表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/45

第23章 不知火の里

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 第23章「不知火の里」をお届けします。


織田信長からの危険な誘いを受け、一行は最終決戦の地・京へ向かう前に、桔梗ききょうの故郷「不知火の里」へと立ち寄ります。 幻術に隠された忍びの里、そして桔梗の祖父である里の長との出会い。そこで夜凪よなぎは、自らの一族に関する新たな宿命を知ることになります。


それでは、本編をお楽しみください。

木下藤吉郎という、得体の知れない男が去った後。

宿場町は、変わらず夕暮れの喧騒に包まれていた。

だが、三人の間に流れる空気は、明らかに変わっている。

「魔王」からの誘いという、新たな駒が盤上に置かれたのだ。


「……さて、どうしたものですかな」


快然が、残りの団子を口に放り込みながら、唸る。


「あの猿のような男……どうにも信用できませぬ」


「ええ」


桔梗も、難しい顔で腕を組む。


「信長公が、私たちの力を利用しようとしているのは確かです」


「下手に近づけば、私たちもあの人の駒にされてしまうわ」


「……」


夜凪は、黙って手の中の書状を見つめている。

警戒心と、期待。

相反する感情が、まだ胸の中で渦を巻いていた。

利用する。

そう決めたはいいが、相手はあの織田信長だ。

一筋縄でいくはずもない。


「……夜凪さん」


桔梗が、意を決したように顔を上げた。


「京へ向かう前に、一箇所、寄りたい場所があります」


「……?」


夜凪が、視線だけで問い返す。


「私の……故郷です」


「ほう! 桔梗殿の!」


快然が、興味津々といった様子で身を乗り出した。


「それは、良い考えやもしれませぬな!」


「闇御門の本拠地に乗り込む前に、一度態勢を整えるべきでしょう」


桔梗は、夜凪の目を真っ直ぐに見つめた。


「私たちの里には、闇御門に関する古い文献も残っています」


「それに、信長公とどう向き合うか……」


「一度、里の長老の意見も聞いておきたいのです」


「……長老」


「はい。私の、祖父でもあります」


桔梗の提案に、夜凪は異を唱えない。

正直なところ、彼もまた、思考を整理する時間が欲しかった。

それに、桔梗という人間の背景を、もう少し知っておきたいという思いもある。

彼女が育った場所とは、一体どんな所なのだろうか。


「……分かった」


夜凪は、短く答えた。


「案内しろ」


「! はい!」


桔梗の表情が、ぱっと明るくなる。

故郷に帰れる安堵と、仲間を連れていく緊張が入り混じった、複雑な笑みだった。


「おお! 忍びの里ですかな! 楽しみですな!」


「美味しいものはありますかな!」


「……快然さんは、そればかりですね」


一行は、京の都を目前にしながら、あえて街道を西へは向かわない。

桔梗の記憶だけを頼りに、険しい山道へと足を踏み入れた。


道なき道を進むこと、半日。

鬱蒼とした森を抜け、一行は巨大な滝の前に立った。

ごうごうと、水が岩肌を叩く音だけが辺りに響いている。


「……桔梗殿」


快然が、怪訝そうに呟いた。


「この先に、本当に里があるのですかな?」


「ええ」


桔梗は、悪戯っぽく笑う。


「ここが、私たちの里の入り口です」


「入り口? 滝の?」


「はい。――『水鏡』」


桔梗が、滝壺に向かって、澄んだ声で呼びかける。

すると、信じられないことが起きた。

あれほど激しく流れ落ちていた水が、まるで意思を持ったかのように、左右に割れていく。

滝の裏側に、ぽっかりと暗い洞窟の入り口が姿を現した。


「なっ……!」


「おお……!」


快然と夜凪が、同時に息を呑む。

これは、ただの水遁の術ではない。

里全体が、強力な結界……幻術によって、その存在を隠されているのだ。


「こちらへ」


桔梗に促され、三人は水音の向こう側へと足を踏み入れる。

薄暗い洞窟を抜けた先。

そこに広がっていたのは、夜凪の想像を絶する光景だった。


(……なんだ、ここは)


