を浮かべた、巨大な顔だった。

そして、無数の腕や足が、まるで泥の中から湧き出るように現れ、一つの巨大な肉塊を形成していく。


「あれが……儀式の成れの果て……式神……!」


桔梗が、絶望的な声で呟いた。

それは、本来練成されるはずだった式神とは、似ても似つかぬ異形の怪物だった。

大きさは岩屋を埋め尽くさんばかりに巨大で、その全身からは怨念と憎悪が黒い瘴気となって立ち上っている。

知性など、もはや欠片も感じられない。

ただ、目の前にいる生者を喰らい尽くすことだけを目的とした、破壊の化身。


「グルオオオオオオオッ!」


式神が、地獄の底から響くような咆哮を上げた。

洞窟全体が、その声にビリビリと震える。

夜凪と桔梗は、咄嗟に身構えるが、先ほどの戦いで体力も霊力も消耗しきっていた。

夜凪に至っては、立て続けに言霊を使った影響で、脳を直接掴まれるような激しい頭痛に襲われている。


(くそっ……! 身体が、重い……!)


式神が、その巨体に見合わぬ速さで二人へと迫る。

無数の腕が、まるで津波のように押し寄せてきた。

夜凪は、最後の力を振り絞り、孤月を振るってその数本を斬り落とす。

桔梗もまた、苦無を投擲して応戦するが、焼け石に水だった。

斬っても斬っても、すぐに新たな腕が生えてくる。


「きゃっ!」


桔梗が、式神の一撃を避けきれずに吹き飛ばされ、壁に強く叩きつけられた。

「桔梗!」

夜凪が叫ぶが、彼女を助けに行く隙もない。

もはや、これまでか。

夜凪の脳裏に、一瞬だけ、死の覚悟がよぎった。

その、まさに絶体絶命の瞬間だった。


「――南無三! 悪霊退散!」


洞窟の入り口から、朗々とした、それでいて力強い声が響き渡った。

夜凪と式神が、同時にそちらへと視線を向ける。

そこに立っていたのは、豪雨に濡れた巨漢の僧侶だった。

歳は三十路手前だろうか。

剃り上げた頭に、破れた袈裟を纏い、その手には人の背丈ほどもある錫杖(しゃくじょう)が握られている。

その姿は、およそ聖職者とは思えぬほど、荒々しい気に満ちていた。


「な、何だ、お前は……!?」


夜凪が、困惑の声を上げる。

だが、その僧侶は夜凪たちを一瞥すると、不敵な笑みを浮かべた。

「見ての通り、通りすがりのただの坊主よ。それより、そこの醜悪な化け物は、拙僧(せっそう)が引き受けた!」

言うが早いか、僧侶は式神に向かって、堂々と歩みを進めていく。

式神もまた、新たな獲物を見つけた、とばかりにその腕を振り上げた。


「――喝っ!」


僧侶が、錫杖を力強く地面に突き立てる。

その瞬間、彼の身体から金色の光――法力が溢れ出し、巨大な障壁となって式神の攻撃をいとも容易く受け止めた。

いや、受け止めただけではない。

障壁に触れた式神の腕が、聖なる光によって浄化され、塵となって消えていく。


(なんだ……この力は……!?)


夜凪は、信じられないものを見る目で、その光景をただ見つめていた。

闇御門の呪術とは、明らかに系統が違う。

清浄で、そして何よりも、圧倒的に力強い。

僧侶は、錫杖を再び構えると、にやりと笑った。


「闇に生まれし哀れなモノよ。仏の慈悲にて、輪廻の輪へとお還りなさい!」


錫杖の先端が、眩いほどの光を放つ。

放たれた金色の光は、巨大な結界となって式神を完全に包み込んだ。

断末魔の叫びを上げる間もなく、怨念の集合体は、その光の中に跡形もなく消滅していった。

後に残されたのは、静寂と、呆然と立ち尽くす夜凪と桔梗だけだった。


「……ふぅ、一件落着、ですな」


僧侶は、錫杖を肩に担ぐと、豪快に笑った。

その圧倒的な頼もしさと、絶望的な状況を覆されたことによる安堵感で、夜凪は全身の力が抜けていくのを感じていた。

「……助かった。あんた、一体何者なんだ」

夜凪の問いに、僧侶は胸を張って答える。


「拙僧は、獅子堂快然(ししどう かいぜん)! しがない旅の破戒僧でござる!」

「獅子堂……快然……」

「して、お二人こそ、このような場所で何を? どうも、ただ事ではなさそうですが」


快然の言葉に、桔梗がゆっくりと身を起こしながら答えた。

「私たちは、闇御門を……」

その名を口にした瞬間、快然の表情から笑みが消えた。

その目に、夜凪と同じ、深く暗い怒りの色が宿る。


「……闇御門、ですと?」

「ああ。奴らの儀式を止めに来た」

「……そうでしたか」


快然は、天を仰ぐと、奥歯をギリ、と鳴らした。

「闇御門の奴ら……拙僧の寺を焼いた恨み、忘れはせぬぞ……!」

その言葉に、夜凪と桔梗は顔を見合わせた。

この男もまた、自分たちと同じ、闇御門に復讐を誓う者だったのだ。

運命が、三人をこの場所に引き寄せた。

こうして、パーティの最後のピースが、今、確かに揃ったのである。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


絶体絶命の二人を救ったのは、豪快にして最強の破戒僧、獅子堂快然ししどう かいぜん

彼もまた、闇御門に深い恨みを持つ者でした。


こうして、復讐に生きる少年、闇に抗う忍び、仏敵を討つ僧侶という、奇妙で強力なパーティが誕生しました。

三人の復讐の旅は、ここからが本番です。次章からの新たな展開にご期待ください!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります!

感想もお待ちしております。


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