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雷帝

 ベルゼスの魔爪が、眼前にせまる。

 一瞬後に訪れる、絶対的な死。

 ごめんなさい。

 私は守れなかった。

 町の人も、まつりさんとの約束も。


 深い悔恨の念に駆られ、全てを諦めかけた時。

 まるで稲妻のような剣閃が、目の前の絶望を打ち払った。

 私は安堵した。

 もう、大丈夫だ。


「遅れてすまねえ。後は俺に任せろ、ユニス」

「……遅すぎて危うく死ぬ所だったよ」

「はっ。この程度でお前が死ぬわけねえだろ」

「もう! 私がどれだけ苦労したと思ってるの! 相変わらずのんきなんだから!」


 二か月しか経っていないのに、その後ろ姿はとても懐かしく、また、以前よりも頼もしく見えた。右手には雷の聖剣――ライトニングセイバー。剣身からホワイトイエローの聖闘気がほとばしっている。

 我が兄、アラン・グランフォースが、窮地の私を助けてくれたのだ。


「誰だ、貴様?」


 私への、絶命の一撃を弾き返されたベルゼスが、兄への警戒心を露わにする。


「おう。俺は、こいつの兄貴だ」

「兄だと? ……そうか。貴様も銀髪女のガキか。確かに、同じ臭いがしやがる」

「妹が世話になったな。ここから先は、俺が相手だ」

「それはいい。ちょうど退屈してたところだ。糞ガキ、貴様から八つ裂きにしてやろうかっ!」

「ちょっと待て。ユニスに話がある」

「ああん?」


 兄は、相変わらずのんきでマイペースだ。ベルゼスの殺気もその飄々とした態度でいなしてしまう。


「ユニス。まだ戦えるよな?」

「もちろん!」

「だよな。俺達、やわな鍛え方はしてねぇもんな。――行けよ。お前を慕ってる奴ら、すげぇ頑張ってたぞ。暴君ユニス万歳、とか言ってな。ははっ」

「……っ!」


 愚連隊のみんな……戦ってくれてるんだ。


「けど正直、戦況は最悪だ。母さんもいたけど、なんかすげぇ調子悪そうだったしな。まあ、母さんに限って死ぬ事はないと思うけど」

「まつ――お母さんに会ったの!?」

「ああ。ちらっとな。雷の聖剣持ってなかったし、適当に魔族の奴ら蹴散らしてすぐにこっち来たから一言しか話してはないけどよ。つー事で、急げユニス。お前の一秒が、町の命運を左右する」

「分かってる! お兄ちゃん、死なないで! 後で話があるから!」

「はっ。小言は勘弁してくれよ?」


 そう言って、私はベルゼスとの戦線を離脱した。この場は兄に任せておけば大丈夫だろう。自然とそう思った。

ベルゼスは途轍もない強敵だ。現状の私が居ても足手まといになるだけだ。

 私には私の戦場がある。私にしか成せない事がある。


「持ってけ!」


 去り際の私に向けて、何やら得物が投げられた。


「じいちゃんの杖だ! 意外と使えるぞ!」

「ありがとう!」


 祖父が愛用していた杖をキャッチし、私は港を後にした。

 

 四方八方、あちこちから無数の魔族の気配を感じる。

 気配を感じた側から、手当たり次第に狩っていくことはできるだろう。

 でも、最善策はそれじゃない。

 兄は言った。

 私の一秒が町の命運を左右する、と。

 私が最大限の力を発揮するためには、風の聖剣が必要だ。

 まずはまつりさんと合流しなければいけない。

 調子悪そうだった、って言葉も気になるし……。

 兄の口ぶりからすると、まつりさんは宿の近くにいるはず。

 私は、宿泊していた宿に向けて走り出した。


 ※  ※  ※  ※  ※

 

 ユニスが港を離れて駆けて行った。

 ユニスは十分に役割を果たしたよ。

 慣れない雷の聖剣で、こいつをどこにも行かせず留めておいたんだからな。こいつが放たれていたら、町はすでに壊滅していた事だろうよ。

 こいつを町に放ってはいけない。

 ここで仕留めなくてはいけない。

 ユニスが、決死の覚悟で俺に繋いでくれた役割。

 俺は兄として、勇者として全うしてやるよ。


「話は終わったか? 糞ガキよ」

「おう! 悪ぃな。待たせちまって!」

「ふん。貴様の方が楽しめそうだからな。雌ガキには興ざめだ。威勢がいいだけの雑魚が」

「ユニスは雑魚じゃねえ。あいつは俺より強ぇよ」

「ならば貴様も雑魚だろう」

「雑魚がどうか試してみろよ? 度肝抜かれるぜ?」

「ふっ。口だけじゃないといいがな!」

「そうだな。今からお前の身体に教えてやるよ! いくぜっ!」


 出し惜しみはしない。

 本来の実力ではないとはいえ、ユニスを圧倒した奴だ。

 始めから全力でやってやる。

 元より、俺は加減ってやつが苦手なんだ。

 俺の愛剣、雷の聖剣――ライトニングセイバー。死ぬほど振った剣だ。やはり手に良く馴染む。こいつを忘れちまうなんて、全くどうかしてるぜ俺は。


「うおおおおぉ!」


 すでに解放状態にあるライトニングセイバーに限界まで聖闘気を送り込み、天に掲げる。

 雷の聖剣術だって、ユニスの方が習得は早かった。正直悔しかったけど、俺は諦めなかった。死に物狂いに鍛錬して、そしてついに至ることができたんだ。

 解放状態にある聖剣を、もう一段階、さらに解放させることに。

 天に掲げたライトニングセイバーに稲妻が落ちる。


「極限解放! スタイル、雷帝サンダーエンペラー!」


 身体から、雷の特性を持ったホワイトイエローの聖闘気がバチバチと放電している。髪は逆立ち、脳が沸騰し、筋肉がきしみ、心臓が暴れる。全身の細胞組織が過度の電気信号によって悲鳴をあげている。


「痺れるぜぇ……!」


 その場に立っているだけでも、全身の細胞組織が破壊されていく。同時に活性化された臓器と聖闘気によって高速で修復されていく。破壊と修復。その過程において、莫大なエネルギーが生産されていく。


「なんだ……その姿は?」

「俺の本気モードだ! さっさとやろうぜ! 燃費が悪ぃんだこれ!」

「面白い。――十魔剣将第八席、ベルゼス・ベルガザートだ! じっくり味わって殺してやろうっ!」

「勇者、アラン・グランフォース! お前を倒し、やがてグランゼシアを救う者の名だ!」

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