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転生直後に死にかける

「……んっ……まぶし……」


 あまりの眩しさに、目を眇める。

 目線の先の先には太陽っぽい惑星。私は地面に仰向けに寝ていて、全身で陽光を浴びていた。

 ああ。

 私は、本当にナーシャさんに転生したんだ。ここはグランゼシアの地。マルス王国の王都近郊の平原だ。

 なんだかドキドキ。

 高鳴る胸の鼓動。

 これからナーシャさんとして、第二の人生が始るんだ。

 ドキドキ。ワクワク。ドクドク。ズキンズキン……。

 ズキンズキン?


「あ、え……。痛い。あれ? 痛い痛い痛いっ! ちょっ、え? 胸が……。はあ、はあ、はあ……。い、痛いんですけどっ!?」


 身体を起こそうにも痛みで起きられない。

 痛む胸に手をやると、べっとりと血が付いていた。


「死んじゃうってっ……!」


 どうしてこうなった!?

 聞いてないよー。

 私、転生直後に死にかけてるんですけど!?

 ナーシャさんからの申し送りでは、家族の事とか、グランゼシアの事とか、ナーシャさん本人の事とか色々聞いたけど、これは聞いてない……。


 ――いや。


 言ってたわ。

 そういえばもっと前に。

 魔族と相打ちになったって。

 天使は確か、心臓が一瞬止まったとか、急所は外れてたとかなんとか。

 でもそれって、瀕死の状態には変わりないって事だよね。

 一番重要な事。

 ナーシャさんに転生した直後。瀕死の状態からどうすればいいのか相談するの忘れてたわ。


「詰んだ……」


 死。

 痛くて、ここから一歩も動けない。身体を起こすことすらできない。

 せっかく意気揚々とグランゼシアにやってきたのに、十年生き延びるどころか、あと数分で死にそうなんですけど。

 ああ、どんどん血が流れていく。

 意識もぼんやりしてきた――。

 ――――。


「――――お母さんっ! お母さん、しっかりして下さい!」


 ――――んあ? 誰?


「死んじゃだめっ! ほら、起きてっ!」


 頬を何度もビンタしてくる女の子。私の事をお母さんって呼んでいる。この子はあれだ。ナーシャさんが言っていたもう一人の子供、娘のユニスだ。


「――ユニス……ちゃんだよね……? ど、どうして、ここに……」

「お母さんが買い物の途中で怖い顔して急にいなくなったから探しに来たんですよ!? 門兵さんに聞いて急いで来たの!」

「そう、なんだ……」


 ユニス。

 ナーシャさんによく似ている銀髪で可愛い女の子だ。短めのボブが似合ってる。


「話は後です。早く止血して下さいっ!」

「止血……? どうやって……?」

「もう! 聖闘気を患部に集中させるの! 忘れちゃったの? お母さんが教えてくれたんですよ!?」

「聖闘気……」


 そういえばナーシャさんが申し送りで言ってたっけ。

 ナーシャさん達は、大昔にグランゼシアを救った英雄たちの子孫で、聖闘気という特別な力が使えるんだって。

  聖闘気は、身体中を循環している聖なる力であり、魔を討つ力があるとかなんとか……。その運用法は多岐に渡っていて、魔を討つ力はもちろんの事、他には怪我の治療にも使えるとか言っていた、と思う。


「ほら、早く!」

「う、うん。……身体中にある聖闘気を、胸の怪我に集めて……」


 ――――。


「む、無理だよー。全然……わかんないよー……」

「お母さん!? まずいな、痛みで混乱しちゃってるのかな。口調もいつもと違うし……。いいよ、私の聖闘気を直接送り込みますっ!」

「その方向で……よろ……」


 ユニスの両手が、ぼわっと白く煌めく光に包まれて、私の胸に当てられる。

 温かい光。身体の芯から痛みが取れていく。


「ふう……。大分、楽になったでしょ? いっぱい送っといたからね」

「……うん。ようやく生き返った気分」

「何ですかそれ。変なお母さん」


 額に汗をかきながら、一生懸命、聖闘気を送ってくれたユニス。まだ胸に違和感はあるけど、これぐらいならなんとか歩いて帰れそうだ。


「ありがとう。我が娘、ユニスよ」

「あ、は、はい。どう、いたしまして?」


 立ち上がり、服の汚れを払う。胸の血糊は仕方ない。

 目線が頭一個分、上昇している。ナーシャさんは私よりずいぶん背が高い。たぶん百六十センチ以上は余裕である。銀髪が、はらりと肩に落ちた。綺麗な髪。

 わあ。

 私、まじでナーシャさんになってるじゃん。


「そんじゃ、帰ろうか」

「え、もういいの? あの、それよりお母さん、一体何があったのですか? 本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。私の名前はナーシャ・グランフォース。明日は我が息子、アランの十六歳の誕生日で私達はさっきまで、夕飯の買い物をしていたんだよね。うん。帰って夕飯の支度をしよう。手伝ってね、ユニス」

「あ、はい。いいですけど……。今晩は、お母さんが腕によりをかけてつくるわって言ってたような気が……」

「細かいことはいいのよ。さあ、ユニス。家まで案内してちょうだい」

「案内!? もう、何なんですか、お母さん!? 頭打っちゃったの? ねえ、本当に大丈夫ですか!?」

「大丈夫だって。ほら、行くよ」

「は、はい……。わかりました」


 腑に落ちない様子のユニスだが、とりあえず放っておく。

 私には、ナーシャさんとの大事な約束があるから、こんな所でぐずぐずしている暇はない。早く帰って夕飯の支度をして、明日に備えなければいけない。

 私は、ユニスの案内でマルス王国の王都、マルサムの町へと向かった。町に着くと、これまたユニスの案内で買い物の続きをして、ナーシャさんの家に向かった。

 夕飯の支度も、ほとんどユニス任せ。

 もうほとんど全部、ユニスにやってもらった。

 一応言っておくけど、これはナーシャさんが発案したことなのだ。

 ユニスはとてもしっかりした娘で、この国の文化にのっとって家事全般は幼い事から完璧に仕込んであるとのことだ。すごいよね。まだ一五歳なのに。

 時折、ユニスは「やっぱりお母さん、いつもと違うよ」とか、「何があったのか教えて下さいよ」とか、心配そうに私に聞いてきたけど、ちょっと怪我しちゃって記憶が曖昧なんだよね、とか言って、とぼけて乗り切った。

 下手に説明すると、きっと墓穴を掘ると思ったから。

 そんなこんなで夕食の時は滞りなく終わり、そして夜が明けた。

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