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勇者の母、めっちゃ大変なんですけど!

 ベルゼス率いる狼魔族の軍隊との戦いから、早一か月とちょっとが過ぎようとしていた。

 その間、私達はまず、メリルローズ愚連隊のメンバーを埋葬し、その他の犠牲になった人々を埋葬した後、人手が全く足りていないポルトリースの復興作業に加わり、尽力していた。

 ポルトリースに住む戦える者達の多くが負傷した。それはすなわち、復興作業の主力となるべき者達が負傷したということだ。

 当初は、瓦礫の山が連なる光景に、虚しさや徒労感を覚える事もあったが、十日を過ぎたあたりで状況が一変した。

 周辺の町から、復興部隊が応援に来てくれたのだ。当事者のみでどんよりとした空気で行っていた復興作業が一転。元気な外部の者達が加わる事によって、精神的にも物量的にも復興作業が加速していった。

 そして、数日前に到着した王都マルクスから派遣された大復興部隊も加わり、港町ポルトリースは徐々に以前のような活気を取り戻しつつあった。

 私達は、そろそろお役御免といった所だ。


「私は家に帰るけど、アランはどうするの?」


 復興の手伝いの合間。

 私達は、簡易的に作られた野外食堂で軽食を取っていた。テーブルには私、アラン、セリン、ユニス。少し離れた場所に、愚連隊もいる。


「俺はまだ町の復興を手伝うつもりだ。魔王を倒すだけが勇者の役割じゃないだろ。ここには俺の力を必要としてくれる人々まだまだいっぱいいるからな!」

「そっか」

「それに、王都の帆船もぶっ壊れちまったしな。旧型を本土まで行けるように改修しているみたいだけど、もう少し時間かかるみたいだしよ」


 マルス王国領からグランゼシア本土までは、王都の巨大帆船しか渡航できないらしい。おおよそ、半日はかかる航海だそうだ。しかし、魔族に破壊されてしまったため、現状、アラン達は足止めされている状態だ。


「焦ってもこればっかりは仕方ないからな。ははっ」

「わたしはアラン君と一緒なら、何だっていいよ!」

「……そう」


 再会依頼、セリンはアランの元から片時も離れようとしなかった。アランも、嫌がるそぶりを見せない。

 ベルゼスを倒した後、ユニスからアランとセリンのあらましを聞いた。双方の誤解が解けてめでたしめでたし。

 なんだけどさ。

 とんだ茶番だったわ。

 こいつらに振り回された私の時間を返してほしいマジで。

 とは言っても、二人の活躍なくしてベルゼス討伐は成し得なかったわけで。


「アラン。もう絶対、セリンを置いてっちゃだめだよ。あと雷の聖剣も! 死ぬほどめんどいから!」

「分かってるって! 母さんに言われるまでもねえよ!」


 こいつ。

 誰が、届けてやったと思ってるんだ。

 やっぱユニスに殴らせるべきだったか。

 ちなみにアランには、寝る時も、用を足すときも、お風呂に入る時も常に雷の聖剣を持っているように言いつけてやった。これぐらい徹底しないとまたどこかに忘れてしまうだろう。馬鹿だから。

 ついでにアランには、私の正体を言ってない。疑うようだったらカミングアウトしようかと思っていたけど、今のところその素振りはない。馬鹿で良かった。


「ユニスは……どうする?」

「私は――」


 今回の旅で、一番心境の変化があったのはユニスだろう。

 王都マルクスで、ずっと暮らしていこうと考えていたユニスだったが、アランに聖剣を届けるために図らずも旅に出る事になった。

 私との二人きりの旅。

 後に弟子となる、メリルローズ愚連隊との出会い。

 ベルゼスとの死闘。

 そして、悲しい別れ。

 十五歳の少女の意識を変えるには、十分すぎる出来事だ。

 私は、ユニスがどんな選択をしても尊重するだろう。


「私も帰ります」

「え。帰るの!?」

「はい」

「マジで!?」

「はい」


 あれ。なんか想像してたのと違う。


「てっきり、勇者としての使命に気づいたので私も魔王を倒す旅に出ます、とか言うと思ってたよ」

「はい。そのつもりです」

「いや、わけわからんし!」

「一旦、家に帰ってから冒険の旅に出ようかと思っています」

「ああ。そういう事ね。ハロルド爺さんも心配だしね」

「それだけではありません。途中でメリルローズに寄って、弟子達の家族に直接、亡くなった事を知らせに行かなくてはいけません。身よりのない者達が大半でしたが、中には奥さんや子供、親御さんがいる人もいましたからね。短い間でしたけど、彼らは確かに、私の弟子でした。師匠としての最後の務めですよ」

