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熱血ヒーラー、セリン

 かくかくしかじかと、私は今の状況をセリンに話した。


「魔族の大群が来ていて、町には負傷者が溢れていると!?」

「そう。だから、セリンの力が必要なんだって! 起きたばっかで悪いんだけどさ、お願い! とりま、庭園には今にも死にそうな愚連隊の奴らがいるのよ。セリンが最期の希望なんだ!」

「分かったよ! すぐ行きます! 聖テレミス教会所属、神官セリン。やったりますよっ! うおおおおっ、燃えてきたぁ!」


 そう言って、セリンは私を置き去りにして階段を駆け下りて行った。


「……興奮剤が効きすぎていますなこりゃあ」


 完全にキャラ変してんじゃん。

 めそめそしてて、アランの事以外眼中になかったセリンはもういない。


「うん。怪我の功名ってやつね」


 今のセリンは、頼れる熱血ヒーラーだ。

 ちなみに、アランが来ている事は言ってない。

 セリンには負傷者の治療。アランにはヤバい魔族の相手に専念してもらわなくてはいけないからだ。

 セリンをアランの元に行かせたら、はっきり言って、この町は終わりだろう。


「さて、私も行くか」


 取り合えず水差しに残っていた水をがぶ飲みして、セリンの後を追った。

 頑張って階段を降りて、宿の入口扉を開けると、眩い光が目に入った。

 仕事が早い。

 セリンによる、聖光術の光だ。


「『サンライトヒールッ!』」


 受けているのはディラン。致命的だった傷が塞がっていき、青白かった顔に、赤みが戻っていく。


「おお、信じられぬ! 感謝の極みじゃっ!」 


 ヤドニスが感嘆の声をあげている。


「ううっ……。セリン様……あり、ありがとう……ございますっ!」


 死地を脱したディランが、涙を流して感謝を述べる。


「次っ!」


 セリンは、同様にグロッサとドノバンにも回復術をかけていく。


「あざますっ、光の姐さん! あんたは命の恩人だぜっ!」

「同じく」


 グロッサとドノバンにも、活気が戻っていく。


「応急処置だから無理しちゃだめだよ! ――さあ、ナーシャさん! 次の負傷者はどこですか!? わたしの戦場はどこですかっ!? みんなビンビンにしてやりますよっ!」

「お、おう。オッけ。なら――」


 ギラギラと血走った目で、唾を飛ばしながらセリンが言う。

 セリンの迫力に押されながらも、私は頼もしく感じていた。


「行くのは中央広場よ! あそこが一番の激戦地みたいだから。ユニスが先に行ってる!」

「ユニスちゃんが!? じゃあ、わたしも負けてられないな! 案内して、ナーシャさん!」

「よっしゃ、行こう!」


 中央広場への道は、破壊された家屋の瓦礫が散乱しており、道端には魔族にやられてしまった人々が数多く倒れていた。


「どんどんいくよ! 『サンライトヒールッ!』、みんな、助けてあげるからね!」


 セリンは目に付いた負傷者に片っ端から回復術をかけていく。


「いいね! セリン、絶好調じゃん! ――あっ、こっち来て! 負傷者発見!」


 こいつは確か、愚連隊のメンバーだ。蛮族の格好をしているし、顔も知っている。名前は知らない。


「いくよー、『サンライト――』」


 突然、セリンが回復術を中断した。

 どうしたのだろう。険しい顔をしている。


「あ、あれ? 疲れちゃった?」

「いえ」

「だったら早く回復術かけてやってよ!」

「意味ないですよ。この方、もう死んじゃってますから」

「え。あ……そ、そっか……」

「死んだ人を生き返られる事は、わたしには出来ません。すみません」

「いや……ごめん。そうだよね。ちゃんと確認すればよかった」

「大丈夫です。――さあ、次の負傷者はどこですか? さっさと行きましょう!」

「うん」


 私達は、負傷者を発見しては回復させつつ、中央広場へ向かった。


 ――くそっ。


 死んだ愚連隊のメンバーの顔が、フラッシュバックする。

 彼が笑った顔を知っている。うまそうにご飯を食べている姿を知っている。仲間達と談笑している姿を知っている。ユニスに稽古つけてもらってボコボコにされている姿を知っている。私やユニスを慕ってくれていた事を知っている。

 名前は知らない。

 聞いたはずだけど、思い出せない。


 ――くそくそくそっ。


 私は、自分の頬を思いっきりビンタした。


「おおっ! ナーシャさん、気合入ってますねぇ!?」

「まあ、ね。ふぬけた性根を入れ替えないと」


 いい加減な私に対して怒っているかもしれないけど、ちょっと待ってて。

 後でちゃんと埋葬するし、墓標の前で土下座するから。嫌かもしれないけど、名前を呼んで、悲しませてもらうから。 

 後悔先に立たず。

 私は、無我夢中で走った。

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