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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第33章 魂の無い都

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 いよいよ最終章、「奈落宮決戦編」の開幕です。 第33章「魂の無い都」をお届けします。


夜明け前の誓いを胸に、ついに呪われた都・京へ足を踏み入れた夜凪よなぎたち。しかし彼らが目にしたのは、魂を抜かれた人々が彷徨う、地獄のような光景でした。 情報屋との接触で明らかになる首領の真の企みと、あの最強の使者の存在。三人の最後の戦いが始まります。


それでは、本編をお楽しみください。

夜明けの光が、三つの影を地上に長く引き伸ばしていた。

呪われた都、京。その羅城門を、月読夜凪たちは音もなく通り抜ける。

朝日を背に受けた誓い。その熱が、まだ胸の内側で燃えている。

肌を刺すような緊張感が、夜凪の思考を氷のように研ぎ澄ませていた。

ここが、すべての因縁の始まりであり、終わりとなる場所だ。


「………………」


夜凪は、腰に差した『孤月』の柄にそっと触れる。

冷たい鋼の感触だけが、変わらない現実だった。

一歩、また一歩と、都大路へと足を踏み入れていく。

仲間たちの息遣いだけが、すぐそばで聞こえていた。

潜入のスリルが、彼の五感を極限まで研ぎ澄ませる。


「………………静か、ですな」


背後で、獅子堂快然が声を潜めて呟いた。

その声は、夜明けの静寂に、不釣り合いなほど大きく響く。


「しっ、快然さん。声を落としてください」


不知火桔梗が、素早く彼をたしなめた。

彼女もまた、苦無を逆手に握りしめ、警戒を解いていない。

夜凪の肌も、この異様な静けさに粟立っていた。


(おかしい)


(都の朝は、もっと騒がしいはずだ)


商人たちの威勢のいい声。荷馬車の車輪がきしむ音。

人々の笑い声。そのどれもが、聞こえてこない。

まるで、音だけがこの世から消え失せてしまったかのようだ。

これが、闇御門が支配する都の、本当の姿だというのか。


三人は、互いに視線を交わし、足早に大路を折れた。

まずは、観月みづきから得た情報を裏付ける必要がある。

そして、この都の「今」を知らなければならない。

桔梗が事前に調べていた、情報屋との接触場所へ。

そこは、大路から幾筋も外れた、裏路地の奥深くに位置していた。


朱雀大路を離れ、綾小路あやのこうじを西へ。

そこにあるはずの活気は、どこにも見当たらなかった。

道を行き交う人々は、確かに存在する。

だが、その誰もが、まるで魂を抜かれた抜け殻のようだった。

虚ろな瞳が、地面の、その一点だけを見つめている。


「な………………」


快然が、息を呑むのが分かった。


「なんだ、これは………………」


「尾張で見た、今川の兵たちと同じ………………いや」


桔梗の声が、震えている。


「もっと、ひどい………………」


その通りだった。今川の兵たちは、明確に「操られて」いた。

だが、この都の人々は違う。

操られているのではない。ただ、「生きていない」のだ。

歩く屍。その表現が、恐ろしいほどにしっくりときた。


夜凪は、目の前を通り過ぎる町娘の顔を、凝視した。

美しいはずの顔立ちは、能面のように何の表情も浮かんでいない。

目に、光がなかった。

喜びも、悲しみも、怒りさえも。

ただ、生きているから呼吸をし、歩くことを命じられているから足を動かす。

そんな、絶望的な無気力だけが、都全体を覆い尽くしていた。


「ひどい………………」


桔梗が、唇を噛みしめる。


「まるで、都中の人から、生気を奪ったみたいだわ」


「闇御門の、術か」


夜凪が、低く呟いた。

これが、首領の力。これが、「奈落宮ならくのみや」のお膝元。

復讐の炎が、胸の奥で再び黒く燃え上がった。

同時に、背筋を這い上がるような「不気味さ」が、彼を襲う。

五行衆との戦いとは、明らかに次元が違っていた。


「くそっ………………!」


快然が、我慢しきれずに叫んだ。


「これが、奴らのやり方か!」


「民の笑顔を奪うどころか、魂そのものを喰らっている!」


「許せん………………! 万死に値するぞ、外道どもが!」


その声にさえ、町の人々は誰一人として反応を示さない。

ただ、虚ろな目が、一瞬だけ音のした方へ向かい。

そして、すぐに興味を失ったように、元の場所へと戻っていった。

夜凪は、この光景を、決して忘れないと誓った。

これは、死よりも残酷な、支配の形だった。


三人は、重い沈黙の中、足を速めた。

目指す場所は、古びた湯屋の裏手にある、小さな祠だ。

そこが、京の情報屋「おおちょう」との、合流地点。

人目を避け、裏路地から裏路地へと、影のように駆け抜ける。

どの路地も、同じように、死んだ空気が澱んでいた。


祠は、打ち捨てられたように、ひっそりと佇んでいた。

周囲には、生気のない都とは対照的に、雑草だけが力強く生い茂っている。

桔梗が、祠の扉を、決められた手順で三度、軽く叩いた。

(……三、……二、……一)

応答は、ない。


「………………留守、でしょうか」


桔梗が、不安げに呟く。

夜凪は、孤月に手をかけたまま、周囲の気配を探った。

(いや、いる)

