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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第4章 束の間の同盟

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

第4章「束の間の同盟」をお届けします。


謎のくノ一、桔梗ききょうとひとまず手を組むことになった夜凪よなぎ

しかし、まだ互いを信用しきれない二人は、敵地を前にして、まず互いの真の目的を確かめ合います。


それでは、本編をお楽しみください。

闇御門の術者たちが放つ邪な気配は、森のさらに奥深く、瘴気のように淀んだ場所へと続いていた。

夜凪と桔梗は、互いに数歩の間合いを保ったまま、その気配を慎重に追う。

先ほどの刃を交えた緊張は霧散したものの、まだ互いのことを完全に信用しきってはいない。

梟の鳴く声と、衣擦れの音だけが、二人の間の奇妙な沈黙を埋めていた。

やがて、木々の切れ間に苔むした寺の山門が、その姿を現した。


「……一度、状況を整理しましょう」


先に静寂を破ったのは、桔梗だった。

彼女は警戒を解かぬまま、獣のように素早く周囲に視線を走らせる。

「敵の数は二人。おそらく、儀式の準備を進めているはず。闇雲に突っ込むのは得策ではないわ」

その冷静な分析に、夜凪は無言で頷いた。

彼女の言うことはもっともだ。

復讐の炎は常に心を焦がしているが、彼は決して無謀なわけではない。


二人は、人の気配が完全に消え失せた廃寺の境内へと、音もなく足を踏み入れた。

本堂は屋根の一部が大きく崩れ落ち、そこから差し込む月光が、床に静かな銀色の模様を描き出している。

鼻をつくのは、乾いた埃と、朽ちかけた木材の匂い。

そして、夜の森の冷たい空気が、この神聖だったはずの場所を支配していた。

嵐の前の束の間の休息には、ちょうどいい場所と言えるだろう。


桔梗は、本堂の太い柱にそっと背を預けると、真っ直ぐに夜凪を見据えた。

その強い光を宿す瞳には、先ほどまでの純粋な敵意とは違う、探るような色が浮かんでいる。

「……あなた、一体何者なの? あの不思議な術、そしてその刀。ただの浪人ではないでしょう」

夜凪は、その直接的な問いには答えなかった。

自分の過去を、素性の知れぬ他人に話すつもりはない。

だが、彼の方こそ知らねばならぬことが一つだけあった。


「お前の目的は何だ」


静寂を鋭く切り裂くように、夜凪が低い声で問う。

それは、彼女の実力を測るための、純粋な問いだった。

なぜ、この腕の立つ女が闇御門を追うのか。

その理由次第では、再びこの場で刃を向けることもあり得た。

桔梗は、夜凪の問いに臆することなく、きっぱりとした声で答える。


「闇御門がこの地で行おうとしている、邪悪な儀式を止めること」

「儀式……?」

「ええ。彼らは、この尾張の地に古くから眠る『霊脈』を狙っているの」


霊脈。

その言葉は、先ほど旅籠で術者たちが口にしていたものと同じだった。

夜凪の視線が、わずかに鋭さを増す。

桔梗は、構わず話を続けた。


「霊脈とは、土地そのものが持つ生命エネルギーの大きな流れのこと。彼らは、今川の兵士たちを生贄にしてその霊脈の力を根こそぎ吸い上げ、強力な式神を練成するつもりよ」

「式神……」

「もし完成すれば、この辺り一帯は生命力を完全に失い、二度と草木も生えない死の大地と化すでしょう。それだけは、絶対に阻止しなければならないの」


桔梗の声には、揺るぎない決意が込められていた。

里のためか、あるいはもっと大きな何かを守るためか。

その理由は定かではないが、彼女が確固たる信念を持ってここにいることだけは、夜凪にも痛いほど理解できた。

そして、その目的は、夜凪のそれと決して交わらないものではない。


「……なるほどな」

「あなたの目的は?」


今度は、桔梗が問い返す番だった。

夜凪は、ほんの一瞬だけ躊躇う。

己の目的を、他人に話したことなど一度もなかったからだ。

だが、目の前のこの女は、信用できるかどうかは別として、利用価値はあるかもしれない。

何より、その瞳の奥にある真っ直ぐな光は、嘘をついている者のそれではないように思えた。


「……闇御門を、滅ぼすことだ」


その言葉は、冬の夜気のように静かだった。

だが、その一言に込められた憎悪と覚悟のあまりの重さに、桔梗は息を呑む。

彼の過去に、どれほどの惨劇があったというのか。

それを問うのは、今はすべきではないと彼女は直感的に判断した。

ただ、彼の目的が自分と同じ方向を向いていること、いや、それよりももっと先を見据えていることを理解した。


「……同じ、ですね」


桔梗が、ふっと安堵の息を吐いた。

張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。

「私の目的は、儀式の阻止。あなたの目的は、闇御門の滅亡。だとしたら……」

彼女は、夜凪の目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかしはっきりと言った。


「儀式を止めるまで、協力しませんか?」


決定的な言葉だった。

夜凪の心に、その提案が水に落ちた墨のように、静かに染み込んでいく。

協力。

今まで、考えたこともなかった選択肢だ。

復讐は、常に一人で成し遂げるものだと信じて疑わなかった。

他者を巻き込むことも、他人に頼ることも、彼の流儀ではなかった。


(この女と……組む……?)


孤独だった夜凪の心に、小さな波紋が広がる。

それは、戸惑いであり、警戒心であり、そしてほんのわずかな、未知への興味でもあった。

確かに、一人で二人を相手にするより、二人の方が確実性は格段に増す。

何より、彼女は闇御門の内部事情に、自分より詳しいのかもしれない。

利用できるものは、何でも利用する。

それが、復讐を果たすための最短距離のはずだ。


だが、心のどこかで、ただの利害勘定とは違う感情が芽生えていることにも、夜凪は気づいていた。

目的を共有する。

ただそれだけのことが、これほどまでに奇妙な感覚をもたらすとは。

それは、信頼と呼ぶにはまだあまりに早く、脆いものだったが、確かに何かが変わり始めている予感がした。

ほんの数瞬の沈黙の後、夜凪は短く、そしてはっきりと答えた。


「……いいだろう」


その一言で、束の間の同盟は成立した。

言葉を交わしたわけではないが、互いの間に、確かな一つの約束が生まれた瞬間だった。

物語を動かすことになる最初のチームが、この月明かりの差す廃寺で、静かに産声を上げたのである。

夜凪の孤独な復讐の道に、初めて差し込んだ、小さな小さな光だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


互いの覚悟を確かめ合い、ついに「束の間の同盟」を結んだ夜凪と桔梗。

利害の一致から始まった協力関係は、孤独だった夜凪の心に、ほんの少しの変化をもたらしたようです。


さあ、準備は整いました。次回、いよいよ闇御門やみのみかどの術者たちとの決戦です!

二人の初めての共同戦線、ご期待ください。


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