第24章 血の盟約
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桔梗の故郷、不知火の里の「禁足地」。そこで夜凪たちを待っていたのは、彼らの想像を絶する、遠い過去に交わされた「血の盟約」でした。 夜凪の復讐の旅は、この瞬間、一族の「使命」へとその意味を変えます。
それでは、本編をお楽しみください。
「――古の盟約」
白雲斎の口から放たれた、その言葉。
それは、夜凪の心の奥底に、重い石を投げ込んだ。
社の薄暗い空気の中、ただならぬ響きを伴って反響する。
月読夜凪は、その場に立ち尽くしたまま、動けなかった。
「……盟約、だと?」
夜凪が、かすれた声で問い返す。
復讐以外の、宿命。
そんなものが、自分にあるというのか。
彼の凍てついた瞳が、目の前の老人を射抜いた。
白雲斎は、その視線を静かに受け止めている。
「……うむ」
老人は、重々しく頷いた。
「桔梗よ。この者を、里の『禁足地』へ」
「……!」
桔梗の肩が、びくりと震える。
「そ、祖父様……!? 禁足地、とおっしゃいますと……」
「あそこは、長である私と、次代の長となる者しか……」
「許す」
白雲斎の言葉は、短く、そして絶対だった。
桔梗は、息を呑み、夜凪の顔を窺う。
その瞳には、祖父の真意を測りかねる、戸惑いの色が浮かんでいた。
「……夜凪殿も、ですかな?」
快然が、事の重大さを察したのか、神妙な面持ちで口を挟んだ。
「もちろんだ」
白雲斎は、快然を一瞥する。
「そなたもだ、破戒僧。この盟約は、もはやこの二人だけの問題ではない」
「……」
「この日ノ本に生きる、すべての人に関わることじゃ」
「……なんと」
快然の顔から、いつもの陽気さが消えていた。
ただ、神妙な覚悟だけが浮かんでいる。
夜凪は、何も言わなかった。
いや、何も言えなかった。
事態が、自分の復讐という尺度を、遥かに超えて動き出している。
その巨大な奔流に、ただただ圧倒されていた。
「……分かり、ました」
桔梗が、静かに頷く。
「お二人とも、こちらへ」
一行は、白雲斎に導かれるまま、社を後にした。
向かう先は、里のさらに奥深く。
人の気配が一切しない、鬱蒼とした森の中だった。
そこは、清浄な霊力に満ちているが、同時に、何かを「拒絶」するような張り詰めた空気が漂う。
やがて、一行は苔むした、古い石造りの祠の前にたどり着いた。
祠の入り口には、幾重にも貼られた呪符が、強大な封印を形成している。
「……ここが」
「はい。不知火の里の、禁足地」
「『古文書庫』です」
桔梗が、懐から清めの札を取り出し、印を結んだ。
彼女の指先から放たれた清浄な霊力が、呪符に触れる。
すると、あれほど強固に見えた封印が、まるで水に溶けるかのように、すうっと消えていった。
ごごご、と。
重い石の扉が、ゆっくりと開かれていく。
(……)
夜凪の喉が、ごくりと鳴った。
扉の奥から、冷たく乾いた空気が溢れ出す。
それは、何百年もの間、澱んでいた「時間」の匂いだった。
「……入りましょう」
桔梗に促され、三人は白雲斎と共に暗い祠の中へと足を踏み入れた。
快然が、懐から取り出した霊晶石に法力を込めると、ぼう、と柔らかな光が灯る。
照らし出されたのは、壁一面を埋め尽くす、おびただしい数の巻物だった。
「こ、これは……!」
快然が、息を呑んだ。
「すべて、闇御門に関する記録……?」
「いえ」
桔梗が、首を横に振る。
「闇御門だけではありません」
「古来より、この日ノ本で起きた『災厄』と」
「……」
「それらと戦ってきた者たちの、記録です」
その言葉の重みに、夜凪は胸を突かれた。
自分の一族が滅ぼされた、あの夜。
あれもまた、ここに記されるべき「災厄」の一つだというのか。
だが、白雲斎は、そんな感傷など意にも介さなかった。
「……こっちだ」
老人は、迷うことなく書庫の最奥へと進む。
そこには、一際大きな、厳重な封印が施された桐の箱が、静かに安置されている。
「……これこそが」
白雲斎が、その箱にそっと触れた。
「『血の盟約』」
「……」
老人が、震える手で封印を解き、箱を開けた。
中から現れたのは、一本の古い、古い巻物だった。
夜凪は、その巻物から放たれる、異様な気配に目を見張る。
霊力ではない。
