第39章 魔王、燃ゆ
最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 第39章「魔王、燃ゆ」をお届けします。
ついに、闇御門の首領と対峙し、最後の戦いに臨む夜凪たち。しかし、その土壇場で、奈落宮の儀式そのものに、外部からの「異変」が発生します。 それは、かつて尾張で出会った、あの「魔王」が放った、命懸けの最後の一手でした。
それでは、本編をお楽しみください。
奈落宮の中枢。
血の霊脈が渦巻く、巨大な魔法陣の上。
月読夜凪は、その瞳に蒼い炎を宿し、玉座の首領を真っ直ぐに睨みつけていた。
「………………行こう」
「俺たちの未来を」
「取り戻しに、行く」
「はい!」
「おうとも!」
三つの影が、今、完全に一つになった。
絶望の淵から這い上がり、仲間との「切れぬ絆」で再び立ち上がった。
彼らの、最後の戦いが、今、まさに始まろうとしていた。
「………………」
夜凪は、腰の『孤月』に手をかける。
桔梗は、苦無を両手に構える。
快然は、錫杖を深く握りしめる。
三人が、同時に、地を蹴った。
すべての元凶、首領ただ一人へと、全霊で殺到する。
「………………愚かな」
玉座に座す首領が、その冷たい瞳で三人を捉えた。
その手が、ゆっくりと、上がる。
あの、快然と桔梗の動きを、言葉さえも介さずに封じた、絶対の「理」。
再び、あの絶望的な力が、三人を無に帰そうとした。
その、刹那だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「「「―――ッ!?」」」
三人の足が、同時に止まった。
攻撃ではない。
首領から放たれたものでもない。
この、奈落宮という異空間そのものが、根底から揺さぶられていた。
激しい、地震。
いや、ただの揺れではない。
「なっ………………!」
快然が、驚愕に目を見開いた。
「見ろ!」
「あの、血の柱が!」
夜凪も、桔梗も、息を呑んだ。
天と地を繋ぎ、儀式の中枢へと注ぎ込まれていた、あの巨大な霊脈の奔流。
その流れが、明らかに、乱れている。
血の川が逆流し、渦を巻き、その力が、急速に弱まっていく。
「………………!」
「な、なんだ!?」
「何が、起きている!」
桔梗が、混乱の声を上げる。
儀式が、停止していく。
魔法陣の明滅が、不規則になり、そのおぞましい光が、みるみるうちに翳っていく。
この、土壇場で。
一体、何が。
「………………ほう?」
玉座の首領が、初めて、夜凪たち以外へと視線を向けた。
その無機質な瞳が、わずかに、見開かれる。
彼が見つめる先は、はるか上空。
この異空間を突き抜け、その向こう側にある、「地上」だった。
「………………なるほど」
「…………」
「そういうことか」
「…………」
「………………あの男」
「…………」
「自ら、火を放ったか」
「………………!」
夜凪は、その言葉に、はっとした。
(地上?)
(火を?)
(あの男―――?)
脳裏に、一人の男の顔が、鮮烈に蘇った。
虎の描かれた派手な着物。
夜の闇よりもなお深い、鋭い瞳。
『――俺は、俺のやり方でこの天下を覆す』
『――化け物の力など借りるつもりはない』
あの、尾張で出会った、若き魔王。
「………………織田、信長………………!」
夜凪の口から、その名が、かすれた声となって漏れた。
「………………まさか」
「あいつが、この儀式に、干渉を!?」
「その通りだ」
「…………」
「今、地上では」
「…………」
「あの男が、自ら起こした『謀反』の炎に、包まれている」
「………………謀反!?」
快然が、叫んだ。
「自ら、だと!?」
「ああ」
首領の声には、初めて、人間らしい「不快感」が滲んでいた。
「あの男、我が闇御門の支配を覆すため」
「…………」
「この『天壌無窮の儀』を、妨害するためだけに」
「…………」
「己の命ごと、すべてを、燃やし始めた」
「………………!」
「………………命を、燃やす?」
夜凪は、戦慄した。
その言葉の、意味を悟って。
そうだ。
並大抵の霊力では、この奈落宮の中枢を流れる、日本全土の霊脈に、干渉などできるはずもない。
それを、地上から、無理やり、断ち切る。
そんなことができる方法は、ただ一つ。
(………………あいつ)
(自分の命、そのものを、霊力に変換して)
(この霊脈に、叩きつけているのか!)
