灰かぶり姫が転生者だった場合
灰にまみれた屋根裏で、エリシアは黙々と掃除していた。
(……あぁ、クイックルワイパーが欲しい。いや、ないんだよな異世界に。
でも棒と布で即席モップは作れるし……よし完成!)
…そうエリシアは日本人転生者だった。
床はピカピカ。
だが家族は特に感謝しない。
(まぁいいけどさ。日本人の悲しい性だよね、“汚いのを見ると掃除せずにいられない”ってやつ)
暖炉掃除をしながら、ふと思う。
(この灰、重曹代わりに使えるんじゃ……?
ほら、アルカリ性でしょ。シンク――じゃなくて鍋磨くのに最高!
文明レベル低いくせに、私だけやたら家事ハック進んでる!?)
義理の母と姉が舞踏会に行った。王子様がお嫁さんを探すそうだ。
舞踏会の噂を聞いたエリシアが、ひとり灰をかぶって(お腹空いたよ…)ため息をついていると――煙がもくもく。
魔法使い「おお、可憐な娘よ。舞踏会に行きたくはないか?」
「え? 正直めんど……あ、いえ、行ってみたいです」
(やば、社交辞令出た! 日本人根性で無駄に空気読んだ!)
魔法使いはかぼちゃを指差す。
魔法使い「これを馬車に変えて――」
「ちょ、待って! それは明日のおかず! 」
「だ、大丈夫。馬車にしても十二時過ぎたら戻るから」
(え、それ料理して食べるの?……)
さらにネズミを御者に変える。
「しゃっす! 任せてくだせぇ!」
(うわ、声が江戸っ子!? キャラ濃いな!?
ていうか衛生面大丈夫!? ネズミが運転する馬車って、もう飲食店の保健所案件!)
会場に入ると、豪華絢爛。
(うわぁ、平成バブル期の披露宴会場みたい! シャンデリアデカすぎ!映像しか知らんけど。
これ絶対電気代――いや、ここ魔法か……でも固定費高そう……)
王子が現れる。
王子「お美しい方、私と踊ってください」
「え、は、はい……」
(日本人転生者的に、いきなりダンスはハードル高い!
盆踊りとラジオ体操しか経験ないのに!)
しかし王子が強引にリード。
(あ、これ……カップルダンスっていうより、完全に私“自動操縦モード”。王子、凄い)
王子「お名前を伺っても?」
「……」
(来たーー!! これ絶対答えられないやつ!)
「……好きにお呼び下さい」
「では“謎の美姫”とお呼びしよう」
(なにそれ!? 名前言った方がマシか!)
給仕がシャンパンらしき飲み物を配る。
(あ、これ……発泡酒系? てかグラス持ち方違うよ! 下の方持つの!
あぁぁ、日本人マナー講師魂がうずく……!)
出された料理に心が踊る。
(ああぁ……ローストビーフ! パイ包み!
ていうかバイキング方式最高!!持ち帰りできる!?)
王子「お口に合いますか?」
「はい、とても!」
(合うに決まってる! 前世ではスーパーの半額シール狙いで生きてたんだから!あれ、時間遅れると全て売り切れるのよね)
鐘が鳴る。
(やば、これ完全に終電アナウンス! 乗り遅れたらタクシー代がやばいやつ!)
エリシアは走り出す。
靴が階段に転がった。
(落としたーー! これ絶対フラグ立った!
いやでも靴で個人特定って無理じゃない?
サイズ一緒の人絶対いるよね!? )
翌日、王子は靴を持って国中を探索。
町娘「私も試してみたい!」
(いやいや、完全に試着サービスと化してる! )
やがてエリシアの番。
王子「……ぴったりだ!」
(自分の靴だからね。何で他の人は合わないの?おかしい!!)
王子「私の妃になってください」
「……はい」
(あー……また日本人特有の“とりあえずYES”で乗り切った。
転生しても空気読みスキルだけは健在かぁ……)
こうして灰かぶり姫は、“日本人転生ツッコミ王妃”となった。
(残業がなければ、前世よりマシかな……?)