アラン・グランフォースVSベルゼス・ベルガザード
全力で戦うってのは気持ちいいもんだ。
王都を旅立ってから、ここに来るまで相手した魔獣どもは、全力を出すまでもなく倒せていたからな。じいちゃんの杖だと、雷の聖剣術も使えなかったし。
俺が全力全開で戦うのは母さんとの模擬戦以来だから、二ヵ月ぶりだ。
雷の聖剣――ライトニングセイバー。
もう、絶対に忘れたりなんかしない。
だから、応じろ。力をだせ。
限界を超えて奴を、ベルゼスを倒せる程の力を俺に、貸してくれ。
ライトニングセイバーに稲妻が落ち、スパークする。
「うおおおおぉ、『超爆雷光斬!』」
ベルゼスの魔爪から、凍てつく魔瘴気が溢れ出し、濁った氷に覆われていく。
「糞ガキがぁ! 死ねっ! 『神速氷結魔爪!』
眩いホワイトイエローの聖闘気と、くすんだダークブルーの魔瘴気がぶつかり合い、弾けた。
「ぐはっ……!」
高密度に圧縮されたエネルギー同士が弾け、小爆発を起こす。俺は、いくつもの家屋を突き破り、吹っ飛ばされた。相打ちか。
「まだまだぁ!」
瞬時に起き上がり、瓦礫の散乱した地面を踏み切った。破壊された家屋の粉塵を突き抜け、晴れた視界の先には、氷の魔爪を振り下ろさんとするベルゼス。
「ガアアアァッ!」
「おらあっ!」
その場で、足を止めて何度も剣を打ち込んでいく。息を吸う間もない。瞬きなど許されるはずもない。一瞬の隙が、即、致命傷になるだろう。
痺れるぜ。
俺は、絶体絶命って場面が大好物なんだ。
魔爪を強打で弾き、距離をとる。横に走りジャンプし、港の倉庫を足蹴に、ベルゼスに突進をかます。『雷鳴一閃突き!』。
「ちっ!」
上方から降り注ぐ、高速の突き技。べルゼスの横腹をえぐり取る。着地した瞬間にもう一突き。その場を離れる。
「こざかしいわっ!」
「……っ! おわっ!」
十分に距離を取ったはずが、後ろから何かに掴まれた。咄嗟に振り返ると、ベルゼスの左腕がまるで巨木の根ように伸びて、俺の胴体を掴んでいた。
「アラウネの怪腕だ! はっ、バストロニーの奴、いい仕事しやがる!」
「くそっ……離せよ!」
「馬鹿め。――ほらよっ!」
「のわあああっ! くっ……。ぐはっ……!」
長く伸びた巨大な左腕が振り上げられ、地面に叩きつけられた。痛ぇ。この野郎。まだ離しやがらねぇ。
「はっはぁ! 自慢のスピードもこれじゃあ台無しだなぁ!」
何度も何度も叩きつけられ、最後にベルゼスは大きく飛び上がった。
「潰れろ糞ガキ!」
上空から、鞭のようにしなる左腕を大きく振り被って、地面に叩きつけられた。
「…………っ!」
効いたぜ。気を失ってしまいそうだ。全身を激しく打ち付けられ、身体が言う事を聞かない。この雷帝モードには、自己修復能力が備わっているが、時間差がある。しばらくは満足に動けそうにない。
俺は、母さんやユニスのように回復術は使えない。
使える術は、雷の魔術だけだ。
悠々と着地して、俺の様子を伺っているベルゼス。
「『ライトニングボルトッ!』
「見え見えだ。当たるかっ!」
「数打ちゃあ当たるんだよっ! 『ライトニングボルトッ! ライトニングボルトッ! 以下略!』」
よく母さんが言ってた。「アランは、火力は申し分ないんだけど、精度が問題ね」って。ユニスは「こうやるんだよ、お兄ちゃん」って、道端に置いた小石に、雷の魔術を当てていた。
俺は何度やっても出来なかったけど、解決方法を見つけたんだ。それは、要するに、その辺一帯を全部、稲妻で埋め尽くせば当たるという事だ。
「いくぜぇ! 『サンダーレインッ!』」
空から降り注ぐ、雷の雨あられ。俺をも巻き込んで、ベルゼスの周囲に落ちていく。逃げ場はどこにもない。
「き、貴様っ! 何てことしやがるっ! ――ガアアアアァ!」
「うひょー! 絶景だなこりゃ!」
天から降り注ぐ雷で、パワー充電。雷帝モードの俺に、雷は効かない。逆に、力が漲ってくる。
