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日ノ本を喰らう者 -黒き血の宿命-  作者: 酸欠ペン工場


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第17章 傀儡は涙を流すか

最新話へお越しいただき、ありがとうございます。

第17章「傀儡は涙を流すか」をお届けします。


迦具土かぐつちとの激戦を乗り越え、人々を守り抜いた夜凪よなぎたち。しかし、束の間の安堵を切り裂き、五行衆の四人目が姿を現します。彼の戦い方は、これまでで最も卑劣で、そして厄介なものでした。


それでは、本編をお楽しみください。

迦具土の狂炎が消え去った宿場町は、惨憺たる有り様だった。

建物の多くは黒い炭と化し、空にはまだ燻る煙が悲しげに立ち上っている。

だが、奇跡的に死者は一人も出なかった。

それは、三人が文字通り身を挺して、炎から人々を守り抜いた結果だった。

川辺に避難していた町人たちが、おずおずと戻ってくる。


「あ、ありがとうございます……! あなた様方のおかげで……」

「命の恩人でございます……!」


口々に感謝の言葉を述べる人々。

その中には、先ほど夜凪が助け出した幼い子供と、その母親の姿もあった。

快然は、満面の笑みで彼らの無事を喜んでいる。

「いやいや、ご無事で何より! これも仏のお導きですな!」

「……本当に、よかった」


桔梗も、安堵の息を漏らした。

夜凪は、そんな光景を少し離れた場所から黙って見ていた。

復讐の道中で、誰かを守り、感謝される。

そんな経験は、彼にとって初めてのことだった。

胸の奥が、むず痒いような、それでいて温かい感情で満たされていく。


(……悪くない)


素直に、そう思えた。

だが、その束の間の安堵を切り裂くように、異変は起きた。

感謝していたはずの町人たちの表情が、ふっと抜け落ちたのだ。

まるで、能面のように。

そして、その虚ろな瞳が、一斉に三人へと向けられる。


「……どうしたのですかな、皆さん?」


快然が、訝しげに問いかける。

だが、返事はない。

代わりに、町人たちはぎこちない、まるで糸で操られた人形のような動きで、じりじりと三人を取り囲み始めた。

その手には、瓦礫の中から拾い集めたのであろう、農具や刃物が握られている。


「これは……!?」

「皆さん、しっかりしてください!」


桔梗が叫ぶが、その声は届かない。

彼らの瞳には、もはや理性や感情の光は宿っていなかった。

夜凪は、この異常事態の根源に、即座に気づいていた。

これは、術だ。

迦具土とは違う、もっと陰湿で、悪質な霊力がこの場を支配している。


「くくく……面白い見世物でしたよ」


屋根の上に、いつの間にか一人の男が立っていた。

銀色の髪を長く伸ばし、まるで公家のような優雅な着物を纏っている。

その顔立ちは、作り物のように整っているが、浮かべた笑みだけが、蛇のように冷たく、粘りついていた。

闇御門五行衆が一人、「金行・白銀(しろがね)」。

彼は、迦具土のような狂気も、金剛のような威圧感も放ってはいない。

だが、その存在そのものが、底知れぬ悪意の塊であることを、夜凪の本能が告げていた。


「はじめまして、月読の末裔。そして、愉快な仲間たち」

「貴様が……次の五行衆か!」

「いかにも。私は、力任せの戦いは好みませんのでね。少し、趣向を凝らしてみました」


白銀が、すっと指を動かす。

すると、それに呼応するように、町人たちが一斉に三人へと襲いかかってきた。

その動きは、先ほどのぎこちなさが嘘のように、鋭く、そして殺意に満ちている。


「なっ……!?」

「これは、傀儡の術! 町の人々を操っているんだわ!」

「なんと卑劣な……!」


快然が、錫杖で老婆の振り下ろす(くわ)を受け止める。

だが、その顔には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。

相手は、先ほどまで自分たちに感謝していた、非力な人々だ。

本気で打ち払うことなど、できるはずもない。


「快然さん! ためらっては駄目! この人たちは操られているだけよ!」

「しかし、桔梗殿! この者たちに刃を向けるなど、拙僧には……!」


快然の優しさが、この非道な戦術の前では、致命的な(かせ)となっていた。

彼は、次々と繰り出される攻撃を、防戦一方で受け流すしかない。

その身体には、徐々に小さな傷が増えていく。

夜凪もまた、孤月の峰で攻撃をいなしながら、苦々しく顔を歪めていた。


(こいつ……人の心を弄ぶことだけに、悦びを見出す外道か……!)


