表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/45

第40章 災厄の御座に座る者

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 第40章「災厄の御座に座る者」をお届けします。


織田信長が遺した「好機」を突き、三人はついに闇御門やみのみかどの首領へと刃を向けます。しかし、首領の「個」としての力は、儀式の乱れをものともしない、絶対的なものでした。 そして、そのベールを脱いだ首領の正体は、夜凪つくよみよなぎたちの想像を絶する、衝撃の真実を伴うものでした。


それでは、本編をお楽しみください。

千載一遇の好機。

織田信長が、その命を賭して作った、儀式の「綻び」。

月読夜凪は、その一瞬を逃さなかった。


「―――行くぞッ!」


蒼い炎を宿した瞳で、彼は叫んだ。

仲間たちの覚悟に応えるために。

信長の壮絶な生き様に応えるために。

三つの影が、奈落宮の中枢を、同時に駆けた。


「桔梗!」


「はい!」


「快然!」


「おうとも!」


狙うはただ一点。

玉座から立ち上がった、すべての元凶。

闇御門の首領、その人ただ一人。

三位一体。

これまでの旅で培った、すべての絆と力を、この一撃に込める。


夜凪の『孤月』が、蒼い光を纏う。

桔梗の苦無が、水の流れを描く。

快然の錫杖が、金色の仏罰を宿す。

三方向からの、完璧な同時攻撃。

儀式が乱れ、霊力が渦巻く今ならば。

この一撃は、必ず届く。


「………………」


だが。

首領は、動かなかった。

その顔には、信長への「怒り」が浮かんだまま。

迫り来る三つの刃を、その無機質な瞳で、ただ、見ているだけだった。


(………………貰った!)


夜凪は、勝利を確信した。

儀式の乱れに気を取られ、反応が遅れている。

このまま、首領の心臓を、孤月が貫く。

そう、思った、刹那。


「―――遅い」


「なっ………………!」


夜凪の耳元で、その声は響いた。

馬鹿な。

首領は、まだ、玉座の前に立っているはずだ。

だが、その姿は、陽炎のように、ぼやけていた。

(残像!?)


「がっ………………!」


「きゃあっ!」


同時に、二つの苦悶の声が響いた。

夜凪が、はっと横目で見る。

そこには、見えない「何か」に弾き飛ばされ、岩盤に叩きつけられる、桔梗と快然の姿があった。


「二人とも!」


夜凪は、咄嗟に攻撃を中断し、その場に着地した。

一体、何が起きたのか。

桔梗と快然は、咳き込みながらも、何とか立ち上がろうとしている。

致命傷ではない。

だが、明らかに、攻撃を「読まれて」いた。


「………………くっ」


夜凪は、孤月を構え直し、ゆっくりと首領に向き直った。

いつの間にか、首領は玉座の前、数歩進んだ位置に、静かに立っていた。

儀式の霊脈は、未だ乱れ、渦を巻いている。

だというのに。

首領の纏う空気だけは、微塵も揺らいでいなかった。


(………………儀式が乱れても)


(こいつ本体の力は、衰えていないのか!)


夜凪の背筋を、冷たい汗が伝う。

信長の死が、無駄になったわけではない。

儀式が止まりかければ、これ以上、日ノ本が支配されることはない。

だが、目の前の、この「個」としての力。

これを、どう打ち破る。


「………………驚いたか」


首領が、静かに言った。


「信長の死が、儀式を乱したことは、事実」


「…………」


「だが、それは、我が『奈落宮』の理を、覆すものではない」


「…………」


「そして」


「…………」


「我が力を、削ぐものでも、ない」


首領の全身から、再び、あの墨衣の側近さえも霞ませる、純粋な「闇」が、陽炎のように立ち上り始めた。

空気が、重くなる。

呼吸が、苦しい。

立っているだけで、魂が、その闇に吸い取られていくようだ。


(………………これが)


(こいつが、首領)


夜凪は、奥歯を強く噛みしめた。

桔梗と快然が、夜凪の左右に並び立つ。

三人の間に、言葉はない。

ただ、互いの呼吸だけが、この異様な空間で、確かに響き合っている。


「………………」


「………………」


「………………」


絶頂の緊張感。

一瞬でも、気を抜けば、死ぬ。

一瞬でも、目を逸らせば、喰われる。

儀式の中枢。

渦巻く霊力の奔流の中心で。

三つの命と、一つの絶対者が、静かに、しかし激しく、睨み合っていた。


「………………夜凪さん」


桔梗が、か細い声で、夜凪の名を呼んだ。


「………………ああ」


夜凪は、視線を首領から外さずに、応じた。


「………………あ、あの姿」


「………………?」


「あの、お姿………………」


「………………!」


夜凪は、その言葉に、はっとした。

そうだ。

今まで、怒りと殺意に目が眩み、気づかなかった。

目の前の、首領の「姿」。

それは、闇御門の術者が好む、禍々しい装束ではなかった。

ただ、静かに、そこに立っている。


闇が、晴れていく。

いや、違う。

首領が、自らの纏う闇を、ゆっくりと、収束させていったのだ。

まるで、三人に、自らの「正体」を、見せつけるかのように。

そして、その姿が、完全に、明らかになった時。

夜凪は、呼吸を、忘れた。


(………………あ)


