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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第22章 魔王の誘い

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。 第22章「魔王の誘い」をお届けします。


五行衆との死闘をすべて乗り越え、ついに最終決戦の地・京の目前までたどり着いた夜凪よなぎたち。 しかし、彼らの前に現れたのは闇御門やみのみかどの刺客ではなく、あの尾張の風雲児・織田信長が遣わした、猿に似た謎の男でした。 彼がもたらす「魔王からの誘い」とは……。


それでは、本編をお楽しみください。

東海道を西へ。

呪われた都、京はもう目前だ。

五行衆との死闘を乗り越えた三人の旅は、奇妙な静けさを帯びている。

あの強大な敵の気配は、もう感じられない。

だが、それは嵐の前の静けさに過ぎないことを、誰もが理解していた。


月読夜凪は、先頭を歩きながら、意識を研ぎ澄ませている。

深雪の一件で凍てついた心は、桔梗の不器用な優しさによって、わずかに溶かされた。

仲間。

その言葉の温もりと重さを、彼はまだ持て余していた。

それでも、目指す場所は変わらない。


「いやあ、しかし!」


沈黙を破ったのは、いつものように獅子堂快然の能天気な声だった。


「あの五行衆とかいう連中を、全員倒したのですから!」


「我らも、なかなか大したものではありませんかな!」


「……快然さん、声が大きいです」


「はっはっは、これは失敬」


呆れたように、しかしどこか楽しげに桔梗がたしなめる。

快然は、錫杖を肩にかつぎ、上機嫌で歩いている。

その隣で、桔梗は時折、夜凪の横顔を心配そうに窺っていた。

夜凪は、そんな二人のやり取りを、ただ黙って聞いている。


(……京)


闇御門の本拠地。

一族を滅ぼした者たちが、そこにいる。

想像するだけで、胸の奥で復讐の炎が、ごう、と音を立てて燃え盛る。

その炎だけが、彼をここまで歩かせてきた。


一行は、日も傾きかけた頃、京の手前にある最後の宿場町にたどり着いた。

都が近いせいか、これまでの宿場とは比べ物にならない活気がある。

行き交う人々の数も、その服装も、どこか洗練されているようだった。


「さて! 今宵の宿を探す前に、まずは腹ごしらえですな!」


「桔梗殿! あそこの茶屋の団子が、拙僧を呼んでおりますぞ!」


「……あなたは、団子のことばかりですね」


「腹が減っては戦はできぬ、と申します!」


快然が、茶屋の看板を見つけて駆け出そうとする。

桔梗がやれやれと肩をすくめた、まさにその時だった。


「――止まれ」


夜凪の低い声が、二人の足を止めた。

彼の視線は、雑踏の中の一点に向けられている。

人混みをかき分けるように、一人の小柄な男が、まっすぐこちらへ近づいてきていた。


「……?」


桔梗と快然も、その男の存在に気づき、身構える。

だが、男からは、闇御門の術者が放つような禍々しい霊力は感じられない。

それどころか、まるで霊力そのものが欠落しているかのように、希薄だった。


(……なんだ、こいつは)