なんと、壮絶な。
なんと、馬鹿げた。
だが、それこそが、あの男。
織田信長という、人間の、やり方。
(………………あ)
夜凪の脳裏に、あの時の、藤吉郎の言葉が蘇る。
『――殿は、貴殿らの力を高く評価しておられる』
『――手を、組みませぬか?』
あの誘いは、罠ではなかった。
いや、罠ではあったのかもしれない。
だが、それ以上に。
あの男は、本気で、この闇御門を、自分と同じ「敵」だと、認識していた。
(………………利用する、と)
そう、決めたはずだ。
あの魔王さえも、利用してやると。
だが、現実は、どうだ。
俺たちが、こうして足踏みをしている間に。
あの男は、たった一人で、戦端を開き。
そして、たった今、その命を賭して、俺たちに「道」を、示そうとしている。
「………………是非も、なし」
ふと。
夜凪の耳の奥で、あの男の、低く、静かな声が、響いたような気がした。
それは、すべてを受け入れ、すべてを覚悟した者の、声。
神にも、仏にも、化け物にも、頼らない。
ただ、己の意志だけで、この世の理を、覆そうとした男の、最後の「覚悟」。
(………………あんた)
夜凪は、奥歯を、強く、強く、噛みしめた。
胸の奥から、熱い何かが、込み上げてくる。
それは、復讐の炎ではない。
仲間への絆とも、違う。
ただ、純粋な。
敵ながら、その生き様への、どうしようもない「敬意」だった。
「………………くく」
「…………」
「………………愚かな男よ」
首領が、玉座から、ゆっくりと立ち上がった。
その顔には、隠しようのない「怒り」が浮かんでいる。
信長の命がけの妨害が、この儀式に、取り返しのつかないほどの「隙」を生み出していた。
「あやつが、命を賭して作った、この僅かな『間』」
「…………」
「お前たち、月読の残党ごときが」
「…………」
「埋められるとでも、思うか?」
首領の全身から、あの墨衣の側近さえも凌駕する、本物の「闇」が、溢れ出した。
空気が、凍る。
奈落宮が、その本体の怒りに、悲鳴を上げている。
だが。
夜凪の瞳には、もう、恐怖の色はなかった。
彼の心は、信長が灯した、最後の炎によって、再び燃え盛っていた。
(………………無駄には、しない)
あんたが、その命と引き換えに、作ってくれた、この「隙」。
この、一瞬を。
俺たちが、必ず、未来に繋いでみせる。
「桔梗!」
「はい!」
「快然!」
「おうとも!」
夜凪は、蒼い炎を宿した瞳で、仲間たちを見つめた。
「あの男の、覚悟に応えるぞ」
「…………」
「―――行くぞッ!」
信長の死が、儀式に、決定的な「綻び」を生んだ。
その、千載一遇の好機。
三人は、今度こそ、すべての元凶、闇御門の首領へと、同時に、その刃を向けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『是非も、なし』 織田信長は、自らの命を燃やすという壮絶な覚悟をもって、闇御門の儀式に干渉し、三人に「千載一遇の好機」を遺しました。 敵ながら、その生き様に「敬意」を抱いた夜凪。
「あの男の、覚悟に応えるぞ」 信長の死が作った「隙」を突き、三人は今度こそ、闇御門の首領へと刃を向けます。 すべての因縁、すべての命を背負った、最後の戦いです。ご期待ください!
面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります! 感想もお待ちしております。
X(旧Twitter)では更新情報や裏話などをポストしていますので、よければフォローお願いします!
酸欠ペン工場(@lofiink)