まるで、時間の流れから取り残されたかのような、静かな集落。

山の斜面に沿うように、質素だが堅牢な家々が並ぶ。

田畑が耕され、子供たちの無邪気な笑い声が聞こえてきた。

だが、同時に、里のあちこちで忍び装束の者たちが行き交い、その目には鋭い警戒の光が宿っていた。


平和。

だが、決して「安穏」ではない。

常に戦いに備える者たちだけが持つ、張り詰めた空気が、この里を支配している。

夜凪の故郷とは、まったく違う。

だが、なぜか。

彼の心に、わずかな「安らぎ」が広がっていくのを、夜凪は感じていた。


「桔梗様! お帰りなさいませ!」


「おお! 桔梗じゃないか!」


「無事だったんだね!」


里の忍びたちが、桔梗の姿を見つけ、次々と駆け寄ってくる。

その顔には、心からの安堵と喜びが浮かんでいた。


「ただいま戻りました、皆さん」


「心配をかけて、ごめんなさい」


「もう! 里の長老が、どれだけ心配なさっていたと……」


「ん? そちらの方々は?」


忍びたちの視線が、夜凪と快然へと注がれる。

それは、値踏みするような、鋭い視線だった。


「……この人たちは、私の仲間です」


桔梗が、きっぱりと言った。


「闇御門と戦う、大切な仲間たち」


「……仲間」


忍びたちは、顔を見合わせる。

だが、桔梗のその言葉で、彼らの警戒心はひとまず解かれたようだった。


「さあ、まずは長老の元へ」


「お二人も、こちらへどうぞ」


桔梗に導かれ、夜凪と快然は里の奥へと進む。

快然は、相変わらず落ち着きがない。


「ほほう! あれは薬草畑ですかな!」


「おお! あちらでは鍛冶を行っているようですぞ!」


「腹が減りましたな!」


「……少し、静かにしてください、快然さん」


夜凪は、黙って周囲の空気を肌で感じていた。

清浄な霊力。

ここは、闇御門の邪気とは無縁の場所だ。

束の間ではあるが、心が洗われるような感覚。

それが、彼を少しだけ戸惑わせていた。


やがて、一行は里で最も高い場所にある、一際大きな社の前にたどり着いた。

ここが、里の長である桔梗の祖父、白雲斎の住まいらしかった。


「……祖父様、ただいま戻りました。桔梗です」


「……入れ」


社の奥から、しわがれた、だが芯の通った声が響く。

三人の間に、緊張が走った。

ぎ、と音を立てて戸が開かれる。

薄暗い堂内。

その中央に、一人の老人が、静かに座禅を組んでいた。


(……この、気配)


夜凪の肌が、ぴりぴりと粟立つ。

藤吉郎とも、信長とも違う。

まるで、深く、静かな森の奥底にいるかのような、計り知れない気配。

この老人、ただ者ではない。


「……よくぞ、無事に戻った、桔梗」


老人は、ゆっくりと目を開けた。

桔梗の祖父、白雲斎。

その瞳は、歳不相応なほど鋭く、夜凪と快然を射抜くように見つめた。


「して、そちらの者たちが、お前が言っていた『仲間』か」


「は、はい」


桔梗が、緊張した面持ちで頷く。


「こちらは、獅子堂快然殿」


「おお! 拙僧が、獅子堂快然でござる!」


「こちらは……」


「……月読夜凪だ」


夜凪が、自ら名乗った。

その瞬間。

白雲斎の瞳が、カッ、と見開かれた。

その視線が、まるで槍のように夜凪を貫く。

それは、敵意ではない。

驚愕。

そして、何か、もっと別の感情。


「……なんと」


白雲斎は、夜凪の全身を、値踏みするように、舐め回すように見つめた。

そして、深い溜息と共に、こう呟いた。


「……月読の、生き残りか」


「!」


夜凪の身体が、硬直する。

なぜ、俺の素性を。

桔梗から聞いたのか。

いや、違う。

この老人は、俺を見ただけで、すべてを見抜いた。


白雲斎は、夜凪の動揺など意にも介さず、視線を宙に彷徨わせる。

まるで、遠い過去を懐かしむかのように。


「……古の盟約」


「……?」


「果たして、そなたの存在が吉と出るか、凶と出るか」


「……」


「すべては、天命、か」


その意味深な呟き。

『古の盟約』

その言葉が、夜凪の心に、新たな宿命の重りとなって、ずしりと突き刺さった。

ヒロインの故郷で得た、束の間の「安らぎ」。

それは、同時に、自らが背負う「宿命の重さ」を、改めて自覚させる場所でもあった。

夜凪の戦いは、もはや彼一人の復讐では、なくなってきている。

その事実を、彼はこの静かな忍びの里で、痛感させられることになった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


桔梗の故郷、不知火の里。そこで一行は束の間の安らぎを得ると同時に、里の長・白雲斎から「古の盟約」という謎の言葉を告げられました。 夜凪の「月読つくよみ」一族と、桔梗の「不知火」一族。二つの間に隠された、遠い過去の因縁とは……。


闇御門やみのみかどとの決戦、そして信長との駆け引きを前に、彼らは新たな宿命を背負うことになりました。いよいよ物語は京へ。ご期待ください!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります! 感想もお待ちしております。


X(旧Twitter)では更新情報や裏話などをポストしていますので、よければフォローお願いします!

酸欠ペン工場(@lofiink)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