夜凪は、孤月の柄にそっと手をかけた。

霊力は感じない。

だが、別の種類の、底知れない「何か」を感じる。

それは、まるで蛇の鱗が肌を撫でるような、不快な感触だった。


男は、三人の目の前でぴたりと足を止めた。

歳は三十代半ばだろうか。

日に焼けた顔には、深い皺が刻まれている。

何より目を引くのは、その顔つきだった。

猿。

夜凪の脳裏に、その一言が浮かんだ。

人懐っこい笑みを浮かべているが、その瞳の奥だけが、まったく笑っていない。


「いやはや、これはこれは」


男は、甲高い、よく通る声で言った。


「あなた様がたが、月読夜凪殿の一行ですな?」


「……!」


夜凪の全身に、緊張が走る。

なぜ、俺の名を。


「……貴様、何者だ」


夜凪の問いに、男はますます笑みを深くした。

彼は、深々と頭を下げる。


「これは失礼仕りました」


「拙者、織田家にて草履取りなどを仰せつかっております」


「木下藤吉郎、と申しまする」


木下、藤吉郎。

聞いたことのない名だ。

だが、織田、という言葉が三人の間に緊張を走らせる。


「……尾張の、織田信長公の?」


桔梗が、警戒を込めて問い返した。


「いかにも!」


藤吉郎は、顔を上げると、ぱん、と手を打った。


「して、このような場所で立ち話も何ですな」


「あちらの茶屋で、一服いかがですかな?」


「ちょうど、拙者も喉が渇いていたところでして」


その態度は、あまりにも飄々としていた。

まるで、旧知の友人にでも出会ったかのような、気軽さ。

だが、夜凪の警戒心は、一瞬たりとも解けなかった。

こいつは、危険だ。


茶屋の一角。

四人は、騒がしい喧騒から少し離れた席に腰を下ろす。

快然だけが、目の前に積まれた団子を夢中で頬張っている。

夜凪と桔梗は、一口も茶に手をつけず、目の前の男を観察していた。


「……それで」


夜凪が、沈黙を破った。


「信長の草履取りが、俺たちに何の用だ」


その言葉には、隠しようのない敵意が滲む。

あの男、織田信長。

『俺のやり方で天下を覆す』

『好きに足掻いてみせろ』

そう言い放った、魔王のような瞳。

あの男の家臣が、今さら何の用なのか。


「いやあ、怖い顔をなさらないでくだされ」


藤吉郎は、からからと笑う。


「夜凪殿の仰る通り、拙者ごときが、あなた様がたに何の用か」


「ですが、用があるのは、拙者ではありませぬ故」


「……」


「我が主、織田信長様が、貴殿らにお伝えしたいことがある、と」


その言葉に、快然の団子を食む手が、ぴたりと止まった。

桔梗の背筋が、わずかに伸びる。

藤吉郎は、懐から一通の書状を取り出し、机の上にそっと置いた。


「……これは」


「殿からの、親書にございます」


夜凪は、その書状を睨みつけたまま、動かない。

藤吉郎は、構わずに話を続けた。

その声の調子が、先ほどまでの陽気さから一転し、わずかに低くなる。


「まず、申し上げたきこと」


「東海道でのご活躍、実に見事であった、と」


「……!」


夜凪の瞳が、鋭く藤吉郎を射抜いた。

東海道での、活躍?


「五行衆……常盤、金剛、迦具土、白銀」


「そして、最後の深雪」


「……」


「それらすべてを退けた貴殿らの力」


「殿は、それを高く、高く評価しておられまする」


藤吉郎の口から、淀みなく語られる真実。

夜凪の背筋を、冷たい汗が伝う。

見られていた。

あの戦いのすべてを、この男たちに。

いったい、どこから。

信長の情報網の恐ろしさに、彼は戦慄を禁じ得なかった。


「……それで、本題は何だ」


夜凪は、動揺を声に出さぬよう、絞り出すように言った。


「ふふ……話が早うて助かりまする」


藤吉郎は、机の上の書状を、指でとん、と叩いた。


「ここに、我らが殿からの『提案』が記されております」


「提案?」


「いかにも」


藤吉郎は、その笑っていない瞳で、夜凪を、桔梗を、そして快然を、順番に見回した。


「貴殿らの目的は、闇御門の打倒」


「我らが殿の目的もまた、闇御門による、この日ノ本の支配を打ち破ること」


「……」


「目的は、同じ」


「ならば」


藤吉郎は、そこで一度言葉を切り、満面の笑みを浮かべた。


「我らと、手を組みませぬか?」


「!」


「手を……組む?」


桔梗が、驚きの声を上げる。

快然も、団子の串を置いて、目を丸くしていた。


「いかにも!」


「もちろん、対等な『同盟』とはいきませぬ」


「ですが、それに近い『協力関係』を、と殿は望んでおられます」


「……」


夜凪は、黙って藤吉郎を見据えていた。

協力関係。

あの、織田信長が。

『化け物の力など借りるつもりはない』

そう言い放った男が、なぜ今になって。


(……罠、か)