祠の裏手。屋根の上。そして、この路地そのものに。

複数の、息を殺した気配が満ちている。


「………………出てこい」


夜凪が、冷たく言い放った。

その瞬間。周囲の影から、音もなく、五つの人影が飛び出した。

全員が、夜凪たちを囲むように、武器を構えている。

だが、その装束は、闇御門のものではなかった。


「動かないで」


屋根の上から、鈴の鳴るような、しかし芯の通った声が響く。

朝日に照らされて、一人の女が姿を現した。

派手な蝶の文様が描かれた、小袖。

その瞳は、値踏みするように、夜凪たちを見据えている。


「あなたたちが、不知火の里からの使い?」


「………………そうだ」


桔梗が一歩前に出た。


「私たちが、桔梗、夜凪、快然」


「あなたが、お蝶さん?」


女――お蝶は、屋根から猫のように軽やかに飛び降りた。

その顔には、抜け目のない笑みが浮かんでいる。


「ふうん………………」


「聞いていたより、ずっと物騒な顔ぶれじゃないの」


「特に、そこのあなた」


お蝶の視線が、夜凪を射抜いた。


「『月読の生き残り』さん」


「!」


夜凪の全身に、殺気にも似た緊張が走る。

なぜ、その名を。


「おっと、睨まないでよ」


お蝶は、ひらひらと手を振る。


「こちとら、情報屋なんでね」


「そのくらいは、織田の猿(藤吉郎)から聞いてるさ」


「………………信長と、繋がっているのか」


「当たり前じゃない」


お蝶は、肩をすくめた。


「金払いのいい相手なら、誰とだって繋がるわよ」


「魔王だろうが、仏様だろうがね」


「それで?」


お蝶は、本題に入るといった様子で、懐手をした。


「こんな死んだ都に、何の用?」


「『奈落宮』にでも、殴り込みかい?」


「………………!」


「図星、って顔だね」


「あんた、どこまで知っている」


夜凪が、低い声で問う。

お蝶は、楽しそうに目を細めた。


「知ってるさ。この都の異変」


「数日前から、急速に広がってる」


「『無気力』の呪い、とでも言おうかね」


「人々から、『喜び』『怒り』『悲しみ』、そういう感情が、ごっそり抜き取られてる」


それは、夜凪たちが目の当たりにした、光景そのものだった。


「闇御門の、新しい術だ」


「都の地下を流れる『霊脈』そのものに、呪いを流し込んでるのさ」


「………………霊脈に」


桔梗が、息を呑んだ。

尾張で朽葉たちがやろうとしていたことの、完成形。

それを、この都全体で、行っているというのか。


「連中は、本気だよ」


お蝶の声から、笑みが消えた。


「この都を、いや、日ノ本そのものを、完全に支配するつもりだ」


「『天壌無窮のてんじょうむきゅうのぎ』とか、言ったかな」


「………………!」


その言葉。観月から聞いたものと、一致する。

夜凪は、確信した。

この異変は、最終決戦の、始まりの合図なのだと。


「して、お蝶殿」


それまで黙っていた快然が、口を開いた。


「その『奈落宮』とやらの、様子はどうですかな?」


神泉苑しんせんえんの、古い井戸」


「その情報は、手に入れているのですが」


「ああ、神泉苑ね」


お蝶は、面倒臭そうに頭を掻いた。


「あそこは、今、ヤバいことになってるよ」


「………………?」


「本家の術者が、うじゃうじゃだ」


「例の、墨衣の化け物も、戻ってきたらしい」


「!」


夜凪の身体が、硬直する。

あの、指先一つで快然の結界を砕いた、化け物。

あいつが、もう本拠地に戻っている。


「どうする?」


お蝶が、挑発するように夜凪を見た。


「これでも、行くのかい?」


「死にに行くだけだと思うけどね」


夜凪は、何も答えなかった。

ただ、静かに、腰の『孤月』を、一寸だけ抜き放つ。

キィン、と。

朝の冷たい空気に、鋼の擦れる、甲高い音が響いた。

それは、彼の答えだった。


「………………ふふ」


お蝶が、喉の奥で笑った。


「面白い。その目、嫌いじゃないよ」


「…………」


「いいだろう。道案内くらいは、してやる」


「ただし、別料金だ」


夜凪は、刀を鞘に戻すと、お蝶に背を向けた。

神泉苑の方向を、真っ直ぐに見据える。

都の惨状。首領の企み。そして、あの側近の男。

すべてが、一本の線で繋がった。

もう、迷う必要も、ためらう理由も、どこにもない。


「桔梗、快然」


「………………はい」


「………………おうとも」


「行くぞ」


彼の声には、地獄の底から響くような、冷たい怒りと。

仲間たちと掴む明日への、燃え盛る決意が、宿っていた。

魂の無い都を舞台にした、最後の戦い。

その火蓋が、今、静かに切って落とされた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


闇御門やみのみかどの術により、人々から感情が奪われた「魂の無い都」。そのあまりにも残酷な光景は、三人の怒りを新たにし、決意を固めさせました。 情報屋・お蝶からもたらされた首領の企み「天壌無窮の儀」、そしてあの指先一つの側近の男が待ち構えているという絶望的な情報。


すべての覚悟を決め、三人はついに敵の本拠地「奈落宮」へ。都の惨状を、仲間との絆を胸に、彼らの最後の戦いが始まります!


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