もっと別の、魂に直接響くような、重い「何か」だった。
「……桔梗よ」
「……はい」
「そなたが、読め」
白雲斎に促され、桔梗は緊張した面持ちで巻物を手に取った。
彼女が、ゆっくりとそれを開いていった。
そこに記されていたのは、現代の言葉とは似て非なる、神代の文字。
だが、不思議なことに、その意味は夜凪の頭に直接流れ込んできた。
「これは……」
桔梗の声が、震えていた。
巻物には、二つの一族の成り立ちが記されている。
そして。
ページの最後に、それはあった。
「……『闇御門が、道を違えた時』」
「……」
「『月読の言霊と、不知火の封印術をもって、これを討つべし』」
「……!」
夜凪の心臓が、大きく跳ねた。
月読の言霊。
不知火の封印術。
間違いない。
俺と、桔梗のことだ。
「な、なんと……!」
快然が、呆然と呟いた。
だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった。
「……夜凪さん、これ」
桔梗が、巻物の末尾を指差した。
そこには、二つの、乾いた血の跡が、はっきりと残されていた。
一つは、月を象った紋様。
もう一つは、炎を象った紋様。
「……血判」
夜凪の声が、震えた。
これは、ただの記録ではない。
遠い、遠い昔。
自分たちの祖先が、その身の血をもって交わした、絶対の「契約」だ。
「そうじゃ」
白雲斎が、静かに言った。
「月読と不知火は、もともと一つの『災厄』を封じるために生まれた、二つで一つの存在」
「……」
「闇御門が、その『災厄』の力を取り込み、道を違えることさえも」
「……」
「我らの祖先は、予見しておったのじゃ」
衝撃的な真実だった。
夜凪の全身を、雷に打たれたかのような「驚き」が貫く。
桔梗との出会い。
快然との出会い。
それらすべてが、偶然ではなかった。
この復讐の旅は、初めから、この「血の盟約」によって仕組まれていた、運命だったのだ。
(……俺は)
夜凪は、自らの掌を見つめた。
この手に宿る力は、ただ復讐のためだけにあるのではなかった。
(……使命)
一族の無念を晴らすこと。
その目的は、変わらない。
だが、その意味合いが、決定的に変わった。
これは、個人的な復讐ではない。
祖先から受け継いだ、一族の「使命」なのだ。
夜凪の瞳に、新たな光が宿る。
これまでの、憎悪に燃える炎とは違う。
もっと冷たく、もっと静かな、鋼のような「覚悟」の光だった。
「……そういう、ことだったのか」
「夜凪さん……」
夜凪は、巻物から顔を上げると、桔梗を、そして快然を真っ直ぐに見つめた。
「桔梗」
「……はい」
「快然」
「……おう」
「俺は、行く」
「……」
「闇御門を討つ。それが、俺の復讐であり」
「……」
「俺の、一族の使命だ」
その言葉に、嘘はなかった。
運命的な繋がりに驚きながらも、彼はそのすべてを受け入れ、戦うことを決意した。
その覚悟は、二人の仲間にも、確かに伝わっていた。
「……ええ!」
桔梗が、力強く頷く。
「私も、行きます!」
「不知火の使命、果たさせてもらいます!」
「はっはっは!」
快然が、豪快に笑った。
「運命だか使命だか、難しいことは分からん!」
「だが、友の覚悟を見たからには、付き合わんわけにはいくまい!」
「拙僧の仏罰、闇御門の奴らに、とくと喰らわせてくれるわ!」
三人の心が、今、完全に一つになった。
復讐の旅は、宿命の旅へと、その意味を変えた。
夜凪の孤独な戦いは、もう、どこにもない。
彼は、仲間と共に、この「血の盟約」を果たすため、呪われた都、京へと向かう。
その決意を、胸に深く刻み込んだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに明かされた、「月読」と「不知火」の宿命。夜凪と桔梗の出会いは偶然ではなく、闇御門を討つという、遠い祖先から受け継がれた運命でした。 個人の復讐は、一族の使命へ。三人の絆は、運命共同体としての揺るぎない覚悟へと昇華されました。
すべての宿命を受け入れ、仲間と共に立ち上がる夜凪。本当の最終決戦の地、呪われた都・京はもう目前です。ご期待ください!
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