雷に打たれたベルゼスが、全身を痙攣させている。
「おかわりだ、わんこ野郎っ! 『スターライトサンダーッ!』」
ベルゼスの上方に展開された五芒星の頂点から放たれる、至極の雷。
「グアアアアアァ……!」
半分、消し炭の覆われたベルゼスから、ぷすぷすと煙が上がっている。
「はっ。しぶとい野郎だな!」
「――糞ガキ。貴様……俺を、わんこ野郎と言ったか……? この、誇り高き、狼魔族の長であるベルゼス様を、犬畜生呼ばわりしたのかああああっ!」
全身を覆っていた白い毛並みは、雷にうたれてチリチリになり、皮膚はただれ、全身にはおびただしい出血。
しかし、そんな傷などどうでもいいとばかりに、ベルゼスが怒気を露わに吠えた。
俺の言葉が、癇に障ったようだ。
「すまん」
どうやらベルゼスの地雷を踏んでしまったらしい。
言葉の暴力で傷つけるのは、俺の本意ではない。
そこは、素直に謝っておく。
「――許さん。許さんぞ、糞ガキがあああああっ!」
ベルゼスの咆哮が、大気を揺らす。魔爪から、溢れる魔瘴気。ベルゼスの身体を包み、姿を変化させていく。
「完全、顕現……。魔爪、フェンリルッ!」
魔障気に包まれた身体が、膨張していく。白い体毛が完全に身体を包み、人型から、四足歩行の巨大な獣へと変化していく。その大きさ、家屋一個分。前足だけでも、家の柱ぐらいはありそうだ。
「グオオオオオォーーンッ!」
白銀体毛に覆われた凶悪でしなやかな銀狼に変化したベルゼスの咆哮に、大気がひび割れた。圧倒的な魔瘴気の権化。俺は思わず、身震いした。
はっ。
ぞくぞくするぜ。
興奮しすぎて、震えが止まんねえじゃねえかよ。
聖闘気全開。
「いくぜ、狼野郎っ!」
ライトニングセイバーを叩き込んでいく。ここまでのデカブツ狩りは、初めてだ。セオリーなんか知らね。正面突破あるのみだ。
「――ガアアアアァッ!」
「うおっ!? やべっ……!」
接近した途端、ベルゼスの顎が大きく開かれた。押し戻される。凍てつく冷気の咆哮をまともに浴びてしまった。身体全面が瞬時に凍っていく。まずい、動けない。次の瞬間、
「ぐへっ……!」
ベルゼスの巨木のような前足が、俺を地面に縫い付けた。息ができない。
「糞ガキがぁ! そのまま死ねえっ!」
「……っ! がっ!」
魔爪が、俺の胸に食い込んでいく。巨大化したベルゼスの超重量を、押しのける事ができない。左腕が、僅かに動く。挙上する。
「……トリプル、サンダーッ!」
自分自身を狙って、雷を落とす。ベルゼスの魔爪が緩んだ隙に、脱出。
「はあぁ、はあぁ、はあぁ……。へへっ。危ねぇ危ねぇ……」
ベルゼスの冷気をくらってはいけない。筋肉や全身の組織の活動が低下して、雷帝モードのバフが消されてしまう。
「――極寒の世界を味わうがいい、『絶対零度領域』」
ベルゼスが息を大きく吸い込み、地面に向けて冷気を吐き出した。魔瘴気の混じった、不快な冷気が当たり一面を凍らせていく。空気がひりつく。ベルゼスの膨大な魔瘴気は、見渡す限りの銀世界を瞬時に作り出した。
「はっ。そりゃねえぜ――」
これでは、どこにいたって身体活動が制限されてしまう。
「グアァハッハッハァ、どうだ糞ガキ? 人間ごときが、満足に動けまい?」
「なんてな」
「ああん?」
ライトニングセイバーを地面に突き刺し避雷針代わりにして、五芒星の雷を落とす。
「『スターライトサンダーッ!』」
雷が地面を伝藩し、氷に覆われた領域一体を放電させる。
「貴様っ! ふざけたマネをっ!?」
「俺は賢いから知ってんだよ。汚ねぇ氷は雷を通すんだ。ははっ」
氷で鈍った身体機能を、雷で補充。
これで相殺だ。問題ない。
氷も少し溶けたし。
「よっしゃ。第二ラウンドといこうじゃねえかよ!」
「糞ガキがあっ! 殺す、コロスコロスコロス殺すっ! 引き裂いて噛み殺してくれるわ!」




