第6章 繋がる刃
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第6章「繋がる刃」をお届けします。
ついに始まった闇御門の術者、朽葉と鉄斎との決戦。
個々の力では歯が立たない強敵を前に、夜凪と桔梗はぶっつけ本番の連携戦闘に挑みます。
序盤のクライマックス、お楽しみください。
「ほう、小娘一人かと思えば、もう一匹、死に損ないがいたとはな」
鉄斎の侮蔑に満ちた声が、洞窟の冷たい空気を震わせた。
夜凪は何も答えず、ただ静かに呪装刀「孤月」を正眼に構える。
その隣で、桔梗が苦無を逆手に握りしめ、低い姿勢を取った。
二人と二匹の獣が、互いの出方を窺うように睨み合う。
先に動いたのは、闇御門の術者たちだった。
「くくく……生意気なガキどもめ」
「まずは、その四肢から切り刻んでくれるわ!」
朽葉が甲高い笑い声と共に、懐から数枚の呪符をばら撒いた。
呪符は紫の光を放ち、地面に転がっていた兵士の骸へと吸い込まれていく。
すると、骸たちがぎこちない動きでむくりと起き上がり、その虚ろな目で夜凪たちを捉えた。
屍を操る、傀儡の術か。
「鉄斎殿、あの小僧は私が」
「小娘は任せたぞ」
二人の短い会話と同時に、鉄斎が巨体に見合わぬ速さで桔梗へと突進する。
その剛腕が振るわれ、岩をも砕かんばかりの拳が彼女に襲いかかった。
桔梗は、それを紙一重で回避し、即座に反撃の苦無を放つ。
だが、鉄斎の皮膚に当たった苦無は、甲高い音を立てて弾かれてしまった。
(硬い……! 術で肉体を強化しているのね!)
桔梗の顔に、驚愕の色が浮かぶ。
一方、夜凪もまた、朽葉の操る屍人たちにてこずっていた。
動きは鈍重だが、数が多く、何より痛覚がないため躊躇なく襲いかかってくる。
孤月で斬り伏せても、すぐに新たな屍人が立ち上がり、終わりが見えない。
「どうした小僧! その程度か!」
朽葉の嘲笑が、夜凪の神経を逆撫でする。
彼の本当の狙いは、この屍人たちではない。
その奥で、次の術を練っている朽葉本人だ。
だが、この数の暴力は、的確に夜凪の足を止めていた。
個々の力では、明らかにこちらが不利だった。
(……このままでは、ジリ貧だ)
夜凪は、奥歯を強く噛みしめる。
ちらりと桔梗の方を見れば、彼女もまた鉄斎の圧倒的なパワーの前に、防戦一方となっているのが見て取れた。
この状況を打破するには、もはや一撃で戦況を覆すほかはない。
夜凪の脳裏に、一つの策が浮かんだ。
それは、成功すれば戦況を覆せるが、失敗すれば二人とも死ぬという、あまりにも危険な賭けだった。
(だが、やるしかない……!)
夜凪は、桔梗へと鋭い視線を送った。
言葉はない。
だが、その視線に込められた意図を、桔梗は正確に読み取っていた。
彼女は、鉄斎の攻撃をいなしながら、こくりと小さく頷く。
ほんの数瞬のアイコンタクト。
それだけで、二人の意思は完全に一つになった。
「――はあっ!」
桔梗が、気合一閃、鉄斎に向かって真正面から突っ込んでいく。
それは、あまりにも無謀な、自殺行為にも等しい突撃だった。
「愚かな!」
鉄斎が、その小さな身体を迎え撃つべく、両腕を大きく広げる。
その、一瞬。
鉄斎の意識が、完全に桔梗へと集中した、その刹那。
「……今だ」
夜凪の唇から、冷たい声が漏れた。
彼は、自分に群がってくる屍人たちを意にも介さず、ただ一点、鉄斎だけを見据えていた。
そして、その瞳に憎悪の炎を燃やしながら、呪いの言霊を解き放つ。
「……止まれ」
絶対的な命令だった。
世界から、音が消える。
鉄斎の巨大な身体が、桔梗を捕らえようとしたその体勢のまま、ぴたりと動きを止めた。
まるで、時間が凍りついたかのように。
その変化に、朽葉が驚愕の声を上げる。
「なっ……馬鹿な!? 鉄斎殿の動きが……!」
だが、その時にはもう、すべてが手遅れだった。
桔梗の突進は、鉄斎を狙ったものではない。
彼女は、凍りついた鉄斎の身体をただの踏み台とし、その背後、無防備な朽葉へと肉薄していたのだ。
そして、鉄斎の動きが止まったことで生まれた、ほんの僅かな隙。
それこそが、この戦いの、唯一の勝機だった。
「――もらったぁ!」
桔梗の鋭い声と共に、彼女の持つ苦無が、朽葉の心臓を正確に貫いていた。
「……がっ……あ……?」
何が起こったのか理解できない、という顔で、朽葉が自らの胸を見下ろす。
そして、そのままゆっくりと、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
主を失った屍人たちもまた、ただの骸へと戻っていく。
「……き、さま……」
言霊の束縛から解放された鉄斎が、怒りに震える声で振り返る。
だが、その時にはもう、夜凪が彼の背後に回り込んでいた。
仲間を、いや、ただ一人の共闘者を信じたからこそ生まれた、完璧な連携。
繋がった刃が、最後の敵を捉える。
「終わりだ」
「……ぐ、あ……ッ!」
孤月が、鉄斎の身体を深く、そして静かに貫いた。
巨体が、ゆっくりと地面に倒れ伏す。
その断末魔の瞬間、鉄斎は信じられないものを見る目で、夜凪を見つめていた。
「……月読の……力が……なぜ……」
それが、彼の最期の言葉だった。
その言葉の意味を、夜凪はまだ知らない。
ただ、その驚愕に満ちた瞳だけが、脳裏に焼き付いて離れなかった。
術者が倒れたことで、洞窟を覆っていた紫の光が、急速に失われていく。
儀式は、完全に止められたのだ。
静寂が戻った洞窟で、夜凪と桔梗は、互いに視線を交わした。
言葉はない。
だが、そこには確かに、孤独な戦いでは決して得ることのできなかった感情が芽生えていた。
仲間と戦うことへの、確かな手応え。
そして、背中を預けられる相手がいるという、温かな信頼感。
夜凪の復讐の道は、今、確かに変わり始めていた。
月読の謎という、新たな宿命をその身に刻みながら。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて序盤のクライマックス、桶狭間編は完結です。
見事な連携で強敵を打ち破り、儀式を阻止した夜凪と桔梗。孤独な戦いでは得られなかった、仲間との確かな信頼が芽生えました。
しかし、敵が遺した「月読の力」という謎の言葉。夜凪の過去に、一体何が……。
尾張での戦いを終え、二人が次に向かう先は。新章も、どうぞお楽しみに!
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