第44章 掴んだその手
最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 物語は、本当の結末へと向かいます。第44章「掴んだその手」をお届けします。
自らの存在と引き換えに、世界を救う言霊を放った夜凪。光の粒子となって消えていく彼を前に、残された桔梗と快然は、絶望の淵で、ある「誓い」を叫びます。 運命の理さえも超える、二人の「絆」の力。その想いは、消えゆく魂に届くのか――。
それでは、本編をお楽しみください。
「―――夜凪さァァァァんッ!!!!」
光。
すべてを飲み込み、すべてを白一色に染め上げた、絶対的な救済の光。
その中心で、月読夜凪の意識は、ゆっくりと溶けていく。
(………………あ)
身体が、ない。
手も、足も、その感覚すらない。
ただ、温かい光の中に、自分が「還っていく」ような、不思議な浮遊感。
憎しみも、哀しみも、もうない。
ただ、ひたすらに、穏やかだった。
(………………これで、終わりか)
父様。母様。
俺は、復讐を。
いや、違う。
俺は、未来を、護れただろうか。
(………………桔梗、快然)
(………………ありがとう)
(………………俺の、仲間)
最後の感謝を、心の中で呟く。
もう、声は出なかった。
彼の「存在」そのものが、この世界から、定められた理に従って、消え去ろうとしていた。
もう、思い残すことは、ない。
夜凪の意識が、永遠の安らぎへと、沈み込もうとした。
その、刹那。
「―――行かせない!」
闇を引き裂くような、絶叫が聞こえた。
桔梗の声だった。
「―――ダメだ! ダメだ、夜凪殿!」
快然の、血を吐くような叫び。
崩壊する奈落宮の中。
岩盤にしがみつきながら、二人は、光となって消えていく「彼」がいた空間を、必死に見つめていた。
「嘘だ………………!」
桔梗の瞳から、大粒の涙が、止めどなく溢れ出す。
「消えちゃ、ダメだ!」
「夜凪さん!」
彼女は、光の粒子が舞う虚空へと、必死に手を伸ばす。
だが、その指先は、虚しく、空を切るだけ。
彼を繋ぎ止めるものは、もう、何もない。
あの、残酷な幻術の通りに。
彼は、忘れ去られ、消えていく。
(………………ああ)
(………………約束、したのに)
桔梗は、絶望に、膝から崩れ落ちた。
『――私が、あなたの記憶になります』
そう、誓ったのに。
彼を、失う。
その、どうしようもない「喪失感」が、彼女の心を、粉々に砕いた。
「………………桔梗殿!」
快然が、傷だらけの身体を引きずり、彼女の肩を掴んだ。
「泣いている場合じゃ、ありませぬ!」
「だって!」
「夜凪さんが! 夜凪さんが………………!」
「だからこそ、だ!」
快然は、叫んだ。
その瞳には、涙が溢れていた。
だが、その奥には、あの時と同じ、太陽のような「力強さ」が宿っていた。
「忘れるものか!」
「………………!」
「あいつが、命を賭して、俺たちを護ったんだ!」
「…………」
「この、恩を! この、絆を!」
「…………」
「忘れて、たまるものかッ!」
快然の言葉が、桔梗の心の闇を、打ち抜いた。
そうだ。
魂が、覚えている。
『――私の魂が、あなたの魂を、必ず見つけ出します』
それは、運命さえも、覆すと誓った、彼女の「絆」そのもの。
「………………そう、だ」
桔梗は、涙を拭い、立ち上がった。
その瞳に、再び、鋼の光が戻る。
二人は、光が消え去った、その虚空を、強く、強く、睨みつけた。
「―――夜凪さん!」
「―――夜凪殿!」
二人の叫びが、崩壊する奈落宮に、響き渡った。
「―――俺たち(私)は、忘れない!!!!」
その、魂からの叫び。
それは、夜凪が放った「光」に匹敵するほどの、強烈な「想」の力だった。
世界を書き換える「言霊」の代償。
それが、絆の力ごときに、覆せるものか。
だが。
覆した。
(………………?)
永遠の安らぎに沈むはずだった、夜凪の意識。
その、光の粒子の、一つ一つが。
二人の声に、共鳴するように、震え始めた。
(………………声が、する)
(………………桔梗?)
(………………快然?)