「ユニス……」


 立派だよ。

 ナーシャさんにも見せてあげたかったよ。この、ユニスの姿を。


「ユニス殿っ!」「ユニス嬢っ!」「ユニス様っ!」「師匠っ!」


 少しは離れたテーブルから、一斉に声が上がった。生き残った、愚連隊のメンバーだ。総勢八名。立ち上がり、涙を浮かべている。


「ずっと考えていたんです。亡くなった弟子達に報いるためには、どうすればいいかって――」


 ユニスが、彼らに向けて言った。


「私は、亡くなった弟子達の意思を継ぎ、グランゼシアを救う旅に出ます。愚連隊の皆さん。どうか私に、力を貸してください。お願いします!」


 深く、心に響く言葉だ。


「ユニス殿! 儂ら、とうに心は決まっております故!」

「あったりめぇだろうが! 俺達、ユニス嬢に一生ついてくって言っただろうよ!」

「当然!」


 副隊長のヤドニス、チンピラ風のグロッサ、無口なドノバンが、涙を流して同意する。


「嫌って言われてもついていきますよ! ナーシャ様の事もほっとけませんしね」


 ディランには、私がポンコツだって事がバレている。だからこんな感じで、たまにイジってくる。

 残りの四名も誰一人、ユニスの懇願に断る者はいなかった。


「ありがとうございます! 私はもう二度と、仲間を失いたくはありません。なので、皆さんに今まで以上に厳しい稽古をつけさせていただきます。いいですね?」

「望むところであります故!」


 今、この瞬間から彼らは正式な仲間となったのだ。


「ところでユニス殿、儂らから一つ提案があるのですが」

「何ですか?」

「生前、モーガン隊長と話しておったのです。いつまでもメリルローズ愚連隊と名乗っているわけにはいかないと」

「はい」

「モーガン隊長は言っておりました。『俺らはユニス嬢に惹かれてお供をしてんだ。だったらよ――』」

「は、はい……」

「『ユニス親衛隊に改名すべきじゃねえか?』と。ユニス殿っ! モーガン隊長の遺言であります! どうか、ご検討を!」


 ユニスが困惑している。遺言ときたか。なんか、それはズルくないか?


「ほ、他の案は……!?」

「ありませぬ!」

「そうですか……。い、いいでしょう! あなた達は今後……わ、私の親衛隊として共に、冒険をする事と致しましょう!」

「感謝いたす!」


 ユニス親衛隊、誕生の瞬間だ。


「良かったね、ユニス。ぷぷっ」

「はっ。いい仲間を持ったなユニス!」

「もう! からかわないでよ二人とも!」

「ふふっ。モテモテだね、ユニスちゃん」

「セリンちゃんまで!」


 昼下がりの野外食堂が、和やかな笑い声に包まれる。


「今頃、ハロルドさん何してるかな……?」


 私達は明日、王都マルクスに帰る事にした。


 帰りの見送りは、盛大に行われた。

 ポルトリースを治める辺境伯や町の騎士団、教会の関係者、冒険者ギルドの支部長から受付嬢まで。町の人々もたくさんの詰めかけて見送ってくれた。

 ポルトリースの救世主とか、王国の守護神とか、私にはもったいないような声をかけてもらって、何だか照れくさかったけど悪い気はしなかった。

 実際に、それだけの事を成し遂げた事は理解している。

 しかし私は、褒めちぎられ、賞賛の嵐の中でも、どこか上の空だった。

 ほとほと、疲れていたんだ。

 旅に出てからは、激動の日々だった。

 もういいって!

 私は、スローライフがご所望なんだ!

 ナーシャさんに転生して、約三かヵ月。

 三ヵ月しか経ってないのに、激動すぎるでしょ。

 あと九年と九か月もこんな調子とか、マジで無理。

 アランもユニスも基本的にはいい子達なんだけど、癖が強すぎるのよ!

 天界にいるナーシャさんに愚痴りたい。


 勇者の母、めっちゃ大変なんですけど!

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