第18章 三位一体
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第18章「三位一体」をお届けします。
白銀の傀儡と迦具土の炎、二人の五行衆が仕掛ける完璧で非道な連携戦術。絶体絶命の窮地を前に、夜凪、桔梗、快然《かいぜen》の三人は、これまでの戦いの経験のすべてを懸け、心を一つにします。
三位一体の戦いが、今、始まります。
「くくく……どうです? 手も足も出ないでしょう」
屋根の上から、白銀の粘つくような嘲笑が降り注ぐ。
彼の指先の動きに合わせ、傀儡と化した町人たちが壁となって三人の行く手を阻む。
その背後では、迦具土が狂ったように笑いながら、煉獄の炎を撒き散らしていた。
炎を防げば、傀儡に斬りつけられる。
傀儡をいなせば、灼熱の炎に焼かれる。
あまりにも、完璧な連携。
そして、あまりにも、非道な戦術だった。
「お前たちの大好きな『正義』とやらで、この状況をどう切り抜けるのか……見ものですねぇ」
「この……外道が……!」
快然が、歯噛みしながら錫杖を振るう。
だが、彼の攻撃は、常に傀儡の身体によって阻まれてしまう。
傷つけることを躊躇うその一瞬の迷いが、彼の動きを致命的に鈍らせていた。
桔梗もまた、苦無を手に傀儡の群れを駆け回るが、決定打を与えられずにいる。
このままでは、じり貧だった。
(……落ち着け。怒りに飲まれるな)
夜凪は、燃え盛る怒りを、無理やり氷の冷静さで押さえつけた。
白銀の狙いは、自分たちを精神的に追い詰め、判断を誤らせることだ。
その挑発に乗ってはいけない。
敵は二人。
だが、こちらは三人だ。
一人一人の力では及ばないかもしれない。
だが、三人の力を一つに合わせれば。
(……勝機は、ある)
これまでの戦いが、夜凪に新しい視点を与えていた。
常盤との戦い。
金剛との戦い。
一人では決して勝てなかった。
仲間を信じ、それぞれの役割を果たしたからこそ、道を切り開くことができたのだ。
夜凪は、血の滲む唇をぐっと噛み締めると、仲間たちへと鋭く視線を送った。
「快然!」
「……!」
「炎を!」
「……承知!」
短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
快然は、迷いを振り払うように大きく頷くと、錫杖を強く地面に突き立てた。
「桔梗殿! 夜凪殿!」
「……ええ!」
「……ああ!」
三人の心が、完全に一つになる。
それは、これまでのどの戦いとも違う、絶対的な信頼が生んだ一体感だった。
快然は、ありったけの法力を解き放つ。
「――不動明王の加護、ここに在り!」
金色の光が、巨大な半球状の結界となって三人を包み込んだ。
迦具土の放つ煉獄の炎が、その光の壁に激突し、凄まじい音を立てて弾け飛ぶ。
「ちっ……! あの坊主、まだこれだけの力が……!」
迦具土の舌打ちが聞こえる。
だが、この結界は長くはもたない。
すべては、この一瞬に賭ける。
「――行かせてもらうわ!」
快然が炎を防いでいる、その刹那。
桔梗が、疾風の如く結界の中から飛び出した。
彼女の狙いは、白銀ではない。
ただ、三人の前に壁となって立ちはだかる、傀儡の群れ。
その手から、立て続けに数本の苦無が放たれる。
だが、その狙いは、人の急所ではなかった。
キン、キン、キンッ!
甲高い金属音が、連続して響き渡る。
桔梗の放った苦無は、傀儡たちの膝、そして肘の関節部分を、寸分の狂いもなく正確に撃ち抜いていたのだ。
肉を断ち、骨を砕くのではない。
ただ、動きを支える一点だけを破壊する、神業のような精密射撃。
「なっ……!?」
白銀の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
関節を破壊された傀儡たちが、次々と体勢を崩し、その場に崩れ落ちていく。
もはや、人の壁としての機能は果たしていない。
白銀と迦具土へと続く道が、確かに、そしてはっきりと開かれた。
「――お見事!」
快然の賞賛の声が響く。
桔梗が切り開き、快然が守った、その道を。
夜凪が、一筋の黒い閃光となって駆け抜けた。
彼の瞳には、もはや一体の敵しか映っていない。
いや、違う。
二人の敵を、同時に、その視界に捉えていた。
「面白い……!」
「まとめてかかってこい、小僧!」
白銀が指を鳴らし、迦具土が炎の槍を練り上げる。
だが、もう遅い。
夜凪の成長は、彼らの想像を遥かに超えていた。
彼は、ただ一体の敵を滅ぼすだけの存在ではない。
仲間との戦いの中で、その力の本当の使い方を、彼は学び始めていたのだ。
夜凪は、静かに、そして冷徹に、二人の外道へと、同時に裁きの言霊を解き放った。
「――動くな。そして、滅びろ」
絶対的な命令が、二つの言霊となって、寸分違わず二人の五行衆へと突き刺さる。
「がっ……!?」
「な……に……!?」
炎の槍が霧散し、傀儡を操っていた指がぴたりと止まる。
そして、その身体が、内側から迸る光によって、塵となって消滅していった。
圧倒的な、決着だった。
静寂が、戻ってくる。
主を失った傀儡たちが、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
快然の結界が、光の粒子となって消える。
三人は、息を切らしながら、互いの顔を見合わせた。
そして、誰からともなく、笑みがこぼれた。
「……やったな」
「ええ……!」
「見事でしたぞ、お二人とも!」
それは、個々の力ではなく、三位一体の連携が生んだ、必然の勝利だった。
これまでの経験のすべてが、この一瞬に集約されたかのような、完璧な戦い。
圧倒的な成長と、仲間との揺るぎない一体感を、三人はその身をもって実感していた。
彼らの旅は、また一つ、大きな壁を乗り越えたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
快然が炎を防ぐ『盾』となり、桔梗が傀儡を無力化する『道』を切り開き、その道を夜凪が『刃』となって駆け抜ける。三人の力が完璧に一つになった時、ついに二人同時の五行衆撃破を成し遂げました。これまでの経験が集約された、まさに三位一体の勝利です。
これで五行衆も残るは一人。しかし、最強の敵は最後に現れるもの。京を目前にして、彼らを待ち受ける最後の五行衆とは一体……。そして、ついに闇御門の本拠地が見えてきます。ご期待ください!
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