第32章 夜明け前の誓い
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決戦の朝が、ついに訪れました。 京の都を前に、快然の「覚悟」、桔梗の「想い」、そして夜凪が辿り着いた「本当の戦う理由」。 これは復讐のためだけではない、仲間と未来を掴むための戦い。三人の誓いが、夜明けの光に響きます。
それでは、本編をお楽しみください。
東の空が、わずかに白み始めていた。
呪われた都、京の無数の灯りが、その最後の輝きを放っている。
丘の上。
三つの影は、まだ動かずにいた。
月読夜凪は、眼下に広がる京の闇を、静かに見つめていた。
昨夜、あの墨衣の男に叩きつけられた、圧倒的な絶望。
桔梗の愛によって、かろうじて繋ぎ止められた、脆い希望。
そして、自ら掴み取った、「護る」という新たな力。
すべてが、胸の中で渦巻いていた。
(……あそこに)
あそこに、すべての元凶がいる。
一族を滅ぼした、首領が。
復讐の炎は、まだ消えてはいない。
だが、その炎の色は、もはや彼一人のためだけのものではなかった。
「……ふぅ」
張り詰めた沈黙を破ったのは、獅子堂快然の、深いため息だった。
彼は、錫杖を肩に担ぎ、夜凪と同じように、京の都を見下ろす。
「いよいよ、ですな」
その声には、いつもの豪快さとは違う、静かな「覚悟」が滲んでいた。
「……ああ」
夜凪が、短く応じる。
快然は、まるで自分に言い聞かせるかのように、言葉を続けた。
「あの灯りの、一つ一つの下で」
「……」
「今も、闇御門の恐怖に怯え、泣いている民たちがいる」
「……」
「拙僧が、なぜ戦うのか」
快然の瞳が、夜明けの光を映し、鋭く輝く。
「拙僧の理由は、昔から一つも変わってはおりませぬ」
「……」
「あの者たちの、笑顔を取り戻すため」
「……」
「ただ、それだけですぞ」
その言葉は、力強かった。
民のため。
そのために、この男は、己の命を張る。
その、どこまでも真っ直ぐな「意志」が、夜凪の心を打った。
「……快然さん」
隣で、不知火桔梗が、柔らかく微笑んだ。
彼女は、快然の横顔と、そして、夜凪の横顔を、順番に見つめる。
「……そうですね」
「……」
「私も、同じです」
「……桔梗?」
「私は……不知火の里を護るために、旅立ちました」
「……」
「でも、今は」
桔梗は、その瞳で、夜凪の心を射抜くように、真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、もう涙はない。
ただ、どこまでも澄んだ、強い光だけが宿っていた。
「私は、あなたたちと出会った」
「……」
「一人では、見ることのできなかった景色を見た」
「……」
「だから、私の戦う理由は……」
彼女は、そこで一度、息を吸い込んだ。
「夜凪さんと、快然さんと、共に未来を生きるため、です」
「……!」
夜凪の心臓が、温かく跳ねた。
桔梗は、はにかむように、しかし、決して目を逸らさずに続けた。
「もう、誰も失いたくない」
「……」
「あなたたちと見る明日が、欲しい」
「……」
「それが、私の戦う理由です」
快然の「覚悟」。
桔梗の「想い」。
二人の揺るぎない「意志」が、夜凪の胸に、熱い奔流となって流れ込む。
夜凪は、ゆっくりと目を閉じた。
脳裏をよぎるのは、復讐に囚われていた、孤独な自分。
だが、今は違う。
(……ああ)
(……そうだな)
彼は、ゆっくりと目を開けた。
その瞳には、もう、迷いも、絶望も、恐怖もなかった。
ただ、仲間と共に掴み取るべき、未来だけを、見据えていた。
「……俺もだ」
夜凪の低い声が、夜明けの冷たい空気を震わせた。
「……夜凪殿」
「……夜凪さん」
二人が、息を呑んで彼を見つめる。
夜凪は、二人の顔を、真っ直ぐに見返した。
「復讐は、俺の始まりだった」
「……」
「あの日、すべてを失った俺を、支えていたのは、憎しみだけだった」
「……」
「だが、今は、違う」
夜凪は、そっと、自分の胸に手を当てた。
そこには、桔梗が灯してくれた、確かな熱がある。
快然が、守ってくれた、確かな絆がある。
「俺が戦う理由は……」
夜凪は、言葉を区切ると、眼下の京の都を、その向こうにある「明日」を、強く睨みつけた。
「あんたたちと生きる明日を、この手で掴むためだ」
その宣言は、何よりも強く、三人の心を結びつけた。
もう、言葉はいらない。
互いの瞳を見れば、すべてが分かった。
目的も、覚悟も、未来も、すべてを分かち合っている。
この揺るぎない「絆」こそが、彼らの最後の武器だった。
その、瞬間。
丘の稜線から、一条の、眩い光が差し込んだ。
夜明け。
呪われた都の闇を祓うかのように、黄金色の朝日が、三人の身体を照らし出す。
夜凪は、孤月を握る。
快然が、錫杖を担ぐ。
桔梗が、苦無を構える。
三つの影が、夜明けの光の中に、並び立つ。
その瞳には、未来への「強い意志」だけが、燃えていた。
「……行くぞ」
夜凪の低い声が、響く。
三人は、同時に、力強く頷いた。
そして、京の都へ続く、最後の下り坂へと、その第一歩を、踏み出した。
彼らの、最後の戦いが、今、始まった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「あんたたちと生きる明日を、この手で掴むためだ」 快然の「覚悟」、桔梗の「想い」を受け、夜凪の戦う理由もまた、復讐から「仲間と生きる未来」へと昇華されました。 三人の誓いが夜明けの光に照らされ、ついに最後の戦いが始まります。
次回、いよいよ闇御門の本拠地、「奈落宮」へ突入します!すべての因縁に決着をつける戦いを、お見逃しなく!
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