これが、白銀の戦い方なのだ。

自らは手を下さず、相手の良心や葛藤そのものを武器として利用する。

戦闘ではなく、知略戦。

そのやり方は、これまでのどの敵よりも、陰湿で、そして厄介だった。


「どうしました? 先ほど守ったばかりの者たちを、斬り殺すことはできませんか?」


白銀の嘲笑が、三人の心を苛む。

夜凪の胸の内に、これまで感じたことのない種類の、冷たい怒りが燃え上がった。

迦具土の破壊衝動は、まだ理解できた。

金剛の絶対的な力も、敵ながら認められた。

だが、こいつは違う。

人の心を玩具にするこの男だけは、断じて許すわけにはいかない。


「くそっ……! 目を覚ましてください!」


快然の悲痛な叫びも虚しく、傀儡と化した町人たちの猛攻は止まらない。

夜凪が助けた、あの幼い子供までもが、その小さな手に石を握りしめ、無垢な瞳で彼に襲いかかってくる。

その光景が、夜凪の心の最後の何かを、ぷつりと断ち切った。


「……もう、やめろ」


地を這うような、低い声が漏れる。

それは、純粋な怒りだった。

味方を攻撃できない葛藤ではない。

ただ、この非道な所業に対する、底なしの憎悪。

夜凪は、ゆっくりと顔を上げると、その氷の瞳で、屋根の上の白銀を射抜いた。

その瞳に宿る殺気に、白銀の笑みが、初めてわずかに凍りついた。


「ほう……。ようやく、その気になりましたか」

「……お前だけは、俺が殺す」

「面白い。ですが、私を殺すということは、そこにいる者たちも皆殺しにするということです。できますかな? あなた方の正義とやらで」


白銀の挑発は続く。

だが、夜凪の心は、もはや揺らがなかった。

怒りが、彼の思考を氷のように研ぎ澄ませていく。

これは、ただの人ではない。

人の姿をした、悪意そのものだ。

ならば、斬るべきは一つ。


「桔梗、快然」

「……はい」

「……なんでしょう」

「あの人形を操っているのは、術者から伸びる霊力の糸だ。その糸を、断ち切る」


夜凪の言葉に、二人ははっとした。

そうだ。

人を傷つける必要はない。

この術の大本を断てばいいのだ。

だが、その糸は、常人の目には見えない。


「糸は……見えるのですか?」

「ああ。俺の目には、はっきりと見える」


夜凪の瞳が、静かに、そして妖しく輝いた。

それは、月読の血族だけが持つ、世界の理を見通す魔眼。

彼の視界には、白銀の指先から伸びる無数の銀色の糸が、町人たちの身体に繋がっているのが見えていた。

希望の光が、三人の間に差し込む。

だが、白銀は、そんな彼らをあざ笑うかのように、指を鳴らした。


「――残念でした」


その瞬間、傀儡と化した町人たちの動きが、さらに激しさを増す。

彼らは、もはや武器を振るうだけではない。

自らの身体を盾とし、三人の行く手を阻む壁となったのだ。

これでは、白銀に近づくことすらできない。

あまりにも、非道な策だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


五行衆の四人目、「金行・白銀きんぎょう・しろがね」。人の心を弄ぶ、最も陰湿な敵が現れました。

守ったはずの人々に刃を向けられるという非道な戦術は、三人の心、特に快然かいぜんを苦しめます。

夜凪の魔眼が反撃の糸口を見つけましたが、白銀はその対策すら織り込み済み。傀儡の壁に阻まれ、近づくことすらできない絶望的な状況です。


この非道な策を、三人はどう打ち破るのでしょうか。

次回、ご期待ください!


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