(………………やめろ)
(もう、いいんだ)
(俺は、もう………………)
「―――戻ってこい、夜凪殿!」
「百一回でも、ダチになるんだろうが!」
「―――戻ってきて、夜凪さん!」
「私が、あなたの記憶になるんでしょう!」
「―――お前を、行かせはしないッ!!!!」
二人の「想」が、光の奔流となって、消えかけた夜凪の存在に、殺到する。
それは、鎖。
彼を、この世に繋ぎ止める、何よりも強く、温かい、「絆」という名の、鎖。
「………………!」
「………………あ」
光の粒子となって、霧散しようとしていた夜凪の「存在」が。
その、二人の叫びに、引かれるように、再び、集束を始めた。
奇跡。
いや、必然。
彼らが、あの絶望の東海道で、育んできた絆。
命を賭して、互いを護り合った、その想いの強さが。
ついに、神の定めた「理」さえも、打ち破ったのだ。
「………………!」
「あ………………!」
桔梗の、震える指先が、虚空を指差す。
光の粒子が、渦を巻き。
その中心に、一つの「手」が、形作られていく。
あの、幻術の中で、霞んでいった、彼の手。
それが、今、確かに、そこにある。
「………………夜凪さん!」
「………………夜凪殿!」
二人は、迷わなかった。
崩れ落ちる岩盤を蹴り、その「手」へと、同時に、自らの手を、伸ばした。
そして。
掴んだ。
確かに、掴んだ。
夜凪の、その手を。
「―――ッ!!」
温かい。
幻じゃない。
確かな、実体。
二人の「想」が、光の粒子に、再び「命」を、吹き込んでいく。
掴んだ手を、力任せに、引き寄せる。
「―――戻れェェェェッ!!!!」
光が、弾けた。
集束した光が、急速に、人の形を取り戻していく。
透けていた身体が、確かな「実体」を、取り戻す。
夜凪の身体が、二人の腕の中へと、倒れ込んできた。
「………………あ」
「………………う」
夜凪の、閉じていた瞳が、ゆっくりと、開かれた。
その、蒼い瞳に、映っていたのは。
涙と、泥と、血にまみれて、それでも、自分を抱きしめている、二人の仲間の、顔だった。
「………………き、きょう」
「…………」
「………………かい、ぜん」
「………………っ!」
「………………う、あ、ああああああっ!」
桔梗は、もう、言葉にならなかった。
ただ、子供のように、声を上げて、泣きじゃくった。
夜凪の胸に顔を埋め、その「実体」を、確かめるように。
「よ、よかった………………!」
「本当によかった………………!」
「………………はっはっは」
快然も、その場に、へたり込んだ。
「馬鹿野郎が………………!」
「…………」
「どれだけ、心配させれば、気が済むんですか、この、大馬鹿者が………………!」
快然の目からも、涙が、ぼろぼろと、こぼれ落ちていた。
奇跡。
その、あまりの「感動」に、三人は、ただ、互いを抱きしめることしかできなかった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「―――!」
奈落宮の、最後の崩壊が、始まった。
足元の岩盤が、完全に、砕け散っていく。
「いかん!」
快然が、我に返った。
「泣いている場合じゃなかった!」
「二人とも、立つんだ!」
「ここから、脱出しますぞ!」
「………………ああ!」
「はい!」
すべてが終わった「安堵感」と、奇跡への「感動」。
それを胸に、三人は、互いの身体を支え合った。
夜凪は、最後に、一度だけ、崩れ落ちる玉座を見た。
首領の姿は、もう、どこにもなかった。
光と共に、消滅したのだ。
「………………行こう」
夜凪が、仲間たちに、強く頷きかけた。
「俺たちの、未来へ」
三つの影は、光の粒子となって消えていく、奈落宮を背に。
あの、入ってきた「井戸」の、光が差す方へと。
全力で、駆け出した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「俺たち(私)は、忘れない!!!!」 夜凪が失った存在を、桔梗と快然の「絆」の力が、強引にこの世に引き戻しました。 『私があなたの記憶になる』『何度でもダチになる』。あの誓いは、運命の理さえも打ち破る、本物の「奇跡」の力となったのです。
ついに三人は、奈落宮の底で再び巡り合いました。 しかし、崩壊は止まっていません。果たして彼らは、この地獄から生きて帰ることができるのでしょうか。 次回、ついに最終回。彼らの旅の、本当の結末を、どうかお見逃しなく。
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