夜凪の心に、即座に浮かんだのは「警戒心」だ。

あの男が、素直に協力を申し出るはずがない。

自分たちを、都合のいい駒として、さらにこき使おうという魂胆に決まっている。


「……断ると言ったら?」


「それは、もったいない」


藤吉郎は、肩をすくめた。


「あなた様がたが、いかに強力な力をお持ちでも」


「闇御門の本拠地である、この京で動くのは骨が折れましょう」


「……」


「我らの力を借りれば、その道は、遥かに容易くなる」


「そうは、思いませぬか?」


悪魔の誘いだった。

藤吉郎の言う通りだ。

京は、敵のど真ん中。

信長の助けがあれば、本拠地「奈落宮」にたどり着くのも、容易になるかもしれない。

それは、夜凪にとって、抗いがたい「期待」を抱かせる提案だった。


警戒心と、期待。

相反する感情が、夜凪の中で渦を巻く。

これは、呪術の戦いとは違う。

人の心を読み、利害を天秤にかける、政治の戦いだ。

夜凪は、これまで足を踏み入れたことのない、新たな領域へと引きずり込まれようとしていた。


「ふん!」


沈黙を破ったのは、快然だった。


「難しいことは、拙僧には分からん!」


「だが、闇御門を滅ぼすという目的が同じなら、話は早い!」


「魔王の手だろうが、閻魔の手だろうが、借りられるものは何でも借りるまでよ!」


「……快然さん」


「しかし!」


快然は、藤吉郎を鋭く睨みつけた。


「もし、我らを騙そうというのなら」


「たとえ相手が織田信長公であろうと、この拙僧が許さん!」


「その鉄槌で、脳天をかち割ってくれるわ!」


「はっはっは! 頼もしきお言葉!」


藤吉郎は、その脅しに怯むどころか、心底楽しそうに手を叩いた。


「では、夜凪殿は、どうなされますかな?」


すべての視線が、夜凪に集まる。

彼は、ゆっくりと書状に手を伸ばした。

そして、その封を、音もなく破る。


「……」


「……」


「この話、受けよう」


「なんと!」


「ただし」


夜凪は、書状から顔を上げると、氷の瞳で藤吉郎を射抜いた。


「俺たちは、あんたたちの駒になるつもりはない」


「……」


「俺たちは、俺たちのやり方で、闇御門を滅ぼす」


「……」


「それでいいなら、協力してやってもいい」


その言葉に、藤吉郎の目が、初めて愉悦に細められた。

面白い。

この小僧、殿に似ている。

彼は、心の底からそう思った。


「……承知いたしました」


「そのお言葉、確かに殿にお伝えしましょう」


「では、拙者はこれにて」


藤吉郎は、あっけないほど簡単に席を立つと、茶屋の喧騒の中へと消えていった。

まるで、最初からそこにいなかったかのように。


後に残された三人の間に、重い沈黙が落ちる。

「魔王」からの、予期せぬ誘い。

それは、彼らの復讐の旅に、新たな波乱をもたらす序章に過ぎなかった。

夜凪は、手の中の書状を強く握りしめた。

利用されるものか。

利用する。

この魔王すらも。

彼の心に、「期待」と「警戒心」という、二つの炎が同時に燃え上がっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


織田信長の使者、木下藤吉郎。彼がもたらしたのは、「闇御門打倒」のための「協力関係」という、あまりにも予期せぬ提案でした。 東海道での戦いのすべてを見られていたという事実に戦慄しつつも、夜凪は「警戒心」と「期待」の中で、あえてその手を取る決断をします。


魔王・信長との危険な共闘は、彼らの復讐の旅に何をもたらすのか。 ついに舞台は京へ。闇御門の本拠地「奈落宮」での最終決戦が始まります。ご期待ください!


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