第43章 世界のための言の葉
最新話へお読みいただき、ありがとうございます。 物語は最終決戦、クライマックスを迎えます。第43章「世界のための言の葉」をお届けします。
三位一体の一撃さえも、首領を完全には打ち破れない。絶望的な状況の中、夜凪は、自らに残された「最後の切り札」を選び取ります。 それは、自らの「存在」そのものと引き換えに、世界を救う、究極の自己犠牲でした。
それでは、本編をお楽しみください。
轟音。
閃光。
すべてが、白一色に染まり、奈落宮が、その根底から揺さぶられた。
「―――ぐっ!」
「きゃあっ!」
「うおおっ!」
三位一体の、渾身の一撃。
その凄まじい爆心地から、月読夜凪、桔梗、快然の三人は、まるで木の葉のように吹き飛ばされた。
岩盤に背中を強く打ち付け、肺から空気がすべて絞り出される。
(………………はっ、はっ………………)
夜凪は、霞む視界の中で、必死に顔を上げた。
『孤月』は、衝撃で手から弾き飛ばされ、少し離れた場所に転がっている。
(………………やった、か?)
これまでの、どの攻撃とも違う。
快然が命を張り、桔梗が魂を削り、そして、夜凪が未来への願いを込めて放った、最後の一撃。
神のごとき首領であろうと、あれを受けて、無事なはずが。
「………………はは」
乾いた、笑い声がした。
爆炎の中心から、ゆっくりと、人影が立ち上がる。
「………………馬鹿な」
夜凪の、乾いた声が漏れた。
そこには、首領が立っていた。
その美しい胸の中央には、確かに、深い傷が刻まれている。
だが、致命傷ではない。
おぞましい闇の霊力が、その傷口に集まり、傷を、じわじわと、塞いでいく。
「………………見事だ」
首領の声には、初めて、人間らしい「感嘆」の色が浮かんでいた。
「…………」
「人の子の絆、か」
「…………」
「我が『理』を、一瞬とはいえ、確かに凌駕した」
「…………」
「だが、それも、ここまでだ」
首領の言葉と同時に、奈落宮の崩壊が、始まった。
天井から、逆さまの寺院が、轟音と共に落下してくる。
足元の岩盤が、悲鳴を上げて、砕け散っていく。
儀式が、乱れた影響だ。
この異空間そのものが、もう、限界だった。
「………………くそっ!」
快然が、血を吐きながら叫んだ。
「あいつ、まだ、生きてやがる!」
「いえ………………!」
桔梗が、絶望的な声で、首領を指差した。
「傷が………………塞がって、いく………………!」
そうだ。
この空間そのものが、首領の力。
この空間が、崩壊しようとも。
その、集積された霊力を、奴は、まだ、取り込み続けている。
(………………ダメだ)
夜凪は、奥歯を強く噛み締めた。
(破壊の言霊では、足りない)
(俺たちの絆を乗せても、あいつの『理』を、完全に消し去ることは、できない)
絶望的な、事実。
奈落宮は、崩れていく。
このままでは、儀式は止まっても、首領は生き残る。
そして、俺たちは、ここで、潰える。
(………………どうすれば)
(どうすれば、あいつを、止められる)
脳裏に、あの幻術が蘇る。
『――お前の力は、世界の理を書き換える力』
『――その代償は、他者から、忘れ去られること』
そうだ。
道は、一つだけ、残されている。
「破壊」ではない。
「書き換え」だ。
首領の、あの歪んだ「停滞」の理を、丸ごと、上書きする、究極の言霊。
その、最後の切り札を、使う時が。
(………………来たか)
夜凪は、静かに、覚悟を決めた。
その、決断の「崇高さ」が、彼の心を、不思議と凪がせていた。
もう、恐怖はない。
ただ、やるべきことがあるだけだ。
「………………」
夜凪は、ふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
「夜凪さん!?」
桔梗が、その異変に、いち早く気づいた。
夜凪の、身体。
その、指先が。
淡い、淡い、光の粒子となって、透け始めていた。
「あ………………」
「あ………………!」
桔梗の顔が、絶望に染まる。
あの、幻術で見た、光景。
彼が、忘れ去られる、未来。
彼が、今、何をしようとしているのか。
桔梗は、すべてを、理解してしまった。
「―――ダメだッ!!」
桔梗が、夜凪に、縋りつこうと手を伸ばす。
「ダメです! 夜凪さん!」
「…………」
「そんなこと、したら!」
「…………」
「あなたが、あなたが、消えてしまう!」
「約束、したじゃないですか!」
「…………」
「私が、あなたの記憶になるって!」
「…………」
「だから、お願い! やめないで!」
「そうですぞ、夜凪殿!」
快然も、砕けた錫杖を杖代わりに、身を起こした。
