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魔爪フェンリル

 港からやや離れた沖合の上空に、二百体の黒鳥が所せましと旋回している。

 その中の一体の背に、鳥類を思わせる黒い大きな翼を持った魔族が、身を潜めて眼下の様子を覗いていた。


「あーあ。気になって様子を見に来てみれば……。ベルゼーちゃん、死んじゃったよー」


 十魔剣将第九席、バストロニー・バトロスだ。

 彼女の魔剣――魔鞭ナードラッドの能力は、空間転移。

 魔大陸から、グランゼシア南方の小大陸まで転移してきたのだ。


「負ける気はしてたけどねー。力は強くてもオツムが弱かったかんなー。まっ、よくやったよベルゼーちゃんは。十分儲けさせてもらったかんねー。ベルゼーちゃんに拍手!」


 虚空に鳴る、簡素なクラップ音。


「というわけで、今からうちは黒鳥二百体を瀕死のポルトリースにけしかける事もできるわけですが」


 ベルゼスとその配下の魔族により、多大な被害を受けたポルトリースにとっては、ダメ押しの一手になりうるだろう。


「無理でーす。だって、あの銀髪の女の子、さっきからちょいちょいこっちの方見てんのよなー。銀髪女にそっくりやん。冷徹な目とか。怖すぎ」


 以前にバストロニーに恐怖を植え付けたナーシャが、ユニスを通じてバストロニーを躊躇させた。

 ユニスもアランも、ベルゼスとの戦いで聖闘気は使い果たしている。

 黒鳥魔獣どもの討伐ランクはC程度だ。聖闘気なしでも負ける事はないが、苦戦は必死。ユニスの警戒心が、ポルトリースの命運を分けたと言っても過言ではない。


「帰ろ」


 黒鳥に乗って、のんびりと空の旅でもしながら帰ろうかと考えていたバストロニーだったが、異様な気配を察知し、眼下に視線を向けた。


「ふあっ!? 何なん? やばっ! ベルゼーちゃんやばすぎ! むむ? ベルゼーちゃんってゆうか、あれは――」


 確かに、ベルゼスの鼓動は完全に止まっていた。が、魔爪から魔瘴気が溢れ出し、ベルゼスを包み込み、その体躯を再び、地に立たせている。


「――グオオオオオォーンッ!」


 遥か上空にいても尚、耳をつんざく遠吠え。


「――ガアアアアァァ!」


 冷気の咆哮を空に放ち、氷の結晶がキラキラと広範囲に舞っている。まるでダイヤモンドダストだ。

 胸には、斜め十字に抉れた血の刻印。白銀に覆われていた毛並みはもはや、血色にまみれている。

 とうに、ベルゼスの意識は消失している。

 しかし――。

 ベルゼス――だったモノはその身を暴走させ、港の倉庫にぶつかり、家屋を破壊しながら町の中心部へと、駆けて行った。


「これは、魔剣が悪さしちゃってますな! ベルゼーちゃん改め、銀狼ちゃんね」


 魔爪フェンリル。

 魔大陸にある霊山の守り神といわれる神獣フェンリルを、加工して作られた魔剣である。

 宿主であるベルゼスが絶命した今、魔爪に封じられていたフェンリルの生存本能が、ベルゼスの死した肉体を強制的に駆動しているのではないか。

 バストロニーはそう、見立てた。


「あららー。娘ちゃん達、めちゃ焦ってるやーん。ウケる」


 港では、ユニスとアランの叫び声が聞こえる。


「――どうして!? 死んだはずじゃなかったのっ!?」

「――やべぇ! 町の方に行っちまった! 追うぞユニス!」


 上空で、きゃっきゃと笑い声を上げているバストロニー。


「さあさあ、面白くなってまいりましたー!」


 黒鳥から飛び立ち、自らの羽根で暴走した銀狼を追っていく。

 ユニスとアランもまた、追いかけていく。しかし、聖闘気を使い果たした二人を置いて、銀狼は家屋を破壊し、道端の躯を踏みつぶし、何処へ暴走していく。


 そして――。


 間もなく、銀狼は遭遇する。

 蛮族の集団を従えた、美しい銀髪の女性に。

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