第42章 三位、神と対す
最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 物語はついに最終局面を迎えます。第42章「三位、神と対す」をお届けします。
すべての覚悟を決め、闇御門の首領、この世の「理」そのものと化した神へ、三人は最後の総力戦を挑みます。 しかし、神の力はあまりにも絶対的でした。絶望的な力の差を前に、三人は、それぞれの「命」と「魂」のすべてを賭けた、最後の一撃に臨みます。
それでは、本編をお楽しみください。
「俺たちの『運命』は!」
「俺たちが、決める!」
「あんたの、哀しい世界になど、付き合ってたまるかッ!」
月読夜凪の絶叫が、奈落宮の闇を切り裂いた。
その声は、最早復讐者のそれではない。
未来を掴むと決めた、一人の男の、魂の叫びだった。
「桔梗! 快然!」
「はい!」
「おうとも!」
三つの影が、再び一つになる。
この、神のごとき「理」を打ち破るために。
持てる力のすべてを、今、この瞬間に叩きつけるために。
最後の総力戦。
その火蓋が、今度こそ、本当に切って落とされた。
「―――愚かな」
首領の、神々しい顔が、わずかに歪む。
それは、「怒り」とも「哀れみ」ともつかぬ、歪な表情だった。
「我が『理』を、知らぬ、虫けらどもが」
「…………」
「その、僅かな『絆』ごと」
「…………」
「我が『停滞』の闇に、沈めてくれる」
首領が、ゆっくりと、その両手を広げた。
それだけで、世界が悲鳴を上げた。
儀式の中枢、渦巻いていた血の霊脈が、意志を持ったかのように、三人に襲いかかる。
いや、違う。
この奈落宮の空間そのものが、物理的な「闇」となって、三人を圧殺しようと、四方八方から迫ってきた。
「なっ………………!」
「四方、すべてが、闇!」
「逃げ場が、ありませぬぞ!」
快然が、叫んだ。
これが、理。
これが、神の力。
この空間にいる限り、彼らは、首領の手のひらの上に過ぎなかった。
「………………くっ」
夜凪は、咄嗟に『護る力』を発動させようとした。
だが、間に合わない。
闇の壁が迫る速度が、あまりにも、速すぎた。
「―――行かせん!」
その、絶望的な闇の壁が、三人を飲み込もうとした、刹那。
夜凪でも、桔梗でもない。
獅子堂快然が、一歩前に出て、その巨体で、仲間たちを庇うように、立ちはだかった。
「夜凪殿! 桔梗殿!」
「…………」
「ここは、この拙僧が!」
「快然さん!」
「無茶です!」
桔梗の悲鳴が響く。
あの、墨衣の側近にさえ、指先一つで砕かれたのだ。
首領本体の、この全力の闇を。
一人の人間が、防げるはずもなかった。
「………………無茶、上等!」
快然は、歯を食いしばり、その顔に、不敵な笑みを浮かべた。
「破戒僧とは!」
「…………」
「仏の道を踏み外してでも、護るものがある者の、名にござる!」
快然は、錫杖を、奈落宮の岩盤に、深々と突き立てた。
「お前たち二人の未来こそが!」
「…………」
「拙僧が護るべき、『仏』だッ!」
快然の全身から、金色の光が、爆発するように溢れ出した。
それは、これまでの、どの法力よりも、まばゆく、そして、温かい光だった。
「―――おおおおおおおおッ!」
「…………」
「不動金剛!」
「…………」
「我が命、ここに在りッ!」
快然の命そのものが、法力へと変換されていく。
金色の光が、三人を包み込む、巨大な「結界」となった。
彼の、持てる力のすべて。
彼の、魂のすべてを注ぎ込んだ、最大防御結界。
ドゴォォォォォンッ!
