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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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43/45

第43章 世界のための言の葉

最新話へお読みいただき、ありがとうございます。 物語は最終決戦、クライマックスを迎えます。第43章「世界のための言の葉」をお届けします。


三位一体の一撃さえも、首領を完全には打ち破れない。絶望的な状況の中、夜凪つくよみよなぎは、自らに残された「最後の切り札」を選び取ります。 それは、自らの「存在」そのものと引き換えに、世界を救う、究極の自己犠牲でした。


それでは、本編をお楽しみください。

轟音。

閃光。

すべてが、白一色に染まり、奈落宮が、その根底から揺さぶられた。


「―――ぐっ!」


「きゃあっ!」


「うおおっ!」


三位一体の、渾身の一撃。

その凄まじい爆心地から、月読夜凪、桔梗、快然の三人は、まるで木の葉のように吹き飛ばされた。

岩盤に背中を強く打ち付け、肺から空気がすべて絞り出される。


(………………はっ、はっ………………)


夜凪は、霞む視界の中で、必死に顔を上げた。

『孤月』は、衝撃で手から弾き飛ばされ、少し離れた場所に転がっている。


(………………やった、か?)


これまでの、どの攻撃とも違う。

快然が命を張り、桔梗が魂を削り、そして、夜凪が未来への願いを込めて放った、最後の一撃。

神のごとき首領であろうと、あれを受けて、無事なはずが。


「………………はは」


乾いた、笑い声がした。

爆炎の中心から、ゆっくりと、人影が立ち上がる。


「………………馬鹿な」


夜凪の、乾いた声が漏れた。

そこには、首領が立っていた。

その美しい胸の中央には、確かに、深い傷が刻まれている。

だが、致命傷ではない。

おぞましい闇の霊力が、その傷口に集まり、傷を、じわじわと、塞いでいく。


「………………見事だ」


首領の声には、初めて、人間らしい「感嘆」の色が浮かんでいた。


「…………」


「人の子の絆、か」


「…………」


「我が『理』を、一瞬とはいえ、確かに凌駕した」


「…………」


「だが、それも、ここまでだ」


首領の言葉と同時に、奈落宮の崩壊が、始まった。

天井から、逆さまの寺院が、轟音と共に落下してくる。

足元の岩盤が、悲鳴を上げて、砕け散っていく。

儀式が、乱れた影響だ。

この異空間そのものが、もう、限界だった。


「………………くそっ!」


快然が、血を吐きながら叫んだ。


「あいつ、まだ、生きてやがる!」


「いえ………………!」


桔梗が、絶望的な声で、首領を指差した。


「傷が………………塞がって、いく………………!」


そうだ。

この空間そのものが、首領の力。

この空間が、崩壊しようとも。

その、集積された霊力を、奴は、まだ、取り込み続けている。


(………………ダメだ)


夜凪は、奥歯を強く噛み締めた。

(破壊の言霊では、足りない)

(俺たちの絆を乗せても、あいつの『理』を、完全に消し去ることは、できない)


絶望的な、事実。

奈落宮は、崩れていく。

このままでは、儀式は止まっても、首領は生き残る。

そして、俺たちは、ここで、潰える。


(………………どうすれば)


(どうすれば、あいつを、止められる)


脳裏に、あの幻術が蘇る。

『――お前の力は、世界の理を書き換える力』

『――その代償は、他者から、忘れ去られること』


そうだ。

道は、一つだけ、残されている。

「破壊」ではない。

「書き換え」だ。

首領の、あの歪んだ「停滞」の理を、丸ごと、上書きする、究極の言霊。

その、最後の切り札を、使う時が。


(………………来たか)


