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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第19章 夏に舞う雪

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

第19章「夏に舞う雪」をお届けします。


京を目前にし、束の間の平穏を楽しむ夜凪よなぎたち。しかし、季節外れの雪と共に、闇御門やみのみかど五行衆の最後の一人が姿を現します。

これまでとは全く違う、哀しい瞳をした最後の刺客。彼女が口にする言葉は、夜凪の固く閉ざされた過去の記憶を、容赦なくこじ開けます。


それでは、本編をお楽しみください。

五行衆との死闘を乗り越え、一行は静かな湖畔で足を止めていた。

京の都は、もう目前だ。

これまでの激戦で張り詰めていた糸が、湖面の穏やかさに誘われるように、少しだけ緩む。

快然は大きなあくびをし、桔梗は澄んだ水面に故郷の空を映していた。

夜凪もまた、仲間たちと共にあるこの束の間の平穏を、静かに受け入れていた。


「いやあ、ここまで来れば京は目と鼻の先ですな!」

「ええ。でも、ここからが本当の戦いになるわ」

「分かっておりますとも! そのためにも、今は少しだけ……」


快然が大きく伸びをした、その時だった。

ふわり、と。

彼の鼻先を、何か白いものが掠めていった。

それは、夏の陽光を浴びて、きらりと儚く輝く。

夏だというのに、あまりにも場違いな、季節外れの雪だった。


「……ん? 雪……?」

「馬鹿なことを。夏ですぞ、今は」


快然が目をこするが、その現象は幻ではなかった。

一つ、また一つと、空から舞い降りる白い結晶がその数を増やしていく。

先ほどまで肌を焼くようだった日差しは急速に力を失い、代わりに肌を刺すような冷気が辺りを支配し始めた。

湖面は、まるで冬の訪れを予感したかのように、静かにその色を深くしていく。


「……おかしいわ。この気配……!」


桔梗が、はっとしたように身構える。

夜凪もまた、孤月の柄に手をかけていた。

この異常な冷気、そして季節を捻じ曲げるほどの強大な霊力。

間違いない。

五行衆、最後の一人が、ついにその姿を現したのだ。


三人の視線が、湖畔の一点に吸い寄せられる。

そこに、いつの間にか一人の女が佇んでいた。

水面を滑るかのように静かに立ち、その白い着物は舞い始めた雪に溶い込んでしまいそうなほど儚い。

長く艶やかな黒髪が、冷たい風に静かになびいている。

その顔立ちは、まるで精巧な人形のように美しく、そしてどこか硝子細工のように脆い悲しみを湛えていた。


「……貴様が、最後の一人か」


夜凪が、静かに問う。

女は、その問いには答えなかった。

ただ、その大きな瞳で、じっと夜凪のことだけを見つめている。

その瞳に宿るのは、これまでの五行衆が浮かべていたような、憎悪や狂気の色ではなかった。

もっと深く、もっと哀しい、何か別の感情。

まるで、遠い昔に失くしてしまった大切なものを見つけたかのような、そんな色だった。


「問答無用! 闇御門の手先め!」


快然が、堪えきれずに錫杖を構えて前に出る。

だが、女は彼のことなど意にも介さない。

その視線は、ただひたすらに、夜凪だけに注がれていた。

雪が、徐々にその勢いを増していく。

夏草の上に、はらはらと白い結晶が積もり始める、幻想的で、そして絶望的な光景。


やがて、女の薄い唇が、ゆっくりと開かれた。

その声は、冬の湖に響く鈴の音のように、澄んでいて、そして哀しかった。


「……夜凪兄様」


その一言が、夜凪の心臓を、氷の矢となって貫いた。

兄様。

その呼び名に、彼の思考が完全に停止する。

頭の奥底で、固く閉ざされていたはずの記憶の扉が、軋みを上げてこじ開けられようとしていた。

知らないはずの光景が、脳裏を駆け巡る。

陽だまりの中で笑う、幼い少女の顔。

小さな指を絡めて交わした、遠い日の約束。

忘れたはずの、温かい温もり。


「……また、会えたのですね」


女――五行衆が一人、「水行・深雪(みゆき)」は、そう言って、泣き出しそうに、それでいて嬉しそうに、ふわりと微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、夜凪の全身を、経験したことのない激しい動揺が襲った。

孤月を、取り落とす。

足がもつれ、彼はたたらを踏んだ。


「なっ……夜凪殿!?」

「夜凪さん、どうしたの!?」


仲間たちの声が、遠くに聞こえる。

分からない。

この女は、誰だ?

敵のはずだ。

一族を滅ぼした、闇御門の手先に違いない。

それなのに、なぜ。

この胸を締め付ける、この痛みは、なんだ。

この溢れ出しそうな、懐かしい感情は、なんだ。


「……あ……ぁ……」


声にならない声が、夜凪の喉から漏れる。

彼は、頭を抱えてその場に膝をついた。

過去との、あまりにも突然の対峙。

それは、彼がこれまで対峙してきたどの敵よりも、恐ろしく、そして抗いようのないものだった。

舞い頻る夏ノ雪の中で、悲劇の予感が、静かに、そして確かに幕を開けていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


五行衆が最後の一人、「水行・深雪すいぎょう・みゆき」。彼女は、夜凪を「兄様」と呼びました。

最強の敵は、夜凪自身の失われた過去、そして断ち切れぬはずの絆でした。戦うことすらできず、心を引き裂かれ、崩れ落ちる夜凪。


彼女は本当に夜凪の妹なのか。なぜ、闇御門に与するのか。そして、夜凪はこの残酷すぎる宿命に、どう立ち向かうのか。

物語は、最大の謎と悲劇を迎え、最終決戦の地、京へと向かいます。ご期待ください!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、↓の☆☆☆☆☆で評価していただけると、執筆の励みになります!

感想もお待ちしております。


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