首領が放った「理」の闇が、快然の「命」の結界と、激突した。
奈落宮が、揺れる。
空間が、軋む。
闇が、光を飲み込もうと、荒れ狂う。
光が、闇を押し返そうと、輝きを増す。
「ぐ………………!」
「が、ああああああああっ!」
結界の内側で、快然の全身から、血が噴き出した。
その巨体が、みしり、と音を立てる。
神の力は、あまりにも、強大すぎた。
「快然!」
夜凪が、叫んだ。
結界に、亀裂が走る。
もう、持たない。
あと、数瞬。
だが、その「数瞬」こそが。
快然が、その命と引き換えに、稼ぎ出した、唯一の「隙」だった。
「―――今よッ!」
闇が、結界を突き破る、まさに、その一瞬。
不知火桔梗が、印を結び終えていた。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
だが、その指先に、迷いはなかった。
快然の覚悟を、無駄にはしない。
「たとえ、相手が神であろうと!」
「…………」
「私たちの『理』を、捻じ曲げることは、させない!」
桔梗の全身から、清浄な、水の霊力が溢れ出す。
それは、不知火の里に伝わる、最古の封印術。
『血の盟約』と共に、この時のために、遺されてきた、秘術。
「不知火が秘術―――!」
「…………」
「『八尋・水鏡の牢』ッ!」
桔梗の足元から、清らかな水が溢れ出し、神の闇を突き抜け、首領の足元へと殺到した。
そして、その水が、鏡のように、首領の姿を、映し出した。
「………………なに?」
首領の、神々しい顔が、初めて「戸惑い」に歪んだ。
水鏡に映った「自分自身」が、まるで、実体を持ったかのように、首領の四肢に、絡みついていく。
それは、相手の「理」そのものを、鏡写しにして、その動きを封じる、究極の封印術だった。
「小賢しい………………!」
首領が、身動ぎする。
水鏡の牢が、激しく、軋んだ。
桔梗の口から、ごふっ、と鮮血がほとばしる。
「きゃ………………っ!」
「桔梗!」
「………………まだ、よ!」
桔梗は、膝をつきながらも、その印を、決して解かなかった。
「夜凪さん!」
「…………」
「今、この一瞬だけ………………!」
「…………」
「あいつの『理』は、乱れている!」
「…………」
「―――行ってッ!!」
そうだ。
快然が、命を賭して、時間を稼いだ。
桔梗が、命を賭して、動きを封じた。
二人の仲間が、死力を尽くして、繋いでくれた、この、たった一瞬の「道」。
(………………無駄には、しない)
夜凪は、すでに、地を蹴っていた。
彼の脳裏に、これまでの旅路が、走馬灯のように駆け巡る。
父と母の、最期の顔。
桔梗と、初めて刃を交えた、あの月夜。
快然と、背中を預けた、あの死闘。
深雪の、哀しい笑顔。
信長の、壮絶な覚悟。
そして、今、自分のために、血を流している、二人の仲間の、顔。
(………………もう、復讐のためじゃない)
(………………使命のためでもない)
夜凪は、蒼い炎を宿した瞳で、動きを封じられた首領の、その心臓を、真っ直ぐに、睨みつけた。
(………………俺たちが、生きる)
(………………『明日』のためだッ!!)
彼は、その唇から、すべての魂を込めて、最後の言霊を、解き放った。
それは、破壊の言葉。
だが、その音には、仲間を護る、聖なる光の響きが、確かに宿っていた。
「―――お前の、歪んだ理ごと」
「…………」
「…………」
「―――砕けろォォォォッ!!!!」
夜凪の『孤月』が、蒼い光の槍と化す。
言霊の、絶対的な力が、その切っ先に収束していく。
快然の結界が、砕け散る。
桔梗の封印が、弾け飛ぶ。
その、すべてが、解放される、まさに、その「零コンマ一秒」の隙間を。
夜凪の、すべてを込めた一撃が。
ついに。
「なっ………………!?」
首領の、神々しい瞳が、初めて、「驚愕」と「焦燥」に、染まった。
その、美しい胸の、中央に。
夜凪の『孤月』が。
深く。
深く。
突き刺さっていた。
「………………馬鹿な」
「…………」
「………………我が」
「…………」
「………………『理』が」
「…………」
「………………人の子の、絆ごときに………………」
轟音。
閃光。
夜凪の言霊と、首領の理が、内側で激突し、凄まじい光の奔流となって、爆発した。
奈落宮が、割れる。
天が、落ちる。
クライマックスの熱量が、すべてを、白一色に染め上げていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
快然が命で稼いだ「数瞬」。桔梗が命で封じた「一瞬」。 仲間が繋いでくれたその道を、夜凪がすべての想いを込めた言霊で貫きました。 「俺たちが生きる『明日』のためだッ!!」 三人の「絆」の力が、ついに神の「理」を打ち破ったのです。
果たして、首領を倒すことはできたのか。そして、崩壊を始めた奈落宮から、三人は無事に戻ることができるのでしょうか。 物語は、ついにエピローグへと向かいます。どうか、最後まで彼らの旅路を見届けてください!
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