「わしら三人で、生き残るんでしょうが!」
「…………」
「まだだ! まだ、何か、手があるはずだ!」
二人の、魂からの叫び。
その、必死な声が、夜凪の心を、温かく、満たしていく。
夜凪は、ゆっくりと、二人を振り返った。
その瞳には、もう、復讐の炎はなかった。
ただ、どこまでも深く、穏やかな、蒼い光が宿っている。
彼は、笑った。
心の底から、幸せそうに、笑った。
「………………ありがとう」
「………………!」
「………………桔梗」
「…………」
「………………快然」
「…………」
「お前たちと会えて、よかった」
その、あまりにも、穏やかな別れの言葉。
「な、何を………………!」
「何を、言ってるんですか!」
「そんな、顔、しないで………………!」
「やめろ! やめろォォォッ!」
桔梗と快然の絶叫が、崩壊する奈落宮に、虚しく響き渡った。
夜凪は、そんな二人を、愛おしそうに、目に焼き付けると。
ゆっくりと、すべての元凶。
傷を塞ぎ、再び、闇を纏おうとする、首領へと、向き直った。
「………………哀れな、男だ」
「………………末裔よ」
「あんたの哀しみは、俺には、分からない」
「…………」
「だが、その歪んだ世界を」
「…………」
「俺の、大切な仲間たちに、押し付けるな」
夜凪の身体が、足元から、急速に光の粒子となって、崩れていく。
自らの「存在」そのものを、霊力へと変換していく。
これこそが、月読の血族に伝わる、最後の、そして最大の「自己犠牲」。
「………………お前」
首領の瞳が、初めて、夜凪の覚悟に、見開かれた。
「自らの、存在を、賭けるか!」
「…………」
「愚かな!」
「…………」
「それをしても、お前は、忘れ去られるだけだ!」
「…………」
「歴史にも、記憶にも、残りはしない!」
「………………ああ」
夜凪は、頷いた。
その身体は、もう、胸のあたりまで、透け始めている。
「…………」
「だが、それでいい」
「…………」
「俺は、忘れられてもいい」
「…………」
「俺の復讐も、ここで、終わりだ」
「…………」
「だけどな」
夜凪は、その透けかけた手で、仲間たちを、そっと、指し示した。
「…………」
「あいつらが生きる『未来』は」
「…………」
「俺が、護る」
夜凪は、天を仰いだ。
崩れ落ちる、奈落宮の、その向こう側。
彼だけに見える、本当の「空」を見据えて。
彼は、自らの存在と引き換えに、究極の言霊を、解き放った。
それは、復讐の言葉ではない。
その歪んだ理を、根こそぎ「書き換える」、始まりの言葉。
仲間たちが生きる、新しい世界を、願う、ただ一つの言葉。
「………………この世界に」
「…………」
「…………」
「―――光あれ」
閃光。
それは、これまでの、どの光とも、違った。
闇を焼き尽くす、破壊の光ではない。
ただ、すべてを、優しく包み込む、絶対的な、救済の光。
首領の、禍々しい闇が、その光に触れた瞬間、朝靄のように、溶けていく。
「なっ………………!」
「…………」
「馬鹿な………………我が、理が」
「…………」
「………………書き換え、られる………………!」
「…………」
「………………あ」
首領の、驚愕の顔。
それが、夜凪が、この世で見た、最後の光景だった。
「………………さよならだ」
「…………」
「桔梗、快然」
「…………」
「………………俺の、仲間」
夜凪の身体は、完全に、光の粒子と化し。
その、温かい光の中に、溶けて、消えていった。
「―――夜凪さァァァァんッ!!!!」
桔梗の、絶叫だけが。
崩壊する、奈落宮に、響き渡っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「俺は、忘れられてもいい」 「あいつらが生きる『未来』は、俺が、護る」
夜凪は、自らの存在そのものを代償とし、究極の言霊「光あれ」を放ちました。 首領の歪んだ理は書き換えられましたが、夜凪の身体は光の粒子となって消滅してしまいます。
崩壊する奈落宮に残された、桔梗と快然。 果たして、夜凪は本当に、永遠に失われてしまったのでしょうか。 そして、残された二人の運命は。
物語は、ついに本当の結末へと向かいます。 残り2話、どうか最後まで彼らの旅路を見届けてください!
面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります! 感想もお待ちしております。
X(旧Twitter)では更新情報や裏話などをポストしていますので、よければフォローお願いします!
酸欠ペン工場(@lofiink)