(………………あ、あ)


そこに立っていたのは、男、ではなかった。

いや、性別を超越した、何か。

長く、艶やかな、白銀の髪。

着ているものは、この国のものとは思えぬ、荘厳で、清浄な、白い衣。

そして、その顔立ちは。

人間が、持ち得る、あらゆる美しさを、一つに凝縮したかのような。

神々しささえ、感じさせた。


だが、何よりも、夜凪の心を撃ち抜いたのは。

その、瞳。

そこには、感情というものが、一切、存在しなかった。

無。

あの、墨衣の側近が纏っていた「無」とは、比較にさえならない。

それは、この世の始まりから、終わりまでを、すべて見届けてきたかのような。

あまりにも、深く、冷たい、「無」だった。


「………………そんな」


「………………馬鹿な………………」


夜凪ではない。

声を発したのは、桔梗だった。

彼女は、苦無を取り落としそうになるほど、激しく震えていた。

その瞳が、信じられないものを見る目で、首領の姿に、釘付けになっている。


「桔梗殿!?」


快然が、驚いて彼女を見た。


「ど、どうしたのですか!」


「その、お姿は………………!」


桔梗は、懐から、震える手で、一つの古い、古い巻物を取り出した。

それは、不知火の里の『禁足地』にあったものではない。

彼女が、常に、お守りのように持っていた、里の伝承を描いた絵巻物だった。


「………………嘘」


「…………」


「嘘、です………………!」


「桔梗、何なんだ!」


夜凪が、叫んだ。

桔梗は、絵巻物と、目の前の首領を、何度も、何度も、見比べた。

そして、絶望的な声で、言った。


「………………この、お姿は」


「…………」


「古の、大災厄から、この日ノ本を救ったという」


「…………」


「………………伝説の」


「…………」


「………………大陰陽師、そのもの、です………………!」


「―――ッ!!」


その一言は、夜凪の魂を、根底から揺さぶった。

伝説の、陰陽師。

この国を、救った、英雄。

それが、今、目の前で、この国を滅ぼそうとしている。

それが、俺の、両親を殺した、仇敵。


(………………なんだ)


(………………なんだ、それは)


(………………どういう、ことだ………………!)


理解が、追いつかない。

脳が、焼き切れそうだ。

復讐の対象が、かつての救国の英雄だった。

その、あまりにも、ねじ曲がった事実に。

夜凪の心は、激しく、激しく、揺さぶられた。


「………………そうだ」


首領が、静かに、肯定した。

その声は、男でも、女でもない、神々しいまでの、響きを持っていた。


「…………」


「我こそは、この国を創りし、理そのもの」


「…………」


「そして」


「…………」


「お前たち、月読と不知火が、かつて、我が半身として、仕えた『主』」


「………………!」


「………………あ」


夜凪は、戦慄した。

これは、ただの最終決戦ではない。

これは、古の時代から続く、宿命の、再会。

そして、絶望的な、決別。


「………………さあ、始めようか」


首領が、その白く、美しい手を、ゆっくりと差し出した。

その指先に、世界そのものを「停滞」させる、あの絶望的な「理」が、収束していく。


「…………」


「月読の、末裔よ」


「…………」


「お前の『光』が」


「…………」


「我が『闇』に、届くかどうか」


「…………」


「試してみるがいい」


絶頂の緊張感。

夜凪は、呼吸を、整えた。

動揺は、ある。

だが、それ以上に。

やるべきことは、変わらない。

たとえ、相手が、神であろうと。

英雄であろうと。


(………………あんたが、俺の仇だ)


夜凪は、孤月を、強く、握りしめた。

その瞳に、再び、蒼い炎が、燃え盛る。


「桔梗! 快然!」


「………………はっ!」


「………………おう!」


「―――総力戦だ!」


夜凪の絶叫が、奈落宮に響き渡った。

すべての因縁を断ち切る、最後の戦い。

その火蓋が、今、確かに、切って落とされた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ついに明かされた、闇御門の首領の正体。それは、かつてこの国を災厄から救った「伝説の大陰陽師」であり、夜凪たち一族が仕えた「主」でした。 なぜ、英雄は道を違え、この国を支配しようとするのか。


夜凪の戦いは、単なる復讐を超え、いにしえの主との「宿命の決別」となりました。 すべての力を結集し、三人は最後の総力戦に臨みます。この絶望的な相手に、彼らの絆は届くのでしょうか。ご期待ください!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります! 感想もお待ちしております。


X(旧Twitter)では更新情報や裏話などをポストしていますので、よければフォローお願いします!

酸欠ペン工場(@lofiink)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