夜凪は、静かに、覚悟を決めた。

その、決断の「崇高さ」が、彼の心を、不思議と凪がせていた。

もう、恐怖はない。

ただ、やるべきことがあるだけだ。


「………………」


夜凪は、ふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。


「夜凪さん!?」


桔梗が、その異変に、いち早く気づいた。

夜凪の、身体。

その、指先が。

淡い、淡い、光の粒子となって、透け始めていた。


「あ………………」


「あ………………!」


桔梗の顔が、絶望に染まる。

あの、幻術で見た、光景。

彼が、忘れ去られる、未来。

彼が、今、何をしようとしているのか。

桔梗は、すべてを、理解してしまった。


「―――ダメだッ!!」


桔梗が、夜凪に、縋りつこうと手を伸ばす。


「ダメです! 夜凪さん!」


「…………」


「そんなこと、したら!」


「…………」


「あなたが、あなたが、消えてしまう!」


「約束、したじゃないですか!」


「…………」


「私が、あなたの記憶になるって!」


「…………」


「だから、お願い! やめないで!」


「そうですぞ、夜凪殿!」


快然も、砕けた錫杖を杖代わりに、身を起こした。


「わしら三人で、生き残るんでしょうが!」


「…………」


「まだだ! まだ、何か、手があるはずだ!」


二人の、魂からの叫び。

その、必死な声が、夜凪の心を、温かく、満たしていく。

夜凪は、ゆっくりと、二人を振り返った。

その瞳には、もう、復讐の炎はなかった。

ただ、どこまでも深く、穏やかな、蒼い光が宿っている。

彼は、笑った。

心の底から、幸せそうに、笑った。


「………………ありがとう」


「………………!」


「………………桔梗」


「…………」


「………………快然」


「…………」


「お前たちと会えて、よかった」


その、あまりにも、穏やかな別れの言葉。


「な、何を………………!」


「何を、言ってるんですか!」


「そんな、顔、しないで………………!」


「やめろ! やめろォォォッ!」


桔梗と快然の絶叫が、崩壊する奈落宮に、虚しく響き渡った。

夜凪は、そんな二人を、愛おしそうに、目に焼き付けると。

ゆっくりと、すべての元凶。

傷を塞ぎ、再び、闇を纏おうとする、首領へと、向き直った。


「………………哀れな、男だ」


「………………末裔よ」


「あんたの哀しみは、俺には、分からない」


「…………」


「だが、その歪んだ世界を」


「…………」


「俺の、大切な仲間たちに、押し付けるな」


夜凪の身体が、足元から、急速に光の粒子となって、崩れていく。

自らの「存在」そのものを、霊力へと変換していく。

これこそが、月読の血族に伝わる、最後の、そして最大の「自己犠牲」。


「………………お前」


首領の瞳が、初めて、夜凪の覚悟に、見開かれた。


「自らの、存在を、賭けるか!」


「…………」


「愚かな!」


「…………」


「それをしても、お前は、忘れ去られるだけだ!」


「…………」


「歴史にも、記憶にも、残りはしない!」


「………………ああ」


夜凪は、頷いた。

その身体は、もう、胸のあたりまで、透け始めている。


「…………」


「だが、それでいい」


「…………」


「俺は、忘れられてもいい」


「…………」


「俺の復讐も、ここで、終わりだ」


「…………」


「だけどな」


夜凪は、その透けかけた手で、仲間たちを、そっと、指し示した。


「…………」


「あいつらが生きる『未来』は」


「…………」


「俺が、護る」


夜凪は、天を仰いだ。

崩れ落ちる、奈落宮の、その向こう側。

彼だけに見える、本当の「空」を見据えて。

彼は、自らの存在と引き換えに、究極の言霊を、解き放った。


それは、復讐の言葉ではない。

その歪んだ理を、根こそぎ「書き換える」、始まりの言葉。

仲間たちが生きる、新しい世界を、願う、ただ一つの言葉。


「………………この世界に」


「…………」


「…………」


「―――光あれ」


閃光。

それは、これまでの、どの光とも、違った。

闇を焼き尽くす、破壊の光ではない。

ただ、すべてを、優しく包み込む、絶対的な、救済の光。

首領の、禍々しい闇が、その光に触れた瞬間、朝靄のように、溶けていく。


「なっ………………!」


「…………」


「馬鹿な………………我が、理が」


「…………」


「………………書き換え、られる………………!」


「…………」


「………………あ」


首領の、驚愕の顔。

それが、夜凪が、この世で見た、最後の光景だった。


「………………さよならだ」


「…………」


「桔梗、快然」


「…………」


「………………俺の、仲間」


夜凪の身体は、完全に、光の粒子と化し。

その、温かい光の中に、溶けて、消えていった。


「―――夜凪さァァァァんッ!!!!」


桔梗の、絶叫だけが。

崩壊する、奈落宮に、響き渡っていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


「俺は、忘れられてもいい」 「あいつらが生きる『未来』は、俺が、護る」


夜凪は、自らの存在そのものを代償とし、究極の言霊「光あれ」を放ちました。 首領の歪んだ理は書き換えられましたが、夜凪の身体は光の粒子となって消滅してしまいます。


崩壊する奈落宮ならくのみやに残された、桔梗ききょう快然かいぜん。 果たして、夜凪は本当に、永遠に失われてしまったのでしょうか。 そして、残された二人の運命は。


物語は、ついに本当の結末へと向かいます。 残り2話、どうか最後まで彼らの旅路を見届けてください!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります! 感想もお待